その遺体は焼死したのか、それとも死後に焼かれたものなのか

第1話 安政四年葉月(八月)、八丁堀組屋敷。今暁九つ(深夜0時)

 寝苦しい夜だった。流石に八月にもなると猛暑になってくる。お花は暑さで何回も目が覚めて何度か分からない寝返りを打った。


「暑い……」


 この江戸時代は現代とは違い、暑いときはぬるい水があるし、冷たいときは冷たい水がある。勿論エアコンなんて大層なものはなくて扇風機も勿論ない。


 お花は蚊帳の張られた布団の中で内輪で風を送るそんな抵抗を試みていた。


 そんなことをしている内に外が段々騒がしくなってくる。お花は何事かと思い、声に耳を傾けた。


「火事だ! 日本橋から火が出たぞ!」


 これを聞いてお花は眠気眼から覚醒した。八丁堀から距離が近い。八丁堀は日本橋の南だ。もし燃え移ったらこの医院も駄目になるし、多くの命が奪われる。


 お花は医院の外に出て様子を見る。火消し達が大慌てで現場に急行している。暫く立っていると源三郎と美弥がやってきた。二人とも息を切らしている。


「ここも燃えるかもしれぬ」

「お花さん逃げましょう」


 確かに源三郎と美弥の言うとおりここも燃えるかもしれない。3人は逃げることにした。江戸の火事は大罪になる。一瞬火元を考えると不憫な気持ちになった。


 それから数時間後に火が消し止められ、医院も八丁堀も無事だった。朝になり美弥と源三郎、そしてお花は八丁堀に戻ってきていた。美弥も疲れている筈なのにお花と源三郎におにぎりを作り、出してくれた。


「すみません美弥さん」

「私こそ緊急時ですのでおにぎりしか出せず」

「とんもないです」


 火事の現場検証があるのだろう。源三郎はおにぎりを食べると急ぎ足で現場に急行した。お花もおにぎりを食べると美弥に再度お礼を言い、医院に戻ることにした。火事のあった早朝もお花の医院には数珠つなぎの患者の数が居てこれは休めないなと諦めのため息を漏らした。


 それから数時間が経ち源三郎は現場になった大城屋に居た。大城屋からは3体の死体が出ており周りの人間は焼死と言ったが、源三郎だけは違う目線で見ていた。


「焼死にしては戦う体勢になっていないな」

「焼死ではないと申すか」

「それはわからぬ長岡。しかし以前見た焼死体とは明らかに違うような気がする」

「やはりお花を使うしかないか?」

「うむ……」

 お花も昨晩の火事に巻き込まれた一人だ。疲れがとれていないだろうと武士らしからぬことを考えていた。普通の武士ながらほら動けとでも言いそうなものだが、源三郎はそこの辺りが普通の武士の感性と違っていた。


「しかたあるまい。お花を頼るしかない」


 これが源三郎が医院に来てお花を現場に呼んだ数時間の出来事である。

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