第2話
ブレイクスリーが表通りに戻ろうとすると、路地の壁に背を預けている審問官ロスの姿があった。半ばにらみつけるような視線からは仮面越しにも不満がにじみ出ているが、それを隠そうともしていない。
「終わったんですかい、ブレイクスリー先輩」
ブレイクスリーは目も合わせず、目を伏せたまま答える。
「やつは眠らせておいた。あとは俺たちでなくてもいい。審問局に引き渡すのは治安兵に任せよう」
実際、彼らの仕事はここまでだった。
魔術師を無抵抗の状態にするまでが彼らの仕事であり、その後のこと──つまり、魔術師から睾丸を抜いて去勢し、国家の管理下に置くなどの事務仕事は、いまでは治安局の裏方の仕事であった。かつてはその一連をすべて現場の審問官が行っていたというが、幾度にわたる組織の近代化改革により今ではすでに分業化されている。
「ふん! それはお疲れなこってす。ブレイクスリー先輩ばかりが仕事をして、おれはまた待ちぼうけしてましたよ」
「成功報酬の分配は規定通りに行うさ」と、にべもないブレイクスリー。魔術師から抜いた睾丸は精力剤の原料として高値で取引され、その売却益は伝統的に審問官への成功報酬に当てられている。
「……それに、ロス。なによりお前の魔術は街中で使うには向かないだろう」
「ブレイクスリー先輩、あんたあいかわらず俺を見くびっていますね」とロスはすごんだ。「あんたのその油断が、いつかあんたに痛い目を見せまさあね」
表通りに出ると、そこには大勢の野次馬が集まっていた。控えていた治安兵たちは人が入り込まないように路地の前を立ちふさいでいる。
ブレイクスリーは治安兵たちに路地裏で昏倒している魔術師の回収を指示すると、そのまま野次馬をかき分けるようにして歩きだした。
純粋無垢なる都市住民たちは、審問官が近づくとその場を素早く譲る。彼らは遠巻きに審問官たちの姿を見ながら、ひそひそと噂話をする。
黒い外套、帯剣、そしてなによりも特徴的な金糸細工の施された仮面──それがこのカルドレイン王国における審問官たちの姿だった。
魔術師を狩る魔術師。それが審問官である。
去勢された家畜を本義とする侮蔑語が、群衆のざわめきの中でささやかれた。
ロスは群衆をにらみつけて罵った。
ブレイクスリーは振り向きもしなかった。
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