1章:田舎町での出会い
プロローグ
乾燥した赤褐色の大地を〈クワイン・ニヒル〉が群れをなし進軍していく。
奴らが飛行時に響かせる独特な腹を突くような重低音の不協和音を奏でながら一つの波となって襲い来る。
『こちら<アルファチーム>。敵軍団、こちらの射程に入った。繰り返す。射程に入った。オバー』
赤褐色の大地に這う大蛇のように長く伸びた塹壕とその背後に広がる要塞化された防衛陣地と背後に広がる重砲陣地。
こちらCQ。射撃開始の合図を待て」
そう言った通信は背後を振り返り、タバコを吹かしながら巨大な戦略地図が表示されたモニターに詰め寄る参謀士官たちに声を掛ける。
ここは前線から目と鼻のさき、僅か2キロ後方に位置するかび臭い古城の一室を無理やり改造して造った前線司令室。
右頬に真っ直ぐな傷跡を携えた参謀総長が部下が動かしていく地図上の敵位置を示す置物を睨みつけるながら重く閉ざした口を開く。
「全重砲連隊に通達。照準座標、17:63。15秒後に統一斉射」
「了解。全重砲連隊に通達する。照準座標は17:63と繰り返す17:63。17:63。15秒後に統一斉射繰り返す15秒後に統一斉射」
無線機から伝わってきた命令文を聞いた重砲陣地の戦闘員が慌ただしく動き出す。
天に向けられた無数の砲身が一斉に回転を始め指定された座標へと砲弾を確実に叩き込むべ狙いをつける、開いた薬室に砲弾が詰め込まれ分厚い砲閉鎖機が速やかに閉ざされる。
時計の秒針は正確に時を刻む。
ジリジリと迫り来る巨大な津波が地平線を埋め尽くし、重砲郡の有効射程圏の奥へと食い込んでくる。
「統一斉射撃開始まで。3。2。1。撃ち方始め!」
班長の怒号に近い声と同時に展開された無数の火砲が火を噴き上げて砲弾を射撃する。
「効力射を継続。ありったけの砲弾を奴らに叩き込んでやれ!前線に展開中の全軍に通達!自由射撃を許可する。奴らに前線を突破させるな!」
火砲が火を噴き上げて無数の榴弾があらかじめ設定されていたキルゾーンに侵入してきた〈クワイン・ニヒル〉どもに降り注ぎ鉄屑へと変えていく。
砲弾が地面を抉り取る轟音を合図に長大な塹壕に籠もっていた特技兵たちも動き出す。
砂塵対策で被せていた防塵シートを引き剥がし、あらかじめ展開していた固定式無反動砲の射撃準備を整える。
空中で炸裂した榴弾の破片を避け地上スレスレを飛行する〈クワイン・ニヒル〉へ無反動砲の照準が向けられ、撃発。
強烈なバックブラストを伴って撃ち放たれた対戦車誘導弾が瞬時に音速を超え〈クワイン・ニヒル〉の不気味に輝く胴体を引き裂き地面に叩き落としていく。
「アルファポイント。想定された敵性圧量許容範囲内」
「ベータポイント。アルファに同じく許容範囲内」
「シータポイント。敵性圧圧量-5。浮いた敵戦力の一部がデルタポイントへ転進!」
モニターに映し出されていた巨大な戦略地図上を大小さまざまな無数の矢印が走り抜け『デルタポイント』と書かれた防衛ラインへ集結していく。
「デルタポイントから緊急通信!敵性圧量+4。増援要請です!」
「後方に控えている予備機甲戦力並びに強化歩兵戦力をポイントデルタへ向かわせろ!」
参謀士官の一人がそう言い放ち、それを聞いた通信士が即座に指令を伝達する。
「しゃあ!行くぞ野郎ども!」
6脚の機甲戦車がスリープモードからアクティブモードへ移行し、車体背部の排熱口から高温の蒸気を噴き上げて6脚で地面をこすりながら砂埃を巻き上げ駆け出していく。それに追従していくように強化歩兵を満載にしたトラックが大地を蹴り上げ走り出していく。
おびただしい数の兵士が前線に投入され、刹那の合間にすり潰されていく。
絶え間なく降り注ぐ榴弾が母なる大地を粉砕し、〈ニヒル・ノート〉どもを鉄屑に変えていく。
〈クワイン・ニヒル〉どもがなびかせる8本の近接格闘アームが強化歩兵のスケルトンアーマーごと下部の脆弱な肉体を引き裂いていく。
強化歩兵が抱える対軽装貫徹ライフルが火を噴きながら劣化ウラン弾の弾雨を〈クワイン・ニヒル〉に叩き込んでいく。
孤立した機甲戦車に群がる〈クワイン・ニヒル〉が一瞬で機甲戦車を横転させ、砲塔を引き抜き内部の兵士を引きずり出しなぶり殺す。
『こちらCQ。残存する全軍に通達する。戦線を死守せよ。繰り返す当該防衛戦線を断固として死守せよ』
撤退を許さぬ無慈悲な指令は電波となって戦場を駆け抜けていく。
「アルファポイント。敵性圧量上昇!+7許容範囲値を大幅に超えています!」
「ベータポイント。アルファに同じく敵性圧上昇!+4!」
「シータポイント。敵性圧圧量+2。前方より新たな敵性反応多数出gッ!大型反応
多数補足!これは。。。!〈パピリオ・ニヒル〉です!」
前線よりも遙か彼方、地平線さえ越えた敵支配域を蝶を思わせる巨大な半透明の膜を広げた巨大な〈パピリオ・ニヒル〉が優雅に空を舞っている。
その腹の中に大量の爆弾を抱えた〈パピリオ・ニヒル〉の長距離爆撃機編隊は無数の〈クワイン・ニヒル〉に護衛されながら人類軍最大の防衛ラインである「ギガントライン」への爆撃、ならびにその背後に控える帝国最大の工業地帯である「アッシャルト重工業地帯」への破壊を目指し巨大な胴体で宙を切り裂き猛進していく。
「ば、ばかな!レーダーに反応は無かったはずだ!偵察衛星の事前索敵でもこの戦域への配備は確認されていかったはず!いつの間に接近を許していたんだ!クソが!」
参謀士官の一人がそう零し怒りにまかせ机を叩く。
「巡航ミサイルを発射しろ!何としても奴らを前線に近づかせるな!」
別の参謀士官の命令により要塞化されら防衛陣地に設置されている巡航ミサイルが轟音と白煙を伴って天高く打ち上げられる
「無駄だよ」
「なに?!」
すでに多数の爆炎が生じさせた黒煙で真っ黒に塗りつぶされた大空を打ち上げられた数発の巡航ミサイルが駆け抜けていく。
自身に内臓されらジャイロコンパスを頼りに、あらかじめ入力されら座標めがけて猛進していく。
「〈パピリオ・ニヒル〉が出てくると言うことは〈クワイン・ニヒル〉も随伴しているはずだ。巡航ミサイルなど撃つだけ無駄だ!」
キラキラと輝く粉を撒き散らし、辺り一帯に強力な電波障害をまき散らしながら連なる山々を軽々飛び越える、競合エリアの上空を優雅に舞う〈パピリオ・ニヒル〉に狙いを定めた巡航ミサイルが進路を変え突撃する。
刹那、飛翔体の接近を検知した〈ニヒル・ノート〉たちが巡航ミサイルめがけ突撃し、近接格闘アームを目一杯展開し、盾を形成し意図も容易く巡航ミサイルから<パピリオ・ニヒル>を護衛する。
「じゅ、巡航ミサイル。反応ロスト。恐らく撃墜されたものかと」
「クソが!」
ゴンっと机を殴りつける音が響き渡り、机に置かれたガラスのコップの水面に波紋が揺れる。
「落ち着け。いくら怒鳴っても状況は良くならないぞ」
ワラワラと騒ぎ始める参謀士官たちを一喝し、参謀総長が咥えていたタバコを灰皿に押しつけ立ち上がる
「秘匿回線を開け!全軍には引き続き死守命令を継続発令!奴らが来るまで時間を稼げ!」
その号令に動かされ、ざわめき始めていた参謀士官たちが混乱した前線状況を確認すべく一斉に動き出す。
秘匿回線が開かれ、すぐさま専用の通信機器を取り上げた参謀総長はマイクに向けて指示を飛ばす。
『作戦が変わった。敵支配域競合エリア付近で〈パピリオ・ニヒル〉が確認された。諸君らはこれより保有戦力を分割し戦線防衛ならびに競合エリア浅部を飛行する〈パピリオ・ニヒル〉を撃破してもらいたい。出来るな?〈グレイブ・ブリンガー〉』
専用のグローブを嵌めながら回線から流れてくる参謀総長の離しを聞いていた少女、〈グレイブ・ブリンガー〉の名を冠するパイロットがスティックに付いている応答ボタンを押し込みながら声を発する。
「こちら〈グレイブ・ブリンガー〉。ミッションを承認した。分割する戦隊割はこちらで決めても?オーバー」
「いや。すでにこちらで選抜した。以下の隊員は前線防衛の為にn・・・・・・・・」
参謀総長の話しを聞きながしながら愛機のエンジンを始動させる。
狭苦しコクピットを挟み込むように配置されらツインエンジンがフライトホイールに接続され、回転数を上昇させていく。
サブモニターを引っ張っだし、機体情報を軽く見流し表示をミッションファイルに切り替える。
「以上が防衛ライン守備隊のメンバーだ。なお今呼ばれなかった者に付いていは〈グレイブ・ブリンガー〉に従い、競合エリア浅部からこちらに侵攻中の〈パピリオ・ニヒル〉の迎撃に上がってくれ。以上だ。この防衛戦に人類z」
参謀総長のどうでもいい演説をよそに機体の駐機形態を解除し、モニター眼下に映るライトスティックを持った誘導員の指示に従い簡易滑走路へと前進させる。
(緊張してるか?〈グレイブ・ブリンガー〉)
もう死んだはずの大隊長の声がどこからともなく聞こえてくる。
「貴方こそ、怖じ気づいたんじゃなですか?〈
(ハハハハハ。言うよになったじゃないの?ヒヨッ子が。ああ私は緊張してるし怖いね)
とうとう頭がおかしくなったのか、それか元からこうだったのか。此処にいは居ないはずの大隊長の答えに驚いた。
私よりも強い大隊長の口からからそんな言葉がでることが信じられなかった。
(なにもできずに死ぬことが。誰かの為の死ぬんじゃなくて、誰かを殺して行き抜くことが一番怖いね)
「それには私も同感です」
『君たちなら必ずや任務を遂行し生還してくれると信じている。「ブランデンブルグ隊」全機発進!』
その号令と伴に眼前の巨大な2本のレールが特徴的な「
誘導員の指示に従い、愛機をレールの間に挟み込み、安全ベルトを締め上げる。
『接続完了。磁界展開中、展開完了まで残り10秒』
管制官の柔らかい声が鼓膜を揺らし緊張を解いてくれる。
『磁界形成完了。パイロットコールどうぞ!』
『〈グレイブ・ブリンガー〉出るぞ!』
スティックを押し込み、ジェットエンジンの回転数を限界まで高めフットペダルを力のかがぎり踏み込む。
刹那の浮遊感とそれを上書きする程の強烈な衝撃が全身を駆け巡り、機体に接続されている射出機が火花を散らしながらレールの上を駆け登り総重量40トンもの鉄の怪物を空へと羽ばたかせる。
素早く左手側のレバーを引いて浮遊コイルを展開。電磁場を瞬時に機体外周へ形成し、地球の地磁気へと絡めつけ重力に抗い「FSTS」によって乗せられた初期化加速で機体を高度まで上昇させ、左右にあるスティックをゆっくり傾け、スロットを押し上げる。
背部のバーニアやジェットノズルがジェットを噴き上げ、安定翼の昇降舵が動き出し機体の水平を保ち、青白い閃光をなびかせながら加速していく。
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