時空を超えて
西山鷹志
第1話 第一章 タイムスリップ 天地異変
主な登場人物
佐伯雄一 工学博士 三十二歳
大戸宗右衛門 木綿屋(味噌製造)主人
松三 宗右衛門の嫡男
酒井忠利 川越藩城主
酒井忠勝 忠利の嫡男 江戸城 老中
菊乃姫 忠利の娘で忠勝の妹
本田良成 川越藩 家老
秋山半兵衛 川越藩 勘定奉行
浅野三郎 川越藩 御用人
第一章 タイムスリップ
まだ六月なったばかりだというのに、上空で雷が一週間も鳴り続けている。
まさに異常としか言えようがない。テレビでは連日、異常気象情報を報じているが世間では天地異変か大地震の前触れか、それとも巨大な竜巻が発生するかも知れないか不安が増していた。
それは亡くなった父の嘆きが聞こえてくるような、そんな思いで佐伯(さえき)雄一(ゆういち)は雷の音を聞いていた。それにしても空は不気味な鉛色の雲から稲妻が何度も走っていた。
東京は府中競馬場と逆方向には調布飛行場があり、その中間地点に佐伯鉄工所兼製作所がある。郊外のせいか周りは工場や倉庫が多く民家は少ない。佐伯雄一が勤める研究所には愛車のトヨタ・ランドクルーザーで、職場まで四十分前後で行ける新宿まで通っていた。
父、佐伯雄作が残した鉄工所兼製作所の敷地、貸倉庫など広大な土地を保有していた。元々、佐伯家はこの辺一帯の地主であったが固定資産税が重荷になり八割近くを売り渡していた。有名な容積物で例えるなら東京ドームシティ程の面積だ。東京ドーム球場、東京ドームホテル、後楽園ホール、遊園地、ウインズ後楽園、雑居ビルなど外周も含まれるから広大な面積だ。東京の郊外とは言え土地だけでも大変な資産家だ。
その敷地の中にある貸倉庫、この業者は父の友人で安く提供していた。五百坪あり三棟の倉庫があるが、倉庫に何が入っているかはまだ知らない。それ等の食品を保存する空調設備も備わっているようだ。
事務所はあるが倉庫なので普段は人が居ない。入出庫の時だけ運転手と係員が同行する。生前父は、時おり経営者の友人、大森氏を訪ね世間話をするのも楽しみの一つだったようだ。
一ヶ月少し前に父の葬儀を終え、後を継ぐ予定の雄一は工学博士の資格を持ち科学研究所に勤めている。また宇宙開発の仕事も兼用する会社であり、責任ある地位にある。とても会社を辞めて父の後を継ぐことは出来ない。父は怒るだろうが鉄工所兼製作所は畳むしかなく、それから一ヶ月後、従業員の人たちと、お別れ会を開き、正式に佐伯鉄工所及び製作所を閉鎖した。母は五年前に病死しており、残されたのは雄一だけだ。
今日も上空は鉛色の空で覆われ、相変わらず雷は鳴り続けていた。
気象庁では異常気象と発表していたが、連日テレビでは地球温暖化に拠るものではないかと、専門家を交えて報道されていた。
雄一が務める研究所には父の会社を整理する為に長期の有給休暇届けを出してあった。葬儀と鉄工所製作所の整理の為に、何よりも従業員の配慮に時間を要した。長年、父と共に働いて来た人達だ。何も分らない息子が閉鎖すると言ったのだから、それは驚くし無責任すぎると言うだろう。だが経営は困難な状況になっていたし、従業員には同業者の会社と交渉して三社に別れるが、四十三名全員働けるように手配を終えてホッとした処だった。
つづく
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