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母の笑顔に背中を押されて屋外に出ると、暖かさを含んだ春風が頬を撫でる。優しさに似た温もりが心地いい。
クラス分けが記載された一覧表を探すために視線を泳がせると、体育館の左手、校舎との間に簡易的な掲示板が設置され、そこに人だかりができていた。
高校入試の合格発表の日を思い出しながら、希春は人だかりの外周に張り付いて、懸命に自分の名前を探す。
――織坂……。織坂……。あ、あった!
一年A組のところに、希春の名前はあった。掲示板にはA組からF組まで、計六クラス分のクラス分けが貼り出されていたが、五十音順に並んだ表をA組から順に見て行ったことで、希春は運よく自分の名前を簡単に見つけることができた。
正面玄関に移動し、下駄箱の空いているスペースにローファーを収納して上履きに履き替えると、長い廊下が左右に伸びていた。各教室の扉の上には、クラスを示すプラスチックの小さな板が取り付けられている。一年A組は校舎一階の隅にあるようだ。
C組、B組の横を通り抜け、自分のクラスの前に立つ。緊張が高まる。
――今日からわたしは、変わるんだ。
スライド式の扉を開け、一歩目を踏み出す。教室は広々としており、正面と後方の二か所に大きな黒板が設置されている。正面の黒板に『ご入学おめでとうございます』の文言とクラス名簿、そしてそれぞれの座席が示された
人の視線を集めたくない希春は、黒板に近づくと手早く自分の座席を確認し、そそくさと教室の正面から退いて自分の席を目指す。廊下側の前から四番目、自分の座席に腰を落ち着けようとしたところで、希春はぎょっとする。
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