たった

@rabbit090

第1話

 追い立てられるように、私の心はすり減っていた。

 耐えられない、と思った頃にはくずおれていた。

 そして、何かを振り切るように始めたのがこのお店だった。

 

 「”ココア”(開店中)」

 私はこの看板を掲げて、店を開始する。

 ほとほと会社員でいることに疲れてしまっていたため、初めてみればなんてことない、店は順調に進んでいった。

 しかし、ここ最近店の前に、ありがちだけどネコが居ついている。カフェってネコ好きの人が多いから、まあ、勝手な印象だけど、でも動物に危害を加えようって人はあまりいないから、みんなに可愛がってもらっている。

 けど、私はエサも何も、あげたことがない。なのになぜ、ここに居つくのだろうか。

 「いらっしゃいませ。」

 「きれいなお店ね。」

 「うん、いいよね。」

 最近来店する人を見て思ったけれど、とにかくきれい好きの人が多いのだ。

 だから視覚でそれが伝わるように、家具量販店に行き、キレイそうな小物や雑貨を、買い集めている。

 そして、量販店以外の店で買ったものと、良いバランスになるように調整している。

 そうすることで、大衆性もあるし、なぜか人は居心地が良いと感じてくれるのだ!(店を初めての一番の発見)

 まあ、だけどいつやめても良かった。

 私は、こんなことがしたかったわけではなかった。

 ちらりと、外を見る。

 そこには公園があって、いつも家族を連れた同年代より少し下の母親たちが、子供の手を引いて笑っている。


 私の家族は、壊れていた。

 そして、決して人様にさらせるような状態でもなかった。

 だから、こっぴどく、振られてしまったのだろうか。とにかく、トラウマという言葉があるのなら、私はそういう、恋愛や家族といったものを、無意識に避けているような気配がある。

 そして、働くことすら難しかった。

 だって、保証人になってくれる人すらいない。だって、だって、家族のだれ一人、意思疎通が取れない。

 取ろうとすらしない、何か、なぜ壊れているのかすら理解ができない。多分、人間の形すら、取っていないような気がする。

 けど、なぜ私達家族が生きてこれたのかっていうと、それは私たちが小さい頃はまだ、祖母の存在があったからだった。

 「でも、やめない。」

 私は、誰が聞いているわけでもないのに、一人呟く。

 この店を、ココアという名前は、私が一番好きな飲み物からとった。カフェでも、コーヒーでもなくココアを、前面に押している。

 そして、案外甘いものが好きな人も多くて、固定客が来店することが分かった。

 会社員の頃、私は、バレてしまった。

 保証人を偽っていたこと、そしてそれを、同僚にばらされた。

 私には、付き合っている男がいた。

 そいつは、新卒で入った会社の総合職の同僚だった。

 高校を普通に出ることができた私は、奨学金をもらって大学に進学した。

 成績は良かった、けれどお金の不安が強く、自分の実力より下の大学へと、進学した。

 そして、

 「別れよう。」

 「…え?」

 理由が分からなかった。

 けど、私達は同じ営業部に所属していた。そして、彼は成績を出すことができなかった。半面、私はいつも、ほぼトップの成績を取っていた。

 それか、と思ったけれど、事態はすぐに急転した。

 私は彼の吹聴によって、会社を去らなくてはいけなくなった。

 好きだった、信じていた。だから全てを話したのに、手を、離された。それだけじゃなく、手ひどい目にも合わされた。

 だから、私はもう一生、会社には所属しないことを誓った。

 そこで、そこでの傷で、全てをあきらめた。

 それで、一人で生きて行こうと決意した。

 私は、強いのだろうか。

 分からない。

 私は、弱いのだろうか。

 分からない。

 だから、いつも人を見ると震えて止まらない、体の動きを、何とか隠しがら、生きている。

 

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