第二十五話
あれから私とジェイクは、あっという間にママの料理を完食した。特にうずらの丸焼きを食べている時は、蟹を食しているかのように、私達は一言も喋らず頬張っていた。
完食してから、もう一羽に手を伸ばしては食べ、完食してから、もう一羽に手を伸ばすを私達は無言で繰り返す。
その様子を見たママは、「焼けばまだあるんだから、そんなに慌てて食べなくても良いのよ?」と微笑んでいた。
山のようにあったうずらの丸焼きが最後の一羽になったのを見て、私はすかさず手を伸ばした。
「……ん」
「むむっ」
私とジェイクの手がほぼ同時にうずらの丸焼きに伸びたのを認識した途端、互いに睨み合う。
「おいおい、ステラ。まだ食べれるのか? もう三匹目だろ? そんな小さな身体のどこに、うずらが入るんだ?」
「生憎、うずらの丸焼きは別腹なの。ジェイクこそ、もう食べられないんじゃない? いつもスマートなお腹が少しだけ出てるわよ?」
睨み合いが続いて、バチバチと火花が散る。お互い譲るつもりはないようだったので、私は椅子から立ち上がった。
「こうなったら、ジャンケンで決めましょう!」
「そうだな。それなら公平だし、文句もない」
ジェイクが私と少し距離をとって、気合いを入れるかのように袖を捲った。同じく私も袖を少し捲り上げ、ニヤリと不敵に笑う。
(ふふっ、ジャンケンは得意なのよ! 私の動体視力、思い知るといいわ!)
これぞ私の動体視力をフルに活用した、究極の後出しジャンケン! 普段は使わない分、ここぞとばかりに使うチート視力! サビイロ族の底力、とくと思い知るが良いわ!
「いくわよ? 最初はグー! ジャンケン、ポン――なっ……ど、どうしてっ!?」
私が出したのはチョキで、ジェイクが出したのはグー。結果はなんとジェイクの一本勝ちだった。
「そ、そんな……私がジャンケンで負けた?」
純粋にショックだった。私がジャンケンで……しかも動体視力で負けるだなんて!
ジェイクは少年のように拳を天井に突き上げ、「ハハッ、俺の勝ちだ!」と白い歯を見せて笑った。そして、自分の皿にうずらの丸焼きを乗せる。
「私のうずらの丸焼きがぁぁ……」
私があからさまに、シュン……としているのを見たジェイクは、ナイフでうずらの丸焼きに切り込みを入れた後、手で半分に千切って、私のお皿に乗せてきた。
「ほら。仲良く半分ずつ食べよう」
「ジェ、ジェイク〜! 貴方って、なんて素敵な人なの!?」
私は目をウルウルとさせながらお礼を言って、二人で仲良くうずらの丸焼きにかぶりついた。
◇◇◇
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
ジェイクが少し膨れたお腹を摩りながら、満足そうにお礼を言うと、「お口に合って本当に良かったわ」とママは椅子から立ち上がり、うずらの骨が乗ったお皿を下げてくれた。
「ふぅぅ……私も久しぶりに食べすぎちゃった」
病み上がりとは思えないくらい食べてしまった。その証拠にいつもぺたんこのお腹は、はち切れそうなくらいにパンパンに膨れあがっている。
私の膨らんだお腹を見たジェイクも、「病み上がりとは思えない食欲だったな」と笑われてしまっていた。
「ママの料理は別腹なの! ジェイクも美味しいと思ったでしょ?」
「確かに全部美味かったな。ステラのお母さんはプロの料理人なのか? うちのシェフと料理対決をさせたら、良い勝負いくと思うんだけど」
私は少し照れたように、「あー……」と呟いた。
「実はママは料理研究家なの。最近、SNSに載せたレシピが人気になった影響もあって、テレビに出ないかって誘われてるみたい」
「へーー、凄いじゃないか! それじゃあ、ステラもお母さんの手伝いで料理するのか?」
痛いところを突かれた私は言葉に詰まり、すぐに返事が出来なかった。耳を頭に沿って折り畳みながら、視線をあちこちに泳がせて、「えっ……と」と口籠もりながら苦笑いをする。
「成程。ステラは料理は苦手なんだな?」
ニヤリと笑いながら問いかけられると、私は弱々しく頷く事しか出来なかった。
「実は包丁が怖くて。で、でも! これから、ママみたいに頑張っていくから安心して!」
ハッと我に返った時はもう遅かった。何故、ジェイクに安心して! と宣言しているのだろうかと疑問を抱いてしまったのだ。
(な、なな……何言ってるのよ、私ったら! これじゃあ、ジェイクと二人で家庭を作っていくみたいじゃない!)
私が視線を落としながら色んな事を頭の中で考えていると、ジェイクはブハッ! と吹き出して、「めちゃくちゃ期待してる!」と肩を叩いてきた。
「あぁ、そうだ。ステラ、この後の予定は?」
「特にないわ。風邪で学校を休んじゃったし、家でゆっくりしようと思ってたの」
「そっか。元気そうだし、夜ご飯一緒にどうかと思ったんだけど、今日は家でゆっくりするか?」
そう言われた私は、目をパチパチと瞬きさせた。一瞬、何を言われてるのか分からなかったが、ジェイクの言った意味を数秒かけて理解した後、「行く!!」と元気よく返事をしていたのだった。
「ちょっと待ってて! ママに言ってくるから!」
私はソファから勢いよく立ち上がり、キッチンで皿洗いをしてくれてるママに許可を貰いに行った。
(うぅ〜〜、どうしよう。すっごく緊張しちゃう! ママ、どんな反応をするだろう!? いざ、ママに言うとなると少し緊張する。でも、ジェイクとご飯は行きたいのだ。頑張れ、私!)
ドキドキと煩い心臓をどうにか落ち着けてから、私はキッチンを覗き込んだ。
「ママ、ジェイクと夜ご飯食べてきて良い……?」
私が少しもじもじとした様子でお願いすると、ママは水を止めて身に付けていたエプロンの裾で、手の水滴を拭いながら考え始めた。
「ジェイク君と? うーん、病み上がりなんだから無理はして欲しくないんだけど。でも、ジェイク君と一緒なら、大丈夫かな」
「じゃ……じゃあ、行ってきて良い?」
恐る恐るお伺いを立てると、「えぇ。でも、早めに帰ってきなさいね?」とママは笑いながら頭を撫でてきた。
それを聞いた私は嬉しくなって、尻尾を左右にフリフリと振る。
「ありがとう、ママ! ジェイク、早めに帰って来るなら良いよって!」
私がキッチンから飛び出していく姿を見て、ママは「本当にわかりやすい子ね」と笑っていた。
◇◇◇
ルンルンと軽くスキップをしながら、私はジェイクの隣に座った。
「ジェイク、お待たせ!」
「その様子だと許可は貰えたんだな」
「え!? なんで分かったの!?」
私は驚いて尻尾を束子のように膨らませた。私の反応を見たジェイクは、プッと吹き出して、「いや、誰がどう見たって分かるだろ」と笑っていた。
「後でステラのお母さんにもお礼を言わなきゃな」
「それで!? これからどこに晩御飯食べに行く!? 繁華街に行くなら、ニャニャスってお店がお勧めで、他には……な、何? その目は?」
ジェイクは私の目をジッと見つめた後、ニンマリと笑ってこう答えた。
「俺の家に行くぞ」
「………………はい?」
俺の家って、ジェイクの家? って事は、ジェイクのお父さんがいる……いや、そりゃいるんだろうけど! こ、こんなに早く行く事になるだなんて!
「ちょ……ちょ、ちょっと待って! 私、着替えてくる!」
私はリビングを飛び出し、急いで自室へ向かった。急展開すぎて、ぐるぐると頭の中で状況を整理し、私がすべき事をピックアップしていく。
まず、化粧を直すでしょ? 服ももっと可愛いのに着替える。後はジェイクから貰ったネックレスを着けていこう! それからそれから––––。
「あぁもう! どうして、いつも急なのよぉぉ!?」
私はパニックになりながら、着ている服を急いで脱ぎ、クローゼットに入っているお洋服を取り出してはベッドに広げるを繰り返していった。
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