俺が異世界最強であることに、もはや理由など要らない
@wta744
第1話
1
「フッ、これが異世界。そしてここがギルドか」
扉を開けて中に入ると、なにやら空気がピリついていた。
「いいじゃねえか。お前初心者だろ? 一人で行くより、誰かと一緒に行ったほうがいいぜえ」
「い、いやです」
男が三人で、女の子を囲んでいる。
周りの連中はニヤつきながらそれを見ている。
「別に変なことしないからさあ」
「仲良くしようぜ、おい。へへへ」
「ひ、一人で行きますから。ついてこないでください……」
「って言われてもついていくもんね。心配だもーん」
「ぎゃはは」
「うわぁ。あいつら、またやってる」
「初心者の可愛い女の子ばっかり。かわいそー」
「あー、またダンジョンの袋小路に連れ込むんだろ」
「この前の子、どうなったっけ」
「泣きながら田舎に帰ったってよ」
「うわあ。ま、世間は厳しいもんよ」
なるほど。
異世界というのはなかなか無慈悲なところらしいな。
力のない女子が男三人に好きにされようとしているのに、誰も助けてやらない、か。
「フッ。総じて、かわいいじゃないか」
俺は人だかりを出て、男たちに向かって言った。
「なんだテメ!……って、ぶふっ!」
一人が吹き出した。
「こいつ『転移者』だ。ふはは、ペラペラの服着て、よくこの治安の悪いギルドに入ってきたぜ」
「あー、『ニホン』の『ガクセイ』だな。この服は」
「『ジョシコウセイ』がいいなあ!」
「こないだの子、よかったよな!」
「何も知らない、右も左もわからない子がええんよ。俺色に染めるのがええんよ」
おお、ゲスい会話だな。
「ちょっと待て、『スキル』は?」
と、一人が急に険しい顔で言った。
「もう見たぜ。こいつはスキル……『なし』だあーーーっ! 残念!!」
「ステータスも平凡! 体力10。知力12。運10。魔力0! まあこれが現実よ。ガクセイくん」
「たまーにとんでもないやつが『転移者』にはいるんだが……。まあそいつらも旅に出てしばらくすると噂を聞かなくなる。厳しいんだよ、この世界は」
フッ。
スキルなし。
ステータスも平凡か。
なるほど。
俺は頷きながら、
「わかったから、その子を放してやれ」
「おいこいつ、自信だけはすごいな」
「ぎゃはは」
「状況理解してんのかよ、オラ」
男は殴ってきた。
俺はその拳を指一本で止めた。
そして一人に一発ずつパンチを喰らわせて、ノックダウンさせた。
「は……?」
「え、今なんかやったのか?」
「殴った……ように見えた」
「え、何が起きた? 俺がちょっとよそ見してる間に何が!?」
周りが急に騒がしくなった。
「何事だ」
と、受付の奥から大男が出てきた。
状況を見ると、俺を鋭く睨んできた。
「俺がここの責任者だ。てめえ、やってくれたな。こいつらはここの稼ぎ頭なんだよ」
「でた。ギルマス」
「大抵の悪事はもみ消してくれる、頼れる俺たちの兄貴分……」
「他所から移ってきてよかったぜ。だいぶ美味しい思いしてます……」
「お前もか……」
「いい女紹介してくれますし……ひひ」
なるほど。
つまりゲスのボスということか。
そのゲスボスが俺の前に立ちはだかった。
「このギルドの秩序を乱すやつは生かしておけねえ……。上とか他所にチクられても面倒だしな」
ギルマスは手からまがまがしい炎を出して構えた。
「うえっ、あんな上級魔法を室内で」
「逃げろっ!」
「おい押すな!」
「魔力0なら防御魔法も使えねえ。仮に使えてもこいつは防げねえがな。くらえ――『ドラゴンフレイム』」
炎が爆発的な勢いをもって襲いかかってきた。
「フッ」
魔法か。
なるほどな。
俺は手をかざして言った。
「『ファイアボール』」
ボッ。
俺が放った火の玉が、炎と激突した。
「は!?」
「魔力0なのに」
「魔法だと!?」
「でも超しょぼい初級魔法だぞ!」
火の玉は炎を飲み込んだ。
「うおおっ!?」
そのままギルマスを焼いた。
「ぎゃあああああっ!」
「しょ、消火だ」
「みんな水魔法かけろ!」
周りの連中がそうやって魔法を放ったが、火はなかなか消えなかった。
少しやりすぎたかな。
「『ウォーターボール』」
俺の放った小さな水の玉は、ギルマスの火を一発で消した。
プスプスと煙をあげて、ギルマスは倒れた。
「一丁上がり。誰か治療してやれ」
俺が一声あげると、ギルド内は怪我人の処置であわただしくなった。
「あ、ありがとう、ございました……」
女の子がそう言ってきた。
女の子というと小さそうなニュアンスになるが、たぶん同年代だ。
「礼なんていいよ。なかなか面白かったしな」
「あ、あの、な、なんでそんなに強いんですか」
周囲の連中の動きが止まる。
聞き耳をたてているようだった。
「さっきの……体力10の動きじゃなかった……。あと、魔力0で魔法が使えるなんて、聞いたことありません。しかもあんな単純な初級魔法でドラゴンフレイムに勝つなんて……」
「ははっ、簡単さ。俺が最強だからだ」
「え?」
彼女は口をぽかんと開けた。
「『ステータス』に、『スキル』ね。ゲームみたいで面白いじゃないか。それで強さを測れるなんて便利だ。ちなみに俺がいた世界にも『IQ』っていう数値があってな。知的能力を表してるんだが。平均が100。高いやつだと150とか200なんて話も聞く」
「は、はぁ……」
「俺のIQは120だ」
「120……え?」
「一般的に高い部類ではある。でもダントツで高くはない。数値上、俺より上はザラにいる。――だが、俺はそいつらに知的な勝負で負けたことがない」
「え、……え?」
目の前の彼女も、周りのやつらも、明らかに困惑していた。
「つまり、本当の能力は数値じゃ測れないってことさ」
「えええ、そんなわけ……。普通、強い人はステータスが高いか、そうじゃなければ何か特殊なスキルがあるはずで……。あ、神に選ばれたとか? ここにくる前に神様に会いませんでしたか? ああ、でもそれなら普通は何かステータスに表示されるはずだし……。な、なにか理由が……」
「フッ、逆に聞くが、お前がお前であることに理由はあるのか?」
「え、あ、ありません……?」
「同じだな。俺が俺であることに理由はない。そして俺が最強であることにも――理由はない」
「え、え………………、えええーーーーーーー????」
彼女は頭をかかえた。
「ど、どういうことだ……」
「でもよく考えたら、何か理由あって強いやつって本当に強いって言えるのか……?」
「えっ」
「強いスキルとかステータスに頼ってるってことは、それがなきゃ弱いわけだろ……」
「なるほど……」
「じゃあ、何もないのに強いあいつは……」
周りのやつらが何やら言っている。
俺は微笑した。
「フッ、まったく、ほほえましい限りだ。――じゃあな」
ギルドを出た。
またギルドに戻った。
「フッ。そういえばトイレを借りにきたんだった」
「あっちです……」
彼女が指差した方へと、俺は歩き去った。
2
名前:ユウ
性別:女
年齢:15
レベル:5
体力:25
知力:22
魔力:28
職業:冒険者
「ほう、これがステータスか」
ギルドの前の街道で、俺は空中に現れた表示を眺めた。
その表示の向こうには、ギルドで助けた女の子――ユウがいる。
「ちなみに、ええと……あなた……のがこれです」
そう言って、ユウは自分が見ていた表示を手で回してこちらに向けてきた。
名前:俺
性別:男
年齢:16
レベル:1
体力:10
知力:12
魔力:0
職業:なし
スキル:なし
「フッ。なるほどね」
「あ、あの……名前」
「ああ、『俺』になってるな」
「えっ、ええと……、ええええーー?」
ユウは頭をかかえた。
「あの、『転移者』は転移するときに名前を聞かれる……らしいんですけど、……聞かれましたよね?」
「ああ、『汝の名を言え』だったかな。フッ……『俺は、俺だ』と答えておいた。なるほど、こうなるのか」
「ええと、本名は……?」
「本名、ん? 思い出せない。フ……上書きされたようだな」
「あわわわわわ……」
ユウは軽くパニックになっているらしい。
フッ、かわいいやつだ。
「ともかく、ステータスの見方を教えてくれてありがとう」
「あ……はい。一応ステータスって、開示した部分しか他人には見れないので、必要に応じてみんな隠したりしてます。……はい」
「なるほどね」
ステータスを下にスクロールしてみる。
装備:学ラン
なるほどな。
「あの、俺……さん? 俺さんでいいんですか?」
「ああ、もちろん」
「もちろ……えええ……」
「フッ、君はおもしろい反応をするね」
「あっ、あの、俺さん、助けていただいたお礼に、あの……お食事をご馳走させてください!」
「フッ」
俺はステータスを改めて眺めた。
【俺】
所持金:0G
【ユウ】
所持金:1500G
「ありがとう。でも気にしなくていい。ステータスについて教えてもらったしな」
「えっ、でも……」
ユウは視線を下にやって、口をぎゅっと結んだ。
そして、
「そ、率直に言います。わたし、俺さんについていきたいです。同行させてください!」
一息に言うと、顔を真っ赤にしてうつむいた。
フッ。かわいいやつだ。
「いいぜ。よろしくな」
俺は手を差し出した。
ユウは、ぱあっと笑顔になってそれを両手で握った。
「ありがとうございます! よろしくお願いします! あと食事ですけど、やっぱりご馳走させてください。時間的に夕ごはんになりますけど」
「そうだな……」
俺は街を眺めた。
「食事よりも、まず服が欲しいな」
「ふ、服?」
✳︎✳︎✳︎
俺たちは防具店に入った。
「あ……そうですよね。俺さんの今の服はあまりに目立つから」
「フッ、そうだな。別に服装なんて気にはしないが、単純に服を見るのが好きなんだ」
「わぁー。そうなんですね」
「これなんか格好いいな」
「あ、服のステータスも見れますよ」
「ほう。なるべく強そうな服がいいな。俺は強いから」
「あはは」
何着か見て、決めた。
「これにしよう。――ユウ」
「はっ、ハイ!」
「少し金を借りるぞ」
「ど、どうぞ!」
あたふたするユウから借りた金で買ったのはこいつだ。
【荘厳の闘衣】
デザイン:250
攻撃:0
防御:0
特殊効果:なし
価格:1500G
「って1500Gぃぃぃぃ!?!?」
「フッ」
「えっ、えええええーーーー?? ゆ、夕ごはん、どころか今日の宿代も……えええええーーーー!! 全財産どぅわあああああぁぁ!!」
支払いを終えてから試着室で着て、そのまま店を出る。
「フッ、心配するな。夕飯まではまだ時間がある。寝るまでの時間ならもっとだ。その間に金は手に入る」
肩をぽんと叩くと、ユウは「ひゃっ」と飛び上がった。
フッ。
そして一時間ほど後。
俺とユウは街を出てすぐの草原にいた。
「フッ、一丁上がり」
「わ、わ……すごい」
周りにはゴブリンが、ざっと二十匹ほど倒れていた。
「これ……初心者が挑める最難関クエストですよ。ただのゴブリンじゃなくて赤ゴブリンです」
「……」
俺は倒れたゴブリンのそばにかがみ込んだ。
傷ついたその体が、光になって消えていく。
「すまないな。俺が強すぎるせいで」
そうやって一匹ずつ弔って回る。
気づくと、ユウが俺を見て涙ぐんでいた。
「……ご、ごめんなさい。なんか感動しちゃって」
「フ……」
ドガオン!!
夕暮れの静寂を打ち破る轟音。
地面に空いた穴の中から、赤ゴブリンが飛び出した。
「まだ残ってたか」
「で、でも、なんか様子がおかしいです!」
「ミギ……ギギギギ……」
ゴブリンの体を突き破って、小さな悪魔が現れた。
「で、『デビル』……。街周辺にはいないはずのボス級モンスターです……! レベル:50……!」
「フッ。『ファイアボール』」
ブワワッ!
デビルは燃えて消滅した。
「えっ、えええ!?」
両手に魔法の光を溜めていたユウは素っ頓狂な叫びをあげた。
✳︎✳︎✳︎
「討伐記録……赤ゴブリン20体と、デビル!? うそでしょう?」
今度はギルド受付の女が驚いた。
「フッ、驚かれることには慣れている」
「でも、記録は不正なんてできないし……。あなた、東の魔宮にでも行ったわけ?」
「いや、すぐそこの平原だ。ゴブリンの中から出てきた」
「…………」
受付の女は考え込んだ。
「寄生……。普通は、ないことよ。ありえない。それを倒すのもありえないけど。……とにかく報酬は払います。あなたが回収したデビルのアイテムは価値が段違いなので」
俺の腕輪から端末へとアイテムが移動して、代わりに報酬が入金された。
「ユウ、さっきの金を返そう」
「えっ、あ、はい……って、17000Gぃぃぃぃーー!? 十倍以上になって返ってきたああああばばばば」
「フッ」
その後、二人で夕飯を食べて、宿屋に泊まった。
3
「フッ。これが異世界の朝か」
「俺さん、おはようございます」
宿屋の前でユウと待ち合わせた。
「おい、アイツ……」
「『俺』だ……。昨日デビルを倒したらしいぞ」
「嘘だろ……」
周りがさわがしい。
どうやら早くもこの街の有名人のようだ。
「わ……。すごいです、俺さん」
「フ……。慣れてるさ」
「俺さんは、ここに来る前から強かったんですか?」
「そうだ。前にも少し話したが、元いた世界では主に頭のいいやつが強者だった。全国一位だったよ。やはり有名になってしまって、数値と能力が比例しないということで、IQの信用が下がったとかで訴えられたりしたな」
「うえぇぇ」
「趣味でゲームを作って儲けてたから、賠償金は全額払ったよ。俺の影響で彼らの生活が苦しくなったのは事実だからな」
「へぇー、って、え、ゲーム! どんなゲームですか?」
「鬼畜難易度のアクションアドベンチャーゲームだ。俺にしかクリアできないものを目指した」
「ふえええ」
歩きながらゲームの詳細を話した。
ユウは目を輝かせて聞いていた。
「フッ。ゲーム、好きか?」
「あっ、え、えーと……はい!……トランプとか……好きです! 俺さんが作ったのは、ボ、ボードゲームですか?」
「いや、コンピューターゲームだ」
「コンピューター……。あはは、わかんないです」
「フッ」
街の繁華街についた。
「そういえば、俺さん、武器持ってませんよね」
「そうだな」
「あ、でも素手で強いから要らないかな……あはは」
「フッ」
何気なく歩いていると、この前とは別の防具屋があった。
「ほう。女性向けの店のようだ」
そう言って、俺はユウをじっと見つめる。
「え、な、なんですか?」
「入ってみよう」
入店して、服や防具を物色する。
数分後。
「これだな」
【あまり主張しないが確実にかわいい服】
攻撃:0
防御:0
デザイン:550
かわいさ:1000
価格:250000G
「少し足りないが、昨日冒険者ランクが上がって借金できるようになったから、限度額まで借りれば買える。フッ」
「ちょっ、ちょっ、えっ、えええええーーー!!??」
「お買い上げありがとうございます」
早速、試着室でユウに着てもらう。
「え……。ええぇー……。わ、わあぁ……。すごい。こんないい服着たの、はじめて……」
「フッ、かわいいじゃないか。似合ってるよ」
「えっ!!」
ユウは大声をあげて、
「はいぃ……。ありがとうございます……」
真っ赤になってうつむいた。
「でも、食事代や宿代が……」
「フッ。まだ時間はあるし、なんとかなるだろう。それよりも、ユウ。お前に似合う服は、一刻も早く買うべきものだからな」
「あっ、あっ……。あぅ……。なんか、あの、なんでこんなに優しく……。……ううん、いいんです。ほんとに、ほんとに、ありがとう、俺さん……」
「フッ」
✳︎✳︎✳︎
ギルドに着いた。
「お、おい、アイツ」
「『俺』だ。今日もきやがった」
「っておい、隣の女、あんなにかわいかったか?」
「かわいかったよ」
「でも今日は更にかわいくないか?」
「かわいいな……」
「フッ、どうだ、もてはやされる気分というのは」
「は、恥ずかしいです……。でも嬉しいです……」
俺は受付の女性に話しかけた。
「なんでもいい。高難易度のクエストをやりたい」
「『俺』さんですね。実は、当ギルドのマスターがあなたをお呼びです」
「フッ。当ギルドのマスターさんか」
「お、俺さん、ギルマスですよ、ギルマス!」
奥の部屋へと通された。
そこにいたのは、スキンヘッドの堅物そうな男だった。
「『俺』……だな? 私は本日からここのマスターになった者だ」
「フ……なるほど」
「前のギルマスは、ここを治められる器ではなかったのでな。上位職の私がきた。要所なのだよ、このギルドは。重要なのだ。……理由はいずれわかる」
「ほう」
「今日は、私から直接クエストを依頼したい。もちろん報酬は弾む」
「フッ。5000000Gほどいただけるとありがたいかな」
「…………いいだろう。請けてもらいたいのは、街外れにある墓地のモンスター処理だ。道案内を兼ねて私も同行する」
「フッ」
そうしてその日の夕方、俺たち三人は墓地へと向かった。
「フッ、ここが墓地か」
「あ、当たり前ですけど、お墓いっぱいありますね……。っ! いたっ!?」
「フッ」
墓地に入る瞬間、肌にピリッとした感触があった。
「結界だ」
とギルマスが言った。
「先ほどここに大量のアンデッドを移動させた。埋葬するためには、当然だが倒さなければならない。君の噂は聞いている。その実力を直に見たい。ピンチの時は私が助けに入る」
「フッ」
「ギャオオ!」
早速、アンデッドが一匹、襲いかかってきた。
「俺さん、ここはわたしがやります!」
「フッ」
「いつもの借りを返させてください。光魔法!」
ユウの掌から光が炸裂した。
アンデッドは一瞬で消滅――。
「む。初級冒険者が光魔法を使えるか」
「フッ」
俺とギルマスは共に腕組みをしながら見ている。
「二匹目っ! 三匹目!」
ユウは次々とアンデッドを倒す。
「アンデッドに光魔法。高相性の属性なら、弱いわたしでも――――わっ!?」
四方の墓から、アンデッドが一斉に飛び出した。
ギルマスがつぶやく。
「――それは、攻撃をくらわなければの話だ。防御に転じた途端、これまで優位だったツケを払うことになる」
「フッ」
そう言うより先に、俺はユウのもとに飛び込んでいる。
両腕と闘衣のマントがそれぞれ敵四体に触れた瞬間を狙って、魔法発動。
「光魔法。『フラッシュ……ううむ――……フッ』」
ブワワッ!!
アンデッドは跡形もなく消滅した。
「俺さん……! ありがとうございます!」
「フッ。技名を自動生成するスキルが欲しいところだ」
「光魔法は見様見真似で使えるものではないのだがな……」
ギルマスが険しい顔をした。
「フッ。アンデッドはまだまだいるんだろう? それじゃあこんなのはどうだ。『フラッシュ……セイント……』」
「あっ。俺さん、ブリリアント・スパークルはどうですか?」
「フッ――採用。『ブリリアント・スパークル』!」
俺は空高く光の玉を投げた。
墓地のあちこちでアンデッドの悲鳴と消滅の音がした。
「これは……正直、予想以上だ……。高レベルのボス級アンデッドも奥にいたのだが、今ので消滅した……。す、すまんが……光の玉を消して……くれるか……私は生来、闇属性なのだ……。この光は……かなり……きつい……。ぐふっ」
「あーーーっ! ギルマスさんが!!」
「フッ。申し訳ない」
4
「『俺』よ。君の実力はよくわかった。本命のクエストを依頼する」
ギルド内の部屋で治療を受けながら、ギルマスが言った。
「ダンジョン攻略だ。街の西にダンジョンがあるのは知っているだろう。数年前は普通のダンジョンだったのだが、ここ最近状況が変わった」
「ほう」
受付の女が壁の資料を指して説明を始めた。
「ダンジョンは地下二十階構造。そしてこれが各階ごとの生還率です。地下深くなるほどに生還率は下がっていく……これはモンスターやフィールドが過酷になるため当然なのですが、問題はここです。地下二十階……最下層の生還率は、ゼロ」
「最下層は脱出不可フィールドではない。ではこのデータは何を意味するか」
ギルマスが言う。
ユウがつぶやいた。
「即死スキル……」
受付嬢がうなずいた。
「ええ。それも、とてつもなく高精度。出会った瞬間、いえ、出会う前に殺されている可能性すらあります」
ギルマスが言葉を引き継ぐ。
「すでに街の内外で、このダンジョンの危険性は噂されている。君たちも当ギルドの品の悪さは知っているだろう。危険な場所にはそれに相応しい連中が集まる」
「フッ。なるほど」
「あ、あの……」
ユウがおそるおそる手をあげた。
「以前は普通のダンジョンだったんですよね……?」
「そうだ。それが一月前からこの状況だ」
「なぜ……」
「様々な可能性が考えられる。しかし単純に我々が危惧するのは、このような危険な者がダンジョンの外に出ることだ。今のうち……、こいつが最下層にいるうちに、始末をつけておきたい」
「……」
「一時はギルドの荒くれ者どもに任せていたが、結果は死体が増えるばかり。回収も埋葬もできないから腐敗し、ダンジョンはアンデッドだらけだ。定期的に先ほどのように墓地へと送って処理するのだが、キリがない。色んな意味でどうにも頭の痛い問題だったのだが、そこに君が現れた。正直なところ、助けてほしい」
俺は「フッ」といつものように快諾しようとした。
しかしユウがそれをさえぎった。
「だ、だめです……。俺さんをそんな危険なところにいかせないでください」
ギルマスの表情がぴくりと動いた。
「悪いが、決めるのは彼だ。君じゃない」
「俺さんは、いずれ魔王を倒す方です」
「……どういうことだ」
「わかりませんか、あの強さを見て。この世界を救えるのは俺さんしかいないんです。ここで無闇に失われていい命じゃない」
フッ。まったく、かわいいやつだ。
「ユウ。心配してくれてありがとう。でも俺は最強だ。たとえ即死スキルが相手でも。それが答えだ」
ユウは辛そうな顔をして、小刻みに首を横に振る。
「わたしは、俺さんに死んでほしくない……死んでほしくない! こんなところで終わってほしくないんです……!」
「大丈夫」
そう言ってユウの肩を叩く。
「はわっ」
「大丈夫大丈夫」
「あうあうあう」
ボディタッチの度にヘナヘナになっていくユウ。
大人しくなったところで、ギルマスに言った。
「フッ。任せておけ。その代わり報酬は今回も弾んでもらう」
「ああ」
✳︎✳︎✳︎
『俺』と『ユウ』が部屋を出て行った。
受付嬢である私は、ギルマスの腕に包帯を巻きながら話しかける。
「行ってくれましたね」
「ああ」
「よかったです。これで厄介ごとが解決すればいいのですが」
「そうだな。……」
ギルマスは険しい顔で沈黙した。
「何か……?」
「いや」
「あのダンジョンに、ギルドとして正式な対処をするのなら、相応の資金と責任が発生します。しかし、来たばかりの転移者に可能性があるなら、まさに渡りに船。失敗したとしてもリスクはありません」
「そうだ。……そう思っていたのだが」
「ユウの言っていたことですか? 魔王……大きな脅威ではありますが……。目下、この街の脅威は間違いなくあのダンジョンなのですから。まぁ、ここの住人でない者には関係のない話なのでしょうけど」
しばらく沈黙して、ギルマスは言った。
「今後の彼らの情報を追えるよう、他ギルドに手配を頼む」
「承知いたしました」
……どういうことだろう。
私としても彼は気になる存在ではあるので、情報を追いたいというのはわかるが。
まぁ、いち受付嬢の気にすることではないか。
✳︎✳︎✳︎
「フッ、ここがダンジョンか」
「……結局来ちゃったぁぁ……」
俺たちはダンジョンを進んでいく。
しばらく歩くと、ゾンビが出現した。
「フッ」
ドワア!!
「えええええ、『フッ』だけでゾンビが消し飛んだぁぁぁーー!!」
「まぁ、そんなもんさ」
前の世界でも、不良とか、あらかじめ俺に敵意を持っているやつはこれだけで吹き飛んでいた。
「連中の持つ邪悪さや暴力性は手っ取り早い武器としてはいいものだが、本当に強い者の前ではその刃が自分へ向くことになる。結局、背伸びせずありのままが一番ということだな」
「お、思ったより深い話でした……」
ゾンビはところどころで出現するものの、モンスターは見かけることなく、トラップもない。
つまり、ダンジョン内の道がある程度整っていた。
攻略の進んだダンジョンというわけだ。
最下層以外は。
それでもダンジョン内はそこそこに広く、道は長いだろう。
俺たちは途中のちょうど良い袋小路で休むことにした。
「フッ。俺は正直あまり寝なくてもいい体質なんだ。ユウ。見張っておくから、奥の方で寝てくるといい」
「えええっ。そんな、悪いですよ。わたしこそあまり寝なくても大丈夫なので、どうぞ俺さん寝てください」
「フッ。実はもう寝てる」
「え?」
「今、寝ているんだ。俺は立ちながら、目を開けながら、喋りながら寝られる。あまり寝なくていいとさっき言ったが、実際は逆かもしれないな。常に寝ている。今日起きて、町に出て、ギルドへ行き、墓地で戦い、ここへ来るまでの間、実はずっと寝ていた。ガッツリ寝ていて今のこの状態だから、わざわざ体を横にして目を閉じる必要なんてないんだ。zzzz」
「おぼええええええイビキかいてる!!!!」
「フッ。夜更かしはお肌に悪いぞ。素敵でかわいい君が寝るんだ」
俺がユウの目元に手をかざすと、「ふええ……。やさしすぎるし強すぎる……」と、とろけるような声を出して、その場で横になってしまった。
彼女を奥へと運び、魔法をいくつか発動する。
「『ファイアボール』『ダークコーティング』」
小さな火の玉を闇魔法で包み、暖房と間接照明の機能を持たせた。
単調なダンジョンの隅の一角が、暖かく落ち着いた空間に変わる。
「『トラップフィールド全方位十メートル』『サイレント』」
悪意を持って触れた者が音も立てず消滅するバリアと、あらゆる音を打ち消す魔法だ。
これで彼女の安眠を妨げるものはない。
すうすうと寝息をたてるユウに、俺は自分のマントをかけてやった。
彼女の頬が幸せそうに緩んだ。
「フッ」
この子が初日、ギルドの連中に連れ込まれようとしていたのも、このような袋小路だっただろう。
物の使い方とやり方で、結果はこうも変わるものだ。
「むにゃむにゃ……俺さん……」
「フッ」
ユウの寝顔を眺めながら、俺は満足に浸るのであった。
俺が異世界最強であることに、もはや理由など要らない @wta744
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