第3話悩みは二つ
女性というものはよく話すもので、明石がトイレに行ってからというもの、俺は白瀬さんに質問攻めにされている。
「初めてであったのはいつなの? どこに惹かれたの?」
「初めて出会ったのは何年か前で明石は高校生でした、、、」
いかにも女子高生という質問にどう答えたらいいのやら。
「そうなんですか! 何年ぐらい付き合っているんですか?」
「どれぐらい付き合ってるかって言われても、正直友達として過ごした期間も含めると二年くらい、、、もう少し長いかと思いますが」
「結構長いんですね。正直嫉妬します」
いかにも女の嫉妬といった感じだ。
「それより、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな」
「なんですか?」
俺は少し勇気を出して聞く。
「多分もう知ってると思うんですが」
前置きし一呼吸おく。
それだけ繊細な話のはずだ。
でも、女性にとって繊細な話なのかは、男性の俺からはわからない。
「その、あまり気を悪くしないで欲しいんだけど、明石の男関係に関して、、、です」
少し間があって白瀬は答える。
「やっぱり気づいてたんですか、あの子の男漁り」
「まあね、でもそんなに人数は多くないんじゃないかとは思うんですが、どうなんでしょうか?」
思い切って聞いてみた。
「それ、答えてショック受けないんですか? 明石の恋人さんに私からそんなことを伝えるのは少し気が引けるのですが」
「明石の男遊び、、、は前から気が付いては居たので、心の準備はできてます。」
俺はそう言いつつも緊張は隠せてはいないだろう。
「本当に言って大丈夫なんですか?」
「聞かせてください」
「その前に一つ言っておきますが、あの子は本当にあなたのことが好きなんだと思います。なんと言うか、あの子は本当にあなたと結婚したがってる、それぐらいあなたのことが好きなのは間違いないと思います。なので、それはわかって欲しいんです」
「それは付き合っている僕が一番知っていると思います。何せ友人時代から何年も一緒なんですから。ただ、やっぱり気になってて」
「それじゃあ言います。私が知っているだけで、百人以上はホテルかどこかに連れ込んでます」
想像以上の人数に唖然とする。
「連れ込んでるのは知ってたけど、そんなに多いとは思いませんでした」
「彼女は結婚は僕がいいとずっと言っているんです」
「それは知ってますし、明石は本気で言ってると思います」
白瀬さんは迷いもなく、そう言った。
高校生の恋愛なんて結婚にまで発展する方が珍しい。そんなことは当たり前だ。自分がよく知っている。同じ人と付き合っては分かれてを繰り返す友人、次から次に別の女性と関係を持つ友人達を見ている。そんな中でも、俺と明石はかなり特殊だと思う。何せもう三年以上程付き合っている。
「僕もそう思ってるんです、ただ、やっぱり何を考えてるのかわからないことが多くて」
困った顔でもしてしまったのだろうか、それに対して白瀬さんは。
「んーなんで言うか私は、あの子の考えてることわかる気がします」
「それはどう言うことですか? 女性の意見が聞いてみたいです」
「なんで言うか、自分にとって最高の結婚相手とかパートナーとか、自分に合う服とか、自分に合う化粧品とかっていろいろ試してるうちにわかってくると思ってて、だからいろんな人を連れ込んでいるんじゃないかと思います」
「それで選ばれたのが僕と言うことですか」
「そんな感じじゃないでしょうか?」
確かにその説明は一理あるとは思う。
彼女の行動が気になり過ぎて、女性脳についての心理学の本を読んだことだってある。白瀬さんの説明と同じような内容の説明が書かれてあった。
だが、男としては知ってはいても、やはり理解はできない。いや理解できていても納得できないと言うべきかもしれない。
どう接したらいいのかもよくわからない。納得できないが理解はしている。心が追い付かない。追いつけない。だからわからない。どう接したらいいのかさえ答えもわからないでいる。
そんな話をしていたら明石が戻ってきた。
「なんの話してたの?」
と白瀬さんに目を向けた明石は聞いた。
俺たちの会話は聞こえては居なかったようだ。よかった。
「彼氏さんとの馴れ初めを聞いてたの」
白瀬さんはうまく答えてくれた。
「私が傘を忘れ学校行っちゃったから帰るときに傘を貸してくれたの、、、好きになったのはその時あたりかな、、、」
「へぇーそうなんだ。優しさに惹かれたの?」
「まぁ、そんな感じかな」
「そのとき、雨も結構降ってたし、女子が雨の中傘しないで家に帰るのはどうかと思ったんです」
そんな話をしていると明石は言い出した。
「あの時は、ありがとう! それじゃあ私、そろそろ時間だから、行くね!」
トレーを返却口に返しに行く。
「明石、この後って確か受験勉強だっけ?」
「そう!!! それじゃまたね」
明石はそう言い残し、お金を置いて店を出る。
「追わなくていいんですか?」
白瀬さんは言った。いや言ってくれたのかもしれない。
「ちょっと見てきます。今日はありがとうございました」
俺は席を立ち明石を追いかけようとする。いや、でも白瀬さんを置いていくわけにもいかない。
「私はいいので早く行ってください。見失っちゃいます」
白瀬さんはそう促してくれた。
「ありがとうございます」
御礼お言い、その場を後にする。
明石の後を追う、気づかれないように、引き離されないように距離を取る。
明石の姿は人気のない裏路地に入って行った。
彼女は裏路地に男の姿を見かけると男の近くまで歩みを進めた。
俺は思った。
黒だ、今日も男をホテルに連れ込む気だ。
止めないと、そう思った。そう思い物陰から身を乗り出して止めに入ろうとした時、彼女は男の首に両手を回し男の首筋に牙を突き立てた。
明石の口には見たことのないくらい鋭利な牙が生えていた。牙を男の首筋に突き立てる。男はうめき声を上げるが、明石は器用に手に持った布で男の口を塞いでいる。
一目で手慣れていることがわかった。男は膝を突き、気を失った。
明石は男を人目につかないよう、音をたてないように男を座らせ、口についた血を拭き取り、満足そうな顔で笑っている。
明石の目は、真っ赤に染まっていた。
少し遠目で見てもハッキリとわかる。
あれは牙で、目は紅く光っている。
そして男は完全に気を失っている。
「っ!」
声が出ない。俺はあまりのことに驚愕しつつその場を去った。
ゆっくりと、明石に気づかれないように、そっとその場を去った。
路地裏から少し離れて走り出す。途中、足に何かが引っかかって音が鳴ったかもしれないが、裏路地から道を曲がり明石からは見えない場所だったので気にせず走る。
俺は家に向かって走り出す。
一体何が起こったんだ。
今日は眠れる気がしない。
明日からどんな顔して合わせればいいんだ。
桜の花芽も発芽の準備をしているこの時期に、俺の心は震えている。
あれは一体なんだったのだろうか、男の血を吸うのが性癖なのか、もしそうだとしたら俺は彼女とどう向き合ったらいいんだろうか?
明石とは同じ大学に行くことになるだろう。
俺も明石もたまたま同じ大学を志望している。
明石の学力なら、合格は間違いない。
俺は合格はできるだろうが、まだ油断はできないので受験に向けて勉強を続けている。ほぼほぼ同じ大学に行くのは確定だ。
顔を合わせるのが気まずい。そんな先のことより今のことだ。次に会うときにどんな顔をして会えばいいんだ。
何を考えながら、何から逃げているのだろう。志望校など変えればいいじゃないか。
とにかくこの場を離れよう。
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