教室四隅同時走

メメ

第1話 まじ

「あーまじだめー」

 佐々倉が、机に突っ伏して白目をむいた。


「まじむりなんだけどー」

 藤宮が、伸ばした左腕に頭を乗せて白目をむいた。


「動きたくないんだけどーまじで」

 鈴江が、背もたれに頭を乗せて仰向けに白目をむいた。


「てかまじだりー」

 重山が、机に両足を乗せて白目をむいた。

 制服のスカートが捲れ上がったが安心だ。

 ジャージを履いている。


 名門清蘭女子高等学校のイメージとは、かけ離れたよくある放課後風景だ。


「あーまじだるいんだけどー」

「てかだれか代わりに家帰ってーまじで」

「まじむりすぎるー」

「てかまじだるいしー」

「まじ帰れないんだけどー」


「ねぇ!待って!てかまじでだるいんだけど!」


 人を一旦待たせておいて、改めて言わなくても、さっきからずっとダルいのは分かっている。


 いったいこの浅い会話はマジでなんなのだろう…

 何でそんなにダルいのか…

 大体ダルい人は、そんなに大きな声は出ないのではないか…

 そのよくとおる声量を、演劇部や合唱部などでもっと有効に使ってもらいたいものだ。


「てかなんか食いもんないー?」

「チョコあるよーほれっ!」

「ありがとー…てかカラだしまじゴミー」

「うけるーてかボン子捨てといてー」

「てかボンボンってなんでボン子なんだっけ?」

「てかボン子いっしゅんハムエだったよね?」

「え…待って!ボン子まじで本名ってなんだっけ?」


「本名?ボンレスハム太郎だけど」


 本人が言うのだから仕方がない。

 鈴江公佳の本名はボンレスハム太郎なのだろう。


「ねぇまってー!爪1個取れてるんだけどー!まじ死ぬー!」


 死にません。


 よく見ると4人とも爪がキラキラしている。


「この前ダニーにネイルみつかってまじにらまれたー」

「うざーまじで」


 え…

 それだけ?

 睨まれただけ?


 ダニーとは校則に厳しい谷先生の事だろう。


 自分は爪に何も塗っていない。

 長さも指の肉ギリギリまで短くしているというのに指導室に呼び出され、ピンクいから塗っているのではないかと、ヌルヌルヌルヌル指を撫でまわされた…

 今思い出しても鳥肌が立つ。

 ダニヤロ~不公平だっ!

 ちょっと成績がいいからって…


 まあ…

 ちょっと…

 というか大分いいのだけれど…


 さっきからアホな感じ満開のギャル4人組、略してG4はアホではない。

 成績は学年トップなのだ。

 順位は入れ替わっても1位から4位までを必ずG4が占めていた。

 いったいどんなカラクリなのか誰か教えて欲しい。

 それに比べて自分はいつも赤点の劣等生だ。

 可愛い制服を着た品のある女子高生に憧れて、偏差値の高いこの学校にギリギリ入学出来てしまったのが間違いだった。


「ねえ!てかナナフシ知ってる?」

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