婚約破棄した幼馴染と再開したけど、俺はまだ彼女のことが全然大好きみたいだ
あきばこ
第1話
「拓海ー!よーっす!!」
「ん、はよ」
親友の田崎真人(たざき まさと)は、俺を見つけると自分の席も確認せず、大型犬のように駆け寄り何時ものように話しかけてくる。
「お前とは本当、腐れ縁だよな」
「ほんとな」
短く答えて親友の顔を見る。よく言えばムードメーカー、悪く言えば暑苦しい。だが気遣いの出来る良い奴だ。勉強はできないけどスポーツは万能で顔もいいから、所属してるテニス部では女子にもてる。
ちなみに拓海は俺の名前、星乃拓海(ほしの たくみ)。真人に比べて地味でインドア趣味。勉強は一応上位をキープできてるけどスポーツは並。身長はあるけどひょろいから、全体的に筋肉質でがっしりとしている真人とは真逆のタイプ。性格やら体格は真逆だけど、でもこいつと一緒だと何故か居心地がいいのが不思議だ。
「同じクラスの奴少ねーなぁ」
「これだけいれば十分だろ?」
ぱっと見5人ほど。複数クラスが分散したのだから、俺と真人を合わせればむしろ多いほうだと答える。それを聞いた真人が、急に思い出したように話題を変える。
「そーだ、知ってるか?転校生くるんだってよ!」
「へー」
「なんだよ、興味なさそーだなー」
今日は高校二年の新学期初日。クラス替えもあったんだから知り合いもそう多くない今、転校生といわれてもね。知らない奴が一人増えるだけだろう。
「でもすっっっっげー美人だって聞いたぜ!!」
「へー」
「お前ほんと、こーゆーの興味ないよな」
「別に興味なくはないよ?ただ付き合うとかは、今はめんどくさいかなって」
「ほーん……やっぱあれだろ?あの子に操立ててんだろ?」
「はぁ?もう昔の話しだろ?」
「昔って、小学校の頃なんて最近だろ?」
これだから、幼馴染ってのはいろいろ知られすぎてるのが困る。まぁこちらも恥ずかしいネタを握ってるし、それにこいつはネタにはするけどしつこくあてこするような事はしないからいいんだけどね。
俺も男だから、美人と言われれば気にならないわけじゃない。でもそれほどの美人なら他の男子がほっとかないだろうし、そこにいきなり俺が割って入って射止められるかといえば、答えはノーだろう。
あれだ、チキンなのだ。自分でも自覚してる。それにさっき言ったことも嘘じゃない。勉強もそれなりに頑張ってるし、インドア趣味のゲームや漫画なんかも楽しくて、今は女性と付き合うよりもそちらに時間を費やしたいと思ってしまう。
……未練……
まぁ昔の女が忘れられないってのが1番の要因だってのは自分でも判ってる。それっぽく言ったけど小学生の頃の話だ。そんな幼いころの話を未だに引きずってるんだから、女々しい話だ。
「もうすぐチャイムなるぞ、そろそろ自分の席探しに行け」
「おう、また後でな!」
この話を引き伸ばされるのもめんどくさいのでお開きにする。手をブンブン振りながら席を探すでもなく、去年同じクラスだった女子に話しかけに行く真人。よくやるわ。
初日の座席は出席番号……あいうえお順だ。俺は窓側の1番前。黒板もよく見えるし外が見える窓側は好きだけど、ま、すぐ席替えしちゃうだろう。
そういえば隣の奴がまだ来てない。もうチャイムがなる寸前で、新しい面々に教室内は賑やかだけど殆どの奴は席についている。もちろん真人みたいな例外も少数いるが。好奇心で、机に雑に貼られている紙に書かれた苗字を覗いてみる。
【星川】
座席はあいうえお順だけど「ほ」から始まる生徒が特別多いわけではなく、あ行で前から始まり、次の列は後ろから続き、その次はまた前から、みたいな感じのようだ。名簿では俺のひとつ前の人物。
……自分にとって思い入れのある苗字。まぁ珍しい苗字でもないだろうし、当人は国内ではあるけど離れた場所に居る筈。さすがにそいつではないだろう。ただまだ来ていないこいつが転校生の可能性があるとすると……そんなことを思うと心が少しざわつく。
「おーい、ホームルーム始めるぞー、席に……は付いてるな。静かにしてくれー」
担任は古典の立木先生だ。めんどくさがりで生徒にすぐ仕事を投げることはあるけど、それ以外は優しくて融通も聞くので大当たり。俺の家の事情もあり事前に知ってたんだけどね。
先生の後ろには女生徒が控えている。彼女がまだ来てない隣の星川さんかな……。そんなことはありえないと思いつつも心臓が跳ね上がる。
「まずは転校生を紹介する。学年が変わったばかりだけど、学校のことは知らないことが多いと思うから、気を使ってやってくれ。それじゃ」
先生が呼び込み、その女生徒が教室に入ってくる。
亜麻色の綺麗で長い髪が移動するたびに揺れサラサラだとアピールする。モデルかと比喩しても遜色ないスタイル。顔は凄い整ってて、同年代なのに綺麗で年上のようにも見える。
それが素なのか、それとも緊張しているのか。美人の転校生に、初対面のクラスメイトが可愛いだの綺麗だのと騒ぎ出す教室の喧騒を余所に、その表情はツンと澄ましたようで、興味ありませんとでも言わんばかりにも見える。
……でもなんでだろう、見覚えがあるような……彼女の顔をじっと見ていると教室を見渡していた彼女もこちらの視線に気付く。目が合って、そして時間が止まる……
すごい綺麗になってるけど彼女……なのではないか?
彼女のほうも俺の顔を穴が開くほど見て、次第にぱぁっと花が咲いたような笑顔になる。先ほどとは打って変わって、子供っぽい可愛らしい笑顔が思い出の中の彼女の面影と重なる。
でも彼女ははっとしたような素振りをして、すぐにすっと元のお澄まししたような顔に戻る。先ほどよりもちょっと機嫌が悪そうにも見える。
「じゃぁ星川さん、先に自己紹介いいかな?」
「はい。はじめまして、今日からこちらの学校でお世話になる星川海羽(ほしかわ みう)です。至らない点も多いと思いますが、よろしくおねがいします」
短く閉め、優雅にお辞儀をすると拍手と男子からの野次が飛ぶ。
「えーと席はどこだっけ?ああ、そこだな。星野の隣なら丁度いい、彼女のこと頼まれてくれるか?」
「え?あ、はい」
突然話を振られきょどってしまった。彼女のほうも少し驚いたような顔をしたけど、でもすぐに表情を戻し静かな口調で「よろしくおねがいします」と丁寧に挨拶してから席に着く。
それから暫く新年度についてだの、今日これからの予定だの先生からの説明が続く。教室内はわいわいと賑々しい。ただ、こちらをチラチラとみてくる彼女が気になりすぎて、先生の話も教室の喧騒も、何も頭に入ってこなかった。
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