第22話 聖女ステラ視点、ステラの秘めたる想い
「アビロス、大丈夫?」
私はテントの中から顔を出して、アビロスの様子を伺った。
「ああ、大丈夫だから。はやく寝ろ」
私たちはオークキングを討伐したあと、帰路に就きました。
でもオークダンジョンは広いし、私たちは満身創痍です。1階層への階段までなんとかたどり着き、今日はここで野営することになりました。
私に【結界】をはる魔力は残されていません。だから見張りに立つと言って外に出たアビロス。
「交代で寝ましょう」
「大丈夫だ、俺は片目をつぶって半分寝ることが出来るんだ。だから早く寝ろって」
もう、全然言う事聞かないんですから。
アビロスばかりに負担を強いるのは嫌なんですけど。
でも片目で寝れるとか、ちょっとお子様なウソをついて可愛かったのでお言葉に甘えることにしました。
ふぅ身体が悲鳴を上げていますね……少しでも休まないと。
毛布の上に横になり、目をつぶる。
顔に手をあてると、ガサガサとこすれる感覚。
全然お肌の手入れが出来ていません……ダンジョンに潜ったのだからしょうがないですけどね。
顔を触っていた手が自分の唇に当たった。
「………」
あ、思い出してきました……
きゃあ~~~~どうしましょう!
恥ずかしすぎるから、ずっと考えないようにしていたのに。
思い出しちゃった。
「ふぅ……」
考えないなんて……無理ですよね。
ちゃんと事実と向き合わないと。
私は10歳の時に聖女となりました。女神様からの天啓を受けて。
聖女、この世界で唯一「聖属性魔力」を持つ者。
そして多くの者を救う存在。
もとより人の為に頑張ることが好きだった私は、女神様の天啓を受けて天にも昇る心地でした。
お父様もお母様も兄弟も、領民のみなさんも、私が聖女になったことを祝福してくれました。
でも……いい事ばかりではありません。
歴史上、今まで現れた聖女たちはみな短命です。
私も、女神さまから天啓を受けた際に確認されました。聖女の力を得る代償に自分の命を削ることになると。
もってあと10年と言われました。10歳の時に。
聖女となったことで長くは生きられないとわかり、異性を意識しないようにしてました。
だってもし想いを寄せたりしてしまったら、それこそお互いに不幸にしかならないから。
だから女性としてのステラは封印したのです。二度と出すことは無いと。
でも、全てを諦めた私の前に現れたアビロス。
5年前もそして今回も、身体をはって私を助けてくれました。
そしてアビロスは私の運命すら変えてしまった。
―――天寿を全うして良いと。
もう短命の宿命を負わなくてよくなったのです。
アビロスはかつてのような悪い人ではありません。
本当に悪人なら、自分の命をかけてまで2回も私を助けません。
あのような行動が取れる人が、悪人なわけがない。
どうしましょう、まだ唇にあの感覚が……も、もしかして私……ドキドキしてる?
い、いえ。そんなことはあり得ません。
だってついさっきまで、女神様から告げれるまで……私……
誰かに想いをよせるなんて考えてなかったのだから。
ふぅ……なんですかもう。
なんで急に人が変わっちゃうんですか。まるで以前のアビロスとは全く別のアビロスがいるみたい。
アビロスは私のことをどう思っているんでしょうか。
テントの隙間からチラッとアビロスを覗いてみると……
「ぷっ……本当に片目つぶってますよあの人」
はぁ~~なんか気が抜けました。
ドキドキも収まったようですし、とにかく寝ましょう。
◇◇◇
仮眠を終えて再び出発した私たち。
魔力は少し回復しましたが、身体の痛みは……っ! これは明日も筋肉痛ですね。
前を行くアビロスの背中。
筋肉がギュッと詰まっていて、それに大きくなりましたね。
なんかこう、頼もしいというか。男性らしさが溢れているというか。
吸い込まれるような安心感をおぼえながらも、なんだか体が火照るような感覚に……
「あと少しだ、頑張れるか? ステラ」
「へぇええ!? え、ええ。も、もちろんです!」
「ん? どうした? 大丈夫か?」
「も、もちろんでしゅ!」
なに! 急に声かけられたから、変な声でちゃった。
それに噛んでるし! でしゅってなんですか!
ヤダ……なんかドキドキしちゃってる?
「ハハッ、俺たちは誰よりも頑張ったな」
そうですよね。私たちは頑張りました。
5年間、なんども逃げ出しそうになったけど、やり切りましね。
あ、そうだ……
「ご褒美……」
「え? なんだステラ?」
「アビロス、どこか連れて行ってください。頑張ったんだから! ご褒美です!」
あれ? なんで私こんなこと言ってるの。
落ち着いて、どうしちゃったのよ。
「ああ、じゃあ焼肉行くか。俺のおすすめの店があるんだ」
―――きゃあああ! あっさりOKされちゃったわ!!
にしても乙女と焼肉ってチョイスどうなの?
ま、まあそういうところがアビロスぽくていいんですけど。
―――って! 違うでしょ!
これじゃまるでデートに誘ってるみたいじゃない!
いえ……違わないですね。
もう自分に嘘をつくのは止めましょう。
聖女とか女神様の言葉とか関係ない……
――――――私はアビロスが好き。
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