第11話 1列

「てか毒リンゴ!まじわかるー!」

「てかまじあの顔はいっしょう毒リンゴ出してくるー!」


 一生…


 岡リは毒リに見えている…

 岡リだけ…

 なんで…


 ボン子を見るとスンとしている。

 その顔はどういう…

 気持ちが読み取れない、ボヤッとしたボン子の目がカッと見開いた。


「イケメン!」


 ギラついた視線の先、廊下を歩く浴衣のイケメンがチラリと見えた。

 ボン子と一緒に廊下へ急ぐ。

 教室前方の出入口を覗く2人の前に、ぬーっと何かが立ち塞がった。


「うわぁーっ!」


 咄嗟に飛び退くと、兵隊が立っている。


「まえぃえーーー!!!レロ」


「ギャーッ!」


 声に押され、慌てて席に逃げ込むとチャイムが鳴った。

 本日二人目の特別老人講師、國枝先生そのまんま…が軍服の様な物を着て現れた。


「進めーーー!!!レロ」

 ザッザッザッザッ…


 着ている物以外は同じ見た目の、そのまんま人だ。

 なんで…

 G4以外でせっかく現れた、そのまんま人がイチレツなんてガッカリ過ぎる。


 イチレツとは國枝先生のニックネームだ。

 先生は上の歯が右半分、下の歯が左半分だけ生えている。

 左右逆だったかも知れないけれど…

 とにかく噛み合わせると1列になるのでイチレツと呼ばれている。


 まだ割られる前の世界、ワラレテナイワールドンでは、イチレツが誰かと会話していても話が噛み合っている所を見た事がない。

 途中から全く関係のない自慢話になるか戦争の話になって、相手はうんざりして終わるというのが殆どだった。


「えー…レロ…ワタクシはぁ…二足のわらじを履くものです…レロ」


 1列に並んだ真ん中の前歯が無いので、そこから時々ベロが出てくるのもワラレテナイワールドンからお変わりなくそのまんまだ。


「えー…ここら辺一帯のぉレロ…所謂、権・力・者とぉ…おー…いわれている者達のぉレロ集まりでぇー会長をしております…しております…ゲホッゲロックカーッ…レロ」


 此処ワラレルワールドンでも話が通じそうな感じはしない。

 ササクラ達と同じ人種、戦力外そのまんま人が1人増えただけだ。

 いつもの歌が始まった。

 これもまたそのまんまだ。


「かえーえってくるーぞーといさぁーまーしくーレロ…」


 イチレツの歌唱が続くなか、放送が流れる。


 ――下校の時間になりました早く帰りましょう。


 イチレツの歌唱が続くなか、みんなザワザワと帰っていく。


 えー…


 1日の授業がもう終わった。

 やっぱり早い…

 時間の進みが早いとは感じていたけれど…

 こんなに簡単に授業が終わるのならば、ワラレルワールドンのままでもいいかもしれない…

 そんな事を考えていると、G4が帰って行くのに気付いて慌てて声をかける。


「ボンちぃ!後で電話していい?」

「電話ないしー!今から来て!たんてい!ホームズ!」


 探偵ホームズ…

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