第13話 心象

 消えているのは自分だ。


 ワラレテナイワールドンから、自分とボン子は消えているのではないか…

 或いはワラレルワールドン側にいた、自分の別人かそのまんま人が、入れ替わりでワラレテナイワールドンへ行っているのかも知れない。


「てかもう1回まじ走ったらぎゃくに戻れる的な!?」


 的な…


 上手くいくのだろうか…

 もし戻れたとして…

 ワラレテナイワールドンに、ワラレルワールドン出身の、自分の別人かそのまんま人がまだ居たらどうしよう…

 一緒に暮らさないといけないのだろうか…

 うまくやっていけるだろうか…

 もし、ワラレテナイワールドンではなくて、今居るワラレルワールドンとは別の、新たなワラレルワールドン、第二ワラレルワールドンへ行ってしまったらどうしよう…

 そして第二から第三へ、第四、第五、第六…

 毎回、G4に走ってもらうのは申し訳ない。

 自分もやっぱり走るべきだろうか…

 走るの苦手だー…

 G4の、あの見事な走りに合わせられる気が全くしない…

 どうしよう…


 良くない事ばかりが頭に浮かぶ。

 分からない事は、いくら考えていても分からない。

 とにかく試してみるしか方法はない。

 とりあえず明日シゲヤマ達に走って貰おうと決めて、たこ亭を出た。


 駅方面へ、ボン子と一緒に歩いて行く。


「ねえ…あの3人…岡リの事、毒リに見えてるみたいだったよね…?」

「毒リ?…あーどうだろーてかあの人達、岡リの事キライ系みたいなー…元の世界でも魔女的な事言ってた…ぎゃくにー」


 ボン子の話によると、最初は優しかったのだけれど、G4が学年トップの成績だと分かってから、岡リの態度は豹変したらしい。

 カンニングを疑われたり、話しかけてもスルーされたりと、いちいち感じが悪いのだそうで…

 自分の岡リのイメージと全く違うので驚いた。

 岡リが自分に優しいのは成績が悪いからなのだろうか…

 そう思うとゾワッとした。

 今、ワラレテナイワールドンの岡リを見ても、美人とは思えないのかも知れない。


 駅の近くまで来た。

 さっきから街並みに違和感は感じていた。

 なんか、ここに何かが有った様な…

 あそこにも有った様な、無かった様な…


 そして違和感は痛感に変わって、ボン子が若干壊れた。


「あー…あー…あー…ワールドンアイス…」


 駅が無い…


「あー…あー…」


 ボン子の大好きな、フルーツたっぷり巨大パフェを提供するお店、ワールドンアイスクリームは駅ビルに入っていた。

 その駅ビルも丸ごと無くなっている。

 ボン子にとって駅とは、ワールドンアイスクリームだったのだろう。


 愕然としているとシゲヤマ達が来た。


「オハオハー!」

「おっはー!」

「オハ!てかまじ急いだ方がいいかもー!」


 オハ…?


 愛しのパフェを失って悲しみに暮れるボン子と、帰る手段を失って途方に暮れる自分の前を、チャラチャラと困惑が通りすぎた。

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