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「そのくまさんかわいいですね!お兄さんのお友達ですか?それとも誰かにプレゼントするとか?」
女は矢継ぎ早に言葉を投げつけてきた。
フリルとリボンのついた、いかにも少女趣味な雰囲気の黒いワンピースを着て、厚底ブーツを履いたその女はいわゆる地雷系と呼ばれる類いの女だというのは、自分が持っているジャンル的に非常に偏った知識の山の中からでも一発で取り出せる物だった。
こういう類いの女が出てくる漫画を読んでいたからだ。
前髪を真っ直ぐ切り揃え、目の下のぷっくりと腫れ上がった涙袋をピンク色に塗りたくったその顔は、どう高く見積もっても高校生としか思えない幼さだった。
「これは仕事道具。急いでるからごめん」
女の脇をすり抜け、早足で受付の男に教わった通りの方向へと歩き出そうとすると、左腕の肘の辺りを背後から小さい手に思い切り掴まれた。
後ろを振り返り確認するとを掴んでいたのはさっきの女だった。
周囲の人たちの奇異の視線がこちらに集まる。
「お兄さん!そのくまさん少し見せて!」
女の表情は理解に苦しむほど切迫していた。
歌舞伎町に足を踏み入れてから、小脇に抱えた熊のぬいぐるみに少しの視線すら誰も送らなかったのにも関わらず、なぜこの女は一瞬でぬいぐるみを認識して、こんなにも執着を見せるのか。
その執着の対象がいわつくきの呪物であるがゆえ、言い知れない恐怖が気づくと芽生えていた。
何かのパワーをこの女が感じ取っているのではないか。そう直感した。
「今急いでるんだ。本当にごめん」
女の腕を振り払う。引き留めるような力など華奢な女には無かったようで、薄い紙を破るようにあっさりと体は自由になった。
早く会場に向かわなければいけないという気持ちと、この女から早く逃げ出したいという気持ちとが入り交じった状態の中、俺は全速力で走った。
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