立ちんぼ野口マイナ
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大久保公園の向かい、ハイジアの駐車場出口脇の植え込み前。ここが私の定位置だ。
別に公園の周辺ならどこに立っていても同じ事なのだが、何日か連続して立ち続けているうちに、ここが一番落ち着く場所になった。
ピアニッシモのメンソールを一本吸いながら、公園を取り囲んでいる、地面に突き刺さった細長いのっぽの菜箸を見つめる。夜になって街頭やビルから漏れる光がそれを照らすと、なんだか針のように鋭く尖って見えた。怪獣みたいに馬鹿でかいハリネズミが目の前にいるみたいだ。
最近はすっかりここも観光地みたいになった。
私たちを買うつもりもなくただ遠くから眺めているだけの人や、スマホで歩きながら撮影する人が増えた。
眺めているだけなら特に迷惑な事はないけど、撮影は本当に迷惑だから辞めてほしいと思う。
動画をユーチューブで見たけれど、顔にモザイクは掛かっていなかった。こんな私たちだって守られるべき最低限のプライバシーって物はあるのだ。
そんな無神経に撮影をする奴らに投げつけるイメージで吸殻を地面に投げ捨てたその時、ミズキの声がした。
「マイナちゃん!」
薬局の方から手を振りながら笑顔でミズキが走ってくる。
高めの位置で結んだツインテール。フリルの付いた黒いワンピースに厚底ブーツ。小さなピンクのリュックを背負いつつ、大きな黒いトートバッグも肩から下げている。いつも通りの変わらない地雷系少女の出で立ちだった。
さらに追加で今日は左手にぬいぐるみらしき物を抱えている。
ミズキは私の目の前に来るとピョンと小さくジャンプした。絵に描いたような無邪気さがとてもかわいい。
「マイナちゃん久しぶりだね!出稼ぎどうだった?」
そう言いながらミズキは私と腕を組んだ。
「掛けを全部払っても少し余るくらい稼げたよ」
「おー!凄い!頑張ったね!」
ミズキも立ちんぼをしている。知り合ったのは、一年くらい前だ。
私が定位置で客を待っていると、道路を挟んだ向かい側のガードレールに寄りかかって、同じように客を待っていたミズキが、突然私の目の前にやってきて困り果てた顔をしながら「お姉さんナプキン持ってますか?」そう聞いてきたのだ。
私は持っていたナプキンをミズキにひとつあげた。子供のように小さく華奢な女の子が困っているのを放ってはおけなかったのだ。
そしてそれをきっかけに、ミズキと私は顔を合わせるとお喋りをするようになった。
仲良くなるのには時間は掛からなかった。ホストという共通の話題があったからだ。
すぐに打ち解けて友達になった。
当時のミズキはナプキンを買えないほどお金に困っていた。
立ちんぼで稼いだお金はホストクラブであるだけ全て使ってしまって、生活費を残しておくという発想がなかったのだ。
ミズキはネットカフェで寝泊まりしていたけど、その料金も支払えないと泣きついてきた。だから私が拠点にしていたネットカフェの個室にミズキを連れていってあげた。狭い部屋で二人身を寄せあって眠った。
食事も一日一回、菓子パンをひとつ食べるだけだったから、私のご飯をわけてあげたりした。
とにかくお世話できるだけミズキのお世話をした。
なぜそこまでしてお世話したのかといえば、やはりミズキがとにかくかわいいからだろう。顔が整っているとかそういうことじゃない。
人懐っこく無邪気で、屈託がなく、距離感をどんどんと縮めて来る。そんな所にとにかくやられてしまったのだ。
きっと私は妹が出来たみたいで嬉しかったんだと思う。
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