第4話 家の外は林だらけ文明のかけらもない。
しかし現実にオートバイに乗っていて体には振動と音は伝わっている。夢でない。さすがの雄一も青ざめた。林をオートバイでゆっくり進んだ。林を抜けた所は原っぱになっている。しかし周りの建物はすべて消えている。昨日、稲妻が光った時に頭を打っておかしくなったかと思った。
耳を澄ましたが車の音も雑音も一切聞こえない。それどころか川がないはずなのに、せせらぎの音が聞こえる。更に三十メートル進むと無いはずの小川が流れていた。電柱もない。近くにあるはずの自動車修理工場も見当たらない。現代文明の片鱗らしきものがないのだ。まさか一夜で、映画かテレビドラマのロケ地でも作ったのかと思った。この辺は時おり撮影に使われる事が多い所だったからだ。雄一はオートバイの音を響かせてはロケの邪魔をしてはいけないとエンジンを切った。
その時! 慌ただしく鎧兜に槍を持ったサムライ姿の数人が何か大きな声で喚いていた。
「お主まことか? 信長様が本能寺で明智光秀の軍勢に襲われて命を落としたという噂は?」
「そういう噂で御座るが、それが本当なら天下は駿府の徳川か明智かになる。我らはどうなるのじゃ」
雄一は確信した。やはりロケだったと、それにしても迫真の演技だ。スケールの大きな映画だろう。小川を作り林まで作りあげると大変な金額だろう。
数人の俳優達は? 五十メートルほど離れた場所を通り過ぎていった。暫くして彼らが通り過ぎた場所に歩いて行った。しかし何か変だ。近くの修理工場はどうやって隠したのだ。
だがロケ隊の姿も一瞬にして消えたのか誰も居ない。そのロケ隊が使ったであろう、車のタイヤの後さえも残されていない。雄一はだんだん不安になって来た。ロケ隊が居たと思われる形跡さえ残っていない。
再び雄一は原っぱの、あぜ道をオートバイで走り出した。だが行けども、行けども街が見えて来ない。更に不安が広がった。
「そんな馬鹿な! じゃあ……あの俳優達はなんだ?」
雄一はオートバイに乗りながら大声で叫んだ。俺は気が狂ったのか? そんなことはないと自分に言い聞かせた。
つづく
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