エスメラルダ

 サラの部屋を辞した後、プリシラはタップと共に部屋には帰らず、学校の裏側に足を運んだ。タップはプリシラの腕の中で、不思議そうに言った。


『プリシラ。何で部屋に帰らないんだ?』

「それはねぇ、これからお姉ちゃんに会うからです」

『げぇっ!プリシラの悪魔のような姉と?!俺、まだ心の準備ができてねぇよ』

「変な脚色しないでよタップ。私のお姉ちゃんは悪魔じゃないわ?優秀な魔女なのよ。落ちこぼれの私と違ってね?」


 苦しそうに笑ったプリシラを、タップは不思議そうに見上げた。タップが何か言おうとした時、突然プリシラたちの目の前に空間の穴が出現した。


 これは高等な空間魔法だ。黒い空間から、黒く高いヒールのブーツが見えた。続いて、漆黒のドレスを着た黒髪の美女が現れた。


「お姉ちゃん!」


 プリシラは嬉しくなってエスメラルダに抱きついた。エスメラルダはプリシラの頬に再会のキスをすると、艶然と微笑んで答えた。


「プリシラ、おめでとう。召喚士になれたのね?」

「ええ。お姉ちゃん、紹介するわ。私の相棒、タップよ?」

「まぁ、この毛玉がそうなの?」

『毛玉とは言ってくれるなぁ!このアマ!』

「あら、プリシラ。この毛玉何か怒ってない?」


 プリシラは頬が引きつった。エスメラルダとタップは出会って早々にケンカ腰だ。姉が霊獣語がわからないのがせめてもの救いだ。プリシラはタップを落ち着かせるように背中を撫でてから言った。


「タップは高貴な霊獣なの。これからはタップが私を守ってくれるわ?だからお姉ちゃん、そんなに心ぱ、」

「それはいけないわ!いくら霊獣が守ってくれているといっても、世の中は危険でいっぱいなの!いい事、プリシラ。もし困った事があったら、すぐに通信魔法具でお姉ちゃんに知らせなさい?さもないと、わかっているわね?」

「・・・。はい、お姉ちゃん」


 エスメラルダは胸元のペンダントつまみ上げて言った。プリシラにもおそろいのペンダントが輝いている。これは通信魔法具といって、声をかければすぐに会話ができる魔法具なのだ。


 プリシラはこのペンダントを持たされ、逐一姉に状況を報告しているのだ。


 プリシラの返事に、エスメラルダはホッと息をはいた。どうやら安心してくれたようだ。


「じゃあ、お姉ちゃんは仕事に戻るから。毛玉、プリシラの事をしっかり守るのよ?」


 エスメラルダはせわしなく別れのあいさつをすると、空間魔法を発動させて帰って行った。


『俺、プリシラの姉ちゃん嫌い』

「そんな事言わないでよタップ。私のたった一人の家族なんだから」


 タップのぼやきに、プリシラは優しくお願いした。


 



 

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