記憶の移行

Grisly

記憶の移行

N氏は、動かない妻の姿を見て、

悲しみに打ちひしがれていた。


しかし、この時代、

そんなに悲しむことはない。

記憶を、

ロボットにそっくり移し替えることで、

死んだ人間も、蘇るのだ。


さっそくN氏もとりかかる。

脳をコンピュータに繋ぎ、

記憶のダウンロードを始める。


17歳の時までダウンロードが進んだ。

ちょうどN氏と付き合い始めた年。


しかし、そこで問題が起こった。

大規模な停電である。

ダウンロードが、

途中でストップしたのだ。


数時間後、電気が復旧し、

再び作業に取りかかろうとしたN氏。

少し手を止めて、こんなことを言い出す。


「いや待てよ、ここまででやめとかないか。

俺の方だけ2回目なら、

前回よりも成長した俺が、

相手できるのではないのか。」






N氏がそう考えるのも無理はない。

机の上には、

つい先日まで、もめにもめていた

離婚届の紙が…



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