卒業

 プリシラたちはサラの部屋に集まりぺちゃくちゃとおしゃべりをしていた。これから将来を共に生きていく精霊と霊獣と共に。


「あーあ、もうすぐ卒業かぁ。なんか実感ないなぁ」


 チコはサラのベッドに我がもの顔で座りながら言った。


「本当ね。私たちが召喚士養成学校に入学して、もう五年をも経ったのね」


 部屋の主であるサラは、チコのとなりにすわり、ひざの上にいる自身の契約霊獣であるミニチュアダックスの背中を撫でながら答えた。


 プリシラはベッド向いのイスに座りながら、ひざの上に乗っているタップの背中を撫でながら言った。


「チコとサラは卒業したら冒険者になるんでしょ?」

「もちのロンよ!冒険者になればイケメンと出会える確率高いしね!」

『もう、チコったら。動機が不純なんだから』


 いさんで答えるチコの肩に乗っている契約精霊のプッチが苦言を言う。


「イケメンは置いておいて、冒険者になれば色々なところを旅してまわれるわ」

『そうね、私もサラと一緒に色々なところを旅してまわりたいわ』


 チコの言葉にサラが同調した。サラの火魔法の契約霊獣のティアがひざから起き上がって言った。


 プリシラはそんな親友たちを見て、少し寂しそうに言った。


「これからは皆、すぐには会えなくなってしまうわね?」


 プリシラの言葉に、チコもサラも下を向く。プリシラのひざの上で寝ていたタップはスクッと立ち上がって言った。もっともタップの足はとても短いので、あまり高さは変わらない。


『心配するな、プリシラ。俺とプッチとティアはリンクしているからな。すぐに連絡できるぞ?』


 リンクとは、精霊や霊獣が心を通わせる魔法だ。リンクをすれば、どんな遠くにいても連絡が取れるのだ。タップの言葉に、プッチとティアがうんうんとうなずく。


『それにな、俺は偉大なる風魔法の霊獣だ。どんな遠い場所でもひとっ飛びだからな。だからプリシラは寂しがる必要は全然ないんだぞ?』


 タップは一生懸命プリシラを慰めようとしてくれているのだ。プリシラは嬉しくなって、タップの背中を優しく撫でながら、ありがとうと言った。


「頼んだわよタップ!私とプッチが困ってたらすぐに飛んで来て?」

『そうね、そうね』


 チコとプッチがニコニコ笑いながら言った。タップは鼻をプウプウ鳴らしながら答えた。


『本当に困った時だけにしろよ?適当な事で呼んだら怒るからな』


 タップの苦言に、女たちはケラケラ笑った。この場にいるのは、タップ以外すべて女性なので、男のタップはどうしてもからかわれてしまうのだ。


 ひとしきり笑うと、サラがプリシラに言った。


「ねぇ、プリシラ。やっぱり冒険者にはならないの?」

「そうね、冒険者になって色々な場所を旅するのも素敵だけど、私は王都に行って自分にできる仕事がしたいの」


 サラの言葉にプリシラは苦笑しながら答えた。サラは、そうねと言って、少し寂しそうに微笑んだ。チコがサラの肩をひじでつついて言った。


「プリシラは冒険者なんて危ない職業は無理よ。何たってあの魔女がいるんだから」

 

 チコの言葉に、サラはそれもそうねと苦笑する。魔女とは、プリシラの実の姉エスメラルダの事だ。エスメラルダはとても妹思いの姉で、プリシラを傷つけようとする者に牙をむき、傷つけようとしない者にも威嚇するのだ。


 そのためプリシラの友人であるチコとサラは多大なる被害をこうむっていたのだ。プリシラはチコとサラに深々と頭を下げて言った。


「チコ、サラ。改めて姉のこれまでの所業をおわびするわ」

「やだ、プリシラ。気にしないでよ。私、貴女のお姉さん結構好きよ?面白くて。私もお姉さんの気持ち少しわかるわ?だってプリシラって、浮世離れしてるっていうか、世間知らずっていうか。とにかく心配なのよ」

「そうよ、プリシラ。初めて貴女に会った時、どこのお姫さまがやって来たのかと思ってしまったわ。お姉さんはプリシラの事が心配で仕方ないから、あのような奇行に走るのよ」


 チコとサラのなぐさめに、プリシラの頬がひきつる。プリシラのひざの上のタップが不思議そうに聞いた。


『プリシラ。お前には姉がいるのか?』

「ええ。三つ歳上の姉がいるわ。今度タップにも紹介するわね?」


 チコがニヤニヤ顔でチャチャを入れる。


「タップ、気をつけなさい?すっごいインパクトのあるお姉さんだから」

『おいおい。そんな前振りされて、会いたいわけねぇだろ』


 タップは嫌そうにプウッと鼻を鳴らした。その場にドッと笑いが起こった。





 

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