第20話 教室

 そういえば…

 落合さんの席は、どこだったか…

 窓際の後ろの方だったはず。

 見ると、袋がぶら下がっている机が有った。

 簡単な布の袋には、何冊か他の本が入っている様だった。

 人の持ち物を、勝手に見るのは気が引ける。

 罪悪感を感じながら手に取り覗くと、薄い本が見当たらないので、中の物を出させて貰った。


 ギャルの不思議 

 モテカワヘアー

 長さ別*盛り髪アレンジ100

 塗った所全部≒目になる 奇跡のアイメイク


 これは…

 落合さんの袋に間違いない。

 夢の詰まった袋には、薄い本が入っていなかった。


 袋に戻そうと本を掴むと、間からパタッと薄い本が落ちた。

 床から拾って開く寸前、視界の隅が騒がしく感じて顔を上げると、窓の向こうの図書室からハチャメチャに動くボンコが見える。


「おーい!」


 手を振ったけど、声は届かない。

 ドヤ顔で薄い本を掲げて見せた。

 有ったぞ、とツンツン指で示す。


 ボンコの動きが激しくなった。


 そんなに急かされても…

 実はトイレへ行きたい。

 ジェスチャーで…


 薄い本

 置いといて

 トイレ

 行ってから…


 ボンコの動きが更に激しくなった。


 よく見て!

 薄い本

 これこれ!

 置い

 といて…


 ゲリチ!後ろ!後ろ!

 ゲリチ!後ろー!!!


 危ない!!!


 え…


 逃げてー!!!


 え…?

 なんでだろう…

 ボンコの言っている事が分かる…


 首に何かが巻き付いた。

 ンッグゥーーーーーーーーッ…






 ***

 コンコン


 扉をノックした。


 コンコン


 ノックが返ってきた。


 コンコン


 次の扉をノックした。


 コンコン


 ノックが返ってきた。


 ダメだ。


 外へ飛び出して公園へ向かう。

 地面が泥濘んでいて、前に進めないので他を探す。

 やっと見つけて座ろうと思ったら、壁がパタパタと倒れて広大な草原の、ど真ん中に居た。

 風が強い。

 次の所は、入った途端に壁が透明になった。

 透明な壁の向こうを行き交う人々から丸見えだ。

 次は床の真ん中に直径10センチ程の穴が空いていて、横にトイレ七段と書いてある。

 一応またぐと、床がぐらぐら揺れてバランスがとれない。

 こんなことでは…

 トイレ七段は受からない。

 どうしたらいいのだろう…

 体が冷たくなっていく…

 誰かに髪を引っ張られている感覚…

 このままでは禿げる…


「綺麗な髪してるな…」


 ハッ


 目を開けて体を起こした。

 ここはどこだろう?

 カーテンが閉まっていて薄暗いけれど…

 教室の床みたいだ。


 ああ…

 夢か…

 嫌な夢だった。

 嫌なトイレばかりで…

 だけど…

 もし…

 普通のトイレが現れていたら…

 今頃、絶望の海に沈んでいたかもしれない…

 危なかった…

 嫌なトイレで助かった。


「白卯はピアスしてないだろうな?」


 ヒッ!?


 鳥肌が立った。

 頬から耳にかけてヌルヌルと悪寒が広がる。

 髪を上げられた首筋にかかった息で、全身の鳥肌が凍った。


 こいつ…

 多分…

 ダニだ…


 どうしよう…

 体が冷たくなって動かない…

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