勇者のまねごと

茶らん

一章 勇者の子は花のよう(三人称視点)

第1話 勇者の子『ルア・ムーティス』


「ルサバ、ルサバ、時の未来に彼の子に私の力を託そう。」


勝利の時。

誰もが油断をした。

それは、あの『勇者』さえも怠る。

気づかぬ、あの瞬間に『ルサバ(呪い)』は発動したのだ。





「この子は、呪われた子じゃ。」

占い師はお構いなしにそう告げる。

その一言が、彼(勇者)にはどう響いたのだろうか。

彼の反応が一番に気になるのは、きっと、あの『魔王』であろう。

「あなた…もしかして…これって。」

彼の妻であるシェーンは声を振るわせながら、発し、彼の横顔を見つめる。『勇者』は震え、顔が真っ青になっていた。

「俺は、何をしていたんだ…あのとき、魔王は死んでなかったのか?」

勝利を確信していた彼にとって、それは『油断』によって成されたものだった。

「占い師さん、一つ、聞きたいことがある。」

「なんだい。」

「どうやったら解ける?」

「無理だ。」

即答だった。暗いテントの中、占い師は目を細めて言った。シェーンの両腕の中で抱き抱えられている赤ん坊は、さぞ幸せそうに笑顔を見せていた。こんなにも、絶望な中にいるというのに。

「ほ、本当に、無理なのか?」

彼は占い師に聞く。

「無理だと言っている。魔王を倒したお前さんでも、これほど強い呪いは解けない。」

「そんな…っ…」

彼は立ち上がっていた両足に力が抜けていったのか、彼のために用意されていた木の椅子に崩れ、倒れるように座った。彼の顔にはまさしく、『絶望』と書かれていた。

「あなた、落ち着いて。占い師さん、聞きたいことがまだあるのですが。」

「ああ、なんだい。」

「なぜ、この子は呪われ、長女のルナには呪われなかったのですか?」

「あの子か。あの子は、守られていた。」

「え?」

「月に守られていたんじゃよ。」

「月に?」

「ああ。あんたたち、『月の住人』とやらに接触していなかったかい?」

シェーンは、思い出そうとして、視線の先を占い師から外した。

「ある。俺が接触した。」

彼が死んだような表情で告げた。

「だろうな。そのおかげで、あの子は守られた。だが、そのせいであの子には何かが宿っている。」

「だから、あの子の髪色は変わるのかしら。」

シェーンはやっとわかったという顔していった。

「それが原因か、はわからないが、多分そうであろうな。」

「そうですよね。」


その後も、彼らの話し合いは続いた…


「っくしゅんっ!」

可愛らしいくしゃみをして、窓の外を見つめる少女の名は『ルナ・ムーティ』。

「あらあら。くしゃみなんかして。こんな寒い夜に外なんて見てないで、寝てくださいな。」

侍女のエリナは微笑みながら言った。

「ううっ、まだ寝たくない!ママもパパも帰ってきてないし、テネブルもいないし!私、寝れない!」

エリナは困った表情を浮かべて、そっとルアの頭を撫でた。

「えへへへ。」

ルナはニコニコしながら、エリナに抱きついた。昔から、ルナはエリナに撫でられることが好きだったのだ。

「寝てくれますか?」

優しい顔して、こういう時は怖いんだから。なんて思っているルナの心がすぐに見抜いたのか、ルナの脇腹をくすぐった。

「わっ!あははっ、くすぐったいって!」

「ルナ様、今、私のこと、怖いと思わられたでしょう?だから、お仕置きです!」

「ごめんって!だっ、から、やめてって!あははは!」

そんなことをしているうちに、ルアの父と母、そして弟のテネブルが帰ってきた。

「帰ってらっしゃいましたよ。」

くすぐるをやめ、エリナはそうルアに言って、すぐに父たちの元へと向かった。もちろん、ルアも共にだ。

「おかえり!ママ!パパ!」

そう言って、二人の表情を見る。

「ただいま。ルア。まだ起きていたのね。」

「すみません。私がちゃんとしていなかったので。」

「いいのよ。エリナ。あなた、お風呂にでも入ってきたら?少しは和らぐわ。」

母のシェーンは優しい口調で言う。父のブラードは「ああ。」と答え、ルナの頭を撫でると、風呂場へと向かっていった。

ルナは何かを察したのか、不安げな表情で、シェーンを見る。

「うん?ルナ、どうしたの?そんな顔して。」

「あっ、えっと、テネブルは?」


ほんの一瞬、本当に一瞬だけ、母の顔が曇った。

それを、ルナは見逃さなかった。


「ここにいるわよ。ほら。」

テネブルを抱いているシェーンは、身長がほとんどないルナに見やすいよう、屈み込んで見せてあげた。

そこには、落ち着いて眠っているテネブルがいた。しかし、ルナにとって、何かを感じていた。何も感じないはずの弟から、この時、何かを感じた。胸がざわついた。

「ねえ、ママ。」

ルナは震えた口調で聞こうとした。

「ルナ、もう寝なさい。テネブルは、もう寝ているのよ?」

「うっ…はーい…」

遮られた。しかし、幼いルナにとって、このようなことは全く、気にしなかった。

「エリナ、ルナを寝かせてあげて。」

「はい。かしこまりました。」

エリナはそっと頭を下げた。そのときにシェーンはエリナの耳元で何かを呟き、自分の部屋へとテネブルと共に入っていった。

「ルナ様、寝ましょうか。」

「うん!ねえ、今、ママ、何か言っていなかった?」

「何も言っていませんでしたよ。さ、部屋に戻りましょう。」

そう言われ、ルナはエリナと共に部屋に戻り、ベットの中に入る。

「今日は何を話しましょうか?」

エリナはその優しい瞳で、ルナの頭を撫でながら聞いた。

「うーん…」

悩むルナを微かに照らす、月明かりがルナの髪色を変えた。

「あら、変わり始めましたね。」

太陽が昇っている間は、ひまわり畑にいるような明るい少女のルナは髪の毛色は『茶色』だが、月がルナを照らすとき、月の妖精のような髪色になる。その色は『銀色』だった。

「ほんとだ!」

自分の髪を見て、ルナは嬉しそうに言った。変わる原因はわからないが、ルナは守られているように感じて、とても安心して眠れるのだ。

「じゃあ、パパの勇者物語を聞きたいな!」

毛布に顔を埋めながら言った。

「わかりました。では、話しますね。『勇者ブラート・ムーティス』の物語を。」



いつもエリナの話し方は眠くなる。いつも、いつも、私を深い眠りに導いてくれる。

私は、この時間が好きだ。



「あらあら。もう眠ったのですね。早いですね…まだご主人様が旅立ってもないところで寝てしまいましたよ。ふふっ可愛い。おやすみなさいませ。ルア様。」

銀色の髪を優しく撫で、エリナは部屋を出ていった。

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