第9話 出発

 それから約1時間が経過した頃、


「お待たせ~。遅くなってごめんね~。リアナちゃんの服のコーディネイトが楽しくって楽しくって……って、父さん!また賭け事してー!」


 戻ってきたジェシカがカードをするスティーブの姿を見るなり怒りの声を上げた。指摘された当の本人であるスティーブは、


「おぉっと!いやいや、ほんの遊びだ、遊び。それよりもリアナちゃんの準備は出来たのか?」


 隠す様に慌ててカードをしまいながら話を逸らす。


「そんなこと言ってまた大負けしても知らないからね。まっ、それはともかくとして……ジャジャ~ン!」


 ジェシカはスティーブに釘を刺すと、自分で効果音を口にしてに店の奥へ手をやるが、


「……」


 奥からは誰も現れず、ただ沈黙だけが帰って来る。思わぬ展開にジェシカは戸惑いながら店の奥を見て、


「あれっ……?リアナちゃん?……ちょっ、ちょっと待っていて!」


 二人を制して店の奥へと再び消えていく。


「すみません……少し恥ずかしくなって……」


「大丈夫!大丈夫だから自信持って!」


 店の奥から二人の会話が漏れ聞こえた後、


「お待たせ!ジャン!」


 ジェシカが半ば強引にリアナの腕を引きながら戻ってきた。現れたリアナの姿を見て、


「おぉ~!」


 スティーブが思わず声を上げた。


 現れたリアナの姿はとても可憐な物だった。仕立てのいい清楚なワンピースには所々にレースの刺繍があしらわれ、着た者に華やかながらも清楚な印象を与える。更にそれを着るリアナ自身も、体を洗い軽く化粧を整えた事で元々の整った容姿が更に際立っていた。少し恥ずかしそうにする姿が更にリアナの可憐さを引き立て、その姿は男女問わず見た者が目を惹かれる物だったが、シュージが抱いた感想は全く別の物だった。


「……随分とジェシカらしくない服装だ。」


「えっ!?このリアナちゃんの可愛さを見て感想がそれ!?シュージさんらしいといえばらしいけどさ……まぁ、いいや。そう。全然私の趣味じゃないでしょ?この服はね、昔に父さんが勝手に買ってきたんだけどさ……正直、私の趣味じゃなくてね……かといって、捨てるのも勿体ないからずっとクローゼットにしまい込んでいた服なんだ。だけど、それが着せてみたらリアナちゃんにピッタリでさ!他にも似た様な服が一杯あるんでどれを着せるか悩んじゃったって訳。」


「そうか……」


 シュージはジェシカに短く返答するとそのまま少し考え、


「リアナ、すまないがもう一度着替えてくれ。」


 リアナに意外な申し出をした。シュージの言葉に、


「そう……ですよね……やっぱり変ですよね……こんな可愛い服……私には……」


 リアナはショックを受けた様で顔を曇らせる。


「この格好の何処に問題あるの!?とっても可愛いじゃない!」


「そうだぞシュー!何が問題なんだ!?めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか!」


 一連の流れを見たスティーブとジェシカから抗議の声が上がる。詰め寄ってくる二人に対してシュージは落ち着いたまま様子で、


「二人とも落ち着け。俺は別に服がリアナに似合っているかなど話していない。」


 シュージはリアナの着た服を指差し、


「俺が問題にしているのは服の質だ。お前達、俺達が向かうのがタワーだという事を忘れているのじゃないだろうな?」


「「……あっ。」」


 シュージの指摘に二人は顔を見合わせて声を上げる。二人の様子にシュージは嘆息すると、


「そういう事だ。あんな場所にこんな格好のリアナを連れて行ける訳が無い。目立ちすぎる上に余計な連中が近寄ってくるが関の山だ。ジェシカ、もう一度彼女の服装を見繕ってくれ。今度は出来るだけ目立たない格好でな。」


 ジェシカに念押しをする。静かな口調だが有無を言わせぬ迫力を感じたジェシカは、


「はい。ごめんなさーい……出直してきまーす……」


自らの過ちを認めて頭を垂れた。

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