第8話 仕度
「悪いが先に済ませる用がある。話はそれが終わってからだ。まずは……」
と話をするシュージを遮り、
「そんな……!お願いします!ちゃんとお金も払いますから!」
リアナがシュージの手を掴み、必死の表情で頼み込む。更に、
「シュージさん!こんなに困っている子の依頼を断るなんて、見損なったよ!」
「そうだ!シューがそんな奴だとは思わなかったぜ!お前の様に義理も人情も無い奴には来月から家賃を大幅値上げしちまうからな!」
スティーブ親子からも抗議の声が上がる。三人の言葉にシュージは呆れた表情を浮かべ、
「ハァ……誰が断ると言った。依頼の前にまずはリアナの鞄を取り返さなければならないだろう。それに……」
シュージはリアナの服を指差し、
「リアナの格好を見ろ。こんな格好で外を歩かす訳にはいかないだろう。」
「あっ……」
そこでリアナは自分が未だバスローブ姿である事を思い出した。
「話が逸れたので割愛させてもらったが、リアナ、俺達が君を助けた時、君はずぶ濡れの状態だった。さすがにそのままでは体が冷えて危なかったのでな。服を着替えさせたという訳だ。」
シュージが経緯を説明する。シュージの話を聞いたリアナは、
「えっ!?そっ、それって……!その……シュージさんが……私……を?」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにシュージを見るが、
「あぁー。それは大丈夫。ちゃんと私が着替えさせたから。まぁ、咄嗟の事でそれしか無かったからそれ着せちゃったけど。でもちゃんと洗ってあって清潔だからさ。」
「あっ……そう……だったんですね……」
ジェシカの話を聞いてリアナは安心した顔を浮かべると、
「すみません。疑ってしまって……」
非礼をシュージに詫び、謝られたシュージは鷹揚に頷く。
「気にしなくいい。当然の疑問だ。」
シュージはジェシカの方を向き、
「ジェシカ、彼女に服を貸してやってくれ。ついでに風呂とか身支度に必要な物も一切合切頼む。」
「オッケー。任せて。」
ジェシカが指でOKサインを作って了解したのを見て、シュージはリアナに視線を戻す。
「準備が終わったら鞄を取り戻しにタワーに行こう。そして、それが終わったら依頼の話を改めて聞かせてもらう。」
「それって……あっ、ありがとうございます!」
シュージの言葉の意味を理解して嬉しそうに笑顔を浮かべて礼を言うリアナ。続けて、ジェシカとスティーブの二人が、
「さっすがシュージさん!」
「それでこそシューだ!」
親子揃ってシュージに向かってサムズアップをする。そして、
「ささっ、それじゃ~リアナちゃん。隣がうちの家だから、そっちでお風呂入ろうっか?服は……私の昔の服だったらちょうどいいかな……?まぁ、色々試してみようね。」
そう言うとジェシカはどこか楽しそうにリアナの両肩に手を置く。ジェシカに肩を持たれたままリアナはジェシカに礼を言う。
「はい。よろしくお願いします。すみません……色々と助けてもらった上に、服まで……」
リアナの礼にジェシカは手をヒラヒラと動かしながら、
「いいのよ。こっちこそリアナちゃんみたいな可愛い子を着せ替えさせられるなんて、とっても楽しみなんだから。それじゃ、家には店の奥から入れるから付いてきて。」
「分かりました。」
話しながら店の奥へと消えていく二人。しかし、去り際にジェシカが首だけこちらに伸ばし、
「一応言っておくけど、リアナちゃんのシャワーを覗こうなんて思わないようにね。その時はアレを千切り取るからね。」
世にも恐ろしい宣言をしてジェシカは去っていった。店内に残されたのはシュージとスティーブの二人である。スティーブはシュージのカップにコーヒーのお代わりを入れると、
「ただ待っているのも何だ。カードでもするか?」
そう言うとスティーブはカウンターの裏からカードを取り出し、慣れた手つきでシャッフルし出した。
「別に俺は構わんが……そっちは以前までの負け分がかなり溜まっているそ?」
シュージの指摘にスティーブは不敵に笑う。
「なぁに、今からの勝負で帳消しにしてやるってもんだ。」
対するシュージもスティーブの言葉に小さく笑みを浮かべる。
「更に負けてジェシカに怒られないといいがな……」
「ハッ!その時は娘をお前にやるってもんだ!」
「お断りさせてもらう。ジェシカの相手はジェシカ自身が決めるべきだ。」
シュージの返しにスティーブは急に呆れ顔になり、
「はぁ……お前さんも何というか……まぁ、いいさ。さっ、始めるとしようぜ。」
スティーブはカードを配り始める。シュージは新しく入れられたコーヒーを一口飲むと、
「あぁ、望むところだ。」
配られたカードを確認した。
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