ゲーム世界の悪役貴族に転生した俺、最弱の【闇魔法】が実は最強だったので、破滅回避の為に死ぬ気で鍛えまくっていたら、どうやら鍛えすぎてしまったようです~なぜかメインイベントを俺がクリアしてしまうのだが~
第17話 悪役アビロスと聖女のスカート(5年ぶり)
第17話 悪役アビロスと聖女のスカート(5年ぶり)
~オークダンジョン3階層~
「アビロス、このまま下層を目指した方がいいのでしょうか?」
「そうだなステラ。オークキングはこの階層から出現する可能性がある。周囲を警戒しつつじっくりいこう」
「わかりました。にしても随分詳しいのですね。来たことがあるのですか?」
「え? いや……え~と、色々とダンジョンについて研究しているんだ。関連した本とか情報とか収集したりして」
「まあ、実技だけでなく勉学研究にも励んでいたのですね! フフ、あなたも頑張っているのですね」
「あ、ああ……もちろんだ」
勉学に励むと言うよりは、単に前世のゲーム知識があるだけなんだが。
俺が転生者ということは言わない方がいいしな。
原作通りであれば、このオークダンジョンはそこそこ難易度が高い。
ダンジョンボスであるオークキングが最下層にいるとは限らないからだ。ボスのクセにダンジョン内を徘徊しているのである。
オークキング自体も強いが、そもそもこの広いダンジョン内で見つけるのが難しい。前世でも、オークキング発見タイムトライアルみたいな動画が良く流れていた。
ふとステラに視線を移すと、自分の袖に鼻をつけている。
「フフ、早く終わらせてお風呂に入りたいです」
俺の視線に気づいたステラは、少し恥ずかしそうに頬を赤くした。
ステラはゲームキャラ設定でもお風呂好きだった。
ゲーム原作にお風呂エピソードが複数あり、かなりの人気を誇っている。いわゆるお風呂回だ。
メインヒロインにお風呂は必須アイテムなんだろうが、この世界でもその設定は引き継いでいるんだな。
まあ、こんなダンジョンでお風呂回などあるはずもないが。
「ああ、さっさと終わらせてラビア先生のところへ帰ろう」
「ええ、アビロスのお屋敷にあったお風呂は広くて好きです。また入ってもいいですか?」
「お、おう……いくらでも入ってくれ……」
その言葉に、「やった」と体を揺らす聖女さま。5年で成長した2つのあれもタユンポヨンと揺れまくる。
いやいや、これわざとなの? 無自覚なの?
恐るべし、メインヒロインの力。
出来る限り見ないようにしようと、視線を先に移すと何か大きな影が近づいてくる。
「―――!?」
まさかオークキングか?
「ぬぅうう~~オンナぁぁあ~~」
手には大きな石斧、その巨体は皮の鎧に包まれている。
「―――オークチャンプ!」
「アビロス! 後ろからもきます!」
―――チャンプ2体か!
オークチャンプは大型オークで力が強い。そして、その図体に見合わずかなり素早い。
巨体を揺らして、前方と後方から接近してくる2体のオーク。
このダンジョン通路で挟まれるのはマズイ!
「ステラ! 飛ぶぞ!」
「え? 飛ぶって……!? ちょ……」
俺はステラを抱えつつ詠唱を開始する。
「漆黒の闇よ、その禍々しき黒で奪い取れ!
―――
「ねぇ……この魔法」
「ああ、悪いが5年前と同じだ! すまん!」
俺が地を蹴るとともに、ダンジョンの天井近くまでふわりと上昇する。
ついでにステラのスカートも上昇した……。
「キャァアアアア! やっぱり~~!!」
5年ぶりだが―――
まためくってしまった……
―――黒か
いや、これもう本来のゲーム設定が強く作用しているのかよくわからんけど。どうしようもないのよ。
何度練習しても、めくれるのだ。
ララが毎回「ご主人さまが足裏以外にも興味あるですね~」とかキャツキャツ言ってたのを思い出す。
俺たちは、一体のオークチャンプの頭上を飛び越えてその背後に着地した。
よし、これで後ろから攻撃される心配はない。
「アビロス、なんなんですかこれ……もっとカッコイイ感じにできないんですか……」
涙目のステラには悪いが、それは出来ない相談だ。
原作主人公なら光の翼を生やすとかあるんだが―――
――――――俺は悪役だからな!
とにかくこれで挟撃されることは無くなった。
前面に攻撃を集中できる。
「ステラ! 集中しろ! 気を抜いてたらやられるぞ!」
「言われなくてもわかってます! オークは下品な言葉しかいわないし! もう! 」
口を尖らせつつも、すでに詠唱体勢にはいっているステラ。
初動で魔力を練り込んでいた証拠だ。
なんだかんだ言いつつも、優先すべきことを理解してくれている。
「聖なる光よ! 敵を滅するまで追い撃て!
―――
ステラの聖杖から光の弾丸が放たれる。
オークチャンプはその巨体に似合わぬ速度で、盾を前面に押し出した。
そう、武器もしっかりと使いこなすのが、チャンプの厄介なところだ。
「―――!? ふんがぁああああ!」
が、光の弾丸はオークチャンプの構えた盾を避けて、チャンプの顔面を直撃した。
―――誘導弾のように。
すげぇ……
綺麗な軌跡を描いて目標を射抜きやがった。
これは余程の訓練を積まないとできないことだ。
魔力の練り方、コントロール、パワーバランス、どれもが一級品の仕事をしなければ、ここまでにはならないだろう。
強烈な攻撃を顔面に食らって、地に転がるチャンプ。
ステラは怯んだチャンプに魔法攻撃を続行している。
本当に頑張ったんだな。
―――ハハッ
だが俺も―――
「負けちゃいねぇぞ―――!」
もう1体のオークチャンプに、真っ向から突進して眼前で飛び上がる。
「うらぁああああ!―――
インパクトの瞬間、どでかい重力を付与した黒い斬撃がチャンプの右手を斬り落とした。
「んんがぁああああ!!」
痛みに叫びながら、左手に持っていた大きな盾がこちらに飛んでくる。
「ぐっ……」
俺は咄嗟に剣で合わせて防御するが、凄い力で剣ごと振り飛ばされてしまった。
「ぬふふふ~~! 武器ナイ! 武器ナイ! アノ黒い痛いのナイ!」
オークチャンプが口角を吊り上げて、残された左腕をブンブン振り回す。
まるで、ちっぽけな人間をこれで捻り潰してやるぞ。と言わんばかりだ。
「ニンゲン、潰れろ! ブチッとツブレロ!」
強烈なチャンプのパンチが俺に迫る。
「ハハッ、お楽しみの顔をさせておいて悪いが―――」
「んがっ! ぐむぅうう!!」
チャンプの繰り出した右ストレートは俺には当たらなかった。
なぜなら俺の拳がチャンプの顔面を打ち抜いていたからだ。
―――黒い拳が
そう。
「俺が重力を付与できるのは、剣だけじゃねぇんだよ!―――
今回は拳をインパクトの瞬間に重くして、ぶん殴ったのだ。
ズーンと地響きを立てて崩れ落ち、動かなくなるオークチャンプ。
ステラもこちらを見て聖杖を振っている。もう1体を仕留めたようだな。
オークチャンプはゲーム中盤以降に出てくる魔物で、中ボスクラスの強さを誇る。
それをものの数分で撃破だ。
ラビア先生の鍛錬の成果だな。俺たちは強くなっている。
「やったな! ステラ!」
「ええ! アビロスも頑張りましたね」
バシッとハイタッチする俺たち。
なんか息ピッタリな感じになってきた―――!?
いやいや、ちょっと待て! ステラと過度な関係性は持たないと決めたじゃないか俺!
でもなあぁ~~メインヒロインと2人でダンジョン攻略とか、ブレパファンならヨダレものなんだよな。
現にステラと一緒にいると面白いし、ワクワクする。
よし、このダンジョンだけは楽しむことにしよう。
試験が終わってからは、極力会わなければいいんだ。うん、そうしよう。
「さて……今日はここらでそろそろ野営だな。ステラ、準備しよう」
んん? 返事がない?
「ステラ?」
彼女はオークチャンプが倒れた壁をちょいちょいと指さしている。
おお! これは!
まれに中ボスなどを倒すと出現する「お宝扉」じゃないか!
「アビロス、これって宝の扉でしょうか……以前まれにダンジョンでは扉が出現するとききましたが」
「ああ、どうやらそうらしいぞ、やったなステラ!」
まあ間違いなく「お宝扉」なんだけど。ここはステラに歩調を合わせて俺も初めて感をだす。
「とにかく開けてみよう……ってステラ!?」
聖女様、先走って先に扉をあけてらっしゃる……
マジかよ~~一緒にあけようよ~~こういうの~~
「わぁあ! アビロス~~!! やっぱりです!」
歓喜の声をあげるステラ。
え? なに! やっぱり? 何があったの!
強力な武器とか!
大量の金貨とか!
幻の魔法書とか!
なんだろ! ワクワク!
んん? しっとり熱くない?
なんか扉から、湯気が漏れてるのですが……
俺は扉の中を覗き込んだ。
お湯だ……
そこには湯の泉があった。
「やっぱり~~なんだかいいお湯の香りがしていたから~~」
今日一番の笑顔を向ける、聖女ステラ。
―――いや、発生してるやないかい! お風呂回!!
ここダンジョンなんですけど……
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