第3話
遥か昔、ある超越的な魔術師が強大な魔術によってこの大陸すべてを支配する国家を作り上げた。この統一国家は悪政と苛政の後、全てを破滅に巻き込みながら崩壊したという。現代において、魔術師でない親から魔術師の能力を持った子供が生まれ得るのは、この魔術師王朝の時代に魔術師王が大陸中の女性を強姦したときの名残だと説明されることもある。
魔術とは、すなわち精神異常である。つまり魔術師とは精神異常者なのだ。正常な人々が正常な観念と世界観を抱くのに対し、魔術師たちは世界を正しく認識することができない。彼らの認識は歪んでいる。魔術師たちはその精神異常ゆえに誤った観念と狂った世界観を抱き、そしてその乖離を埋めるべく生み出される現象こそが魔術だといわれている。
魔術師の存在というものは古来から正常な社会に対する脅威として認識されてきた。魔術師の存在は、正常で理知的な人々の社会を乱すものである。
一度覚醒した魔術の能力は子にも受け継がれることが経験的に判明している。正常な人々は、魔術師が生殖することを恐れた。魔術師たちが生殖によって増え続け、いつしか多数派となり、逆に正常な人々が少数派へと落ちぶれるのではないかという恐怖があった。為政者には、魔術師への対応が求められており、それこそが高貴なるものの責務であるとみなされていた。
そんな中、大陸に存在する国家の中でもこのカルドレイン王国は極めて寛大で慈悲深い国である──と、カルドレイン王国の治安局はいって憚らない。一面的にはそれも事実かもしれない。なにせ、カルドレイン王国は魔術師の命を取るまではしないのだから。あくまで魔術師は、その生殖能力を奪われた上での生存が認められている。
それでも、魔術師として覚醒してしまった人間にとって、その処置は言うまでもなく残酷なものである。たしかに彼らは、カタギであったときまでは、魔術師などといういかがわしい連中が野放しになるのは恐ろしいことだと考えていたし、捕らえられた魔術師に対する外科的な処置は、世のため人のため、当然のものと考えていただろう。
しかし、実際に自分がその魔術師の能力に目覚める段になると、彼らは愕然とする。彼らはその処置を避けるためにその能力を隠し通そうとしたり、逃げ出そうとしたり、あるいは抵抗する。
そして、そのような連中への対応を行うのは、ほかならぬ審問官である。多くの場合において審問官は去勢されたあとの魔術師がその任を務めている。
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