第3章 温泉お守り大作戦!?

第21話 勇者の剣と台座の秘密

「レイ殿、いきなり大声を出してどうしたというのだ? さすがに少し驚いたぞ?」

「そうですよレイくん。心臓止まるかと思いましたよ!」

「あ、悪い悪い。一瞬武器が壊れたように見えてさ、ははは……」


 いやいやいやいや、心臓止まるかと思ったのは俺のほうだわっ! だって勇者の剣がこんなにあっさり抜けちまったんだぞ!? 


 俺は目を擦ったり頬をつねったりして、これが夢かどうかを確かめた。頼む、夢なら醒めてくれ。そんな俺の祈りも虚しく。目の前の光景は、やはり現実でしかなかった。


 フィアンが勇者の剣を抜いた。

 これが意味するところはたった一つ。

 他の誰でもない、フィアンこそが勇者だということだ。


 ……チクショー、信じたくねぇ~~。

 だってさ、俺、ガキの頃からいろいろと頑張ってきたんだぜ?

 他のヤツらが遊んでるときだってサボらずに剣を振り続けてきたし、大嫌いな勉強だって一生懸命やってきたんだよ。だってのにこんな仕打ちってあるか? もし本当に神様がいるってんなら、そいつはさぞかし冷血漢で薄情者なんだろう。


 しかしこれはこれでいい機会だ。

 周りにいる憲兵もこの三人も、まさかアレが勇者の剣だとは思うまい。だったら”勇者の剣を抜いた”という功績は俺のモノにしちまえばいい。ぶっちゃけ台座なんぞに要は無いからな!


 フィアンは新しいオモチャを手に入れた子供みたいに、楽しそうに勇者の剣を振り回していた。俺はフィアンの元に寄ると。


「いや~、あえて台座から抜けなくすることでハンマーの代用品みたいな感じで使ってたんだけど、ちょっと劣化してたのかもしれないなぁ。普通は抜けないんだけどなぁ~。なぁフィアン、ちょっと具合を確かめたいから、その剣を貸してくれないか?」

「ん、別に構わないが。しかしキミも不思議なヤツだな? ハンマーを購入せずに、わざわざこんな回りくどいことをするだなんて。ま、人のやり方にケチをつけるつもりはないけどね」


 そう言ってフィアンは勇者の剣をこちらに差し出した。


 ククク、この剣を手にすれば俺が勇者になったも同然!

 剣を抜かれたときはビビったが、よくよく考えて見りゃ俺は運がいい。そうだよ、難しく考えることなんて無かったんだ。勇者の剣が抜けないなら勇者本人に剣を抜かせてしまう……これもまた一つの解決策だ!

 フィアン、ありがとう。

 お前のお陰で俺は勇者の剣を手することができ――。


 バヂィンッ!!


「ッッ!!???」


 勇者の剣を手にした途端、強烈な電流が俺を襲った。激痛に見舞われた俺は、半ば反射的に勇者の剣を放り投げた。


「痛ッッでぇ~~~~~ッ!?」


 草原を転げまわりながらも、俺の脳内はクリアだった。

 

 なるほど。

 どうやら抜き身の勇者の剣を装備できるのは勇者だけのようだ。恐らくだが、俺に限らず、勇者以外の人間があの剣を装備しようとすると弾かれてしまうのだろう。まったく、用意のいいことだ。憎たらしくなってくるぜ。


「レイ殿、大丈夫か?」

「大丈夫ですか?」


 心配して駆け寄ってくる二人に無事であることを表明したあとで、フィアンに剣を台座に戻すようにお願いした。

 フィアンは頭上にクエスチョンマークを浮かべながらも、剣を台座に突き刺した――その瞬間。

 またもや俺を驚かせる事態が発生したのだった。


(おっふ♡)

(んあっ♡)


 ……………………は?


#


 どうやら勇者の剣(ついでに台座)には、人格が宿されているらしい。俺がそのことに気がついたのは、夕刻に差し掛かってから頃のことだった。


 帰宿した俺は、真っ先にある疑問を抱いた。

 それはこの宿屋の頑強さについてだ。

 俺にとっては軽々しく持ち上げられる勇者の剣(台座付き)だが、どうやら俺以外の生き物にとっては重たく感じるらしい。


 リリシアのリアクションを目にしたときは大袈裟だなぁと思ったが、コンペーちゃんやキリエまでもが同様の反応を示した。

 コンペーちゃんは見てのとおりバケモノだ。それがあれだけ萎んでしまったというのは普通じゃない。キリエに関しても同様のことが言える。俺と同じく幼少の頃から剣を振り、しかも剣聖の血まで継いでいるという。俺とリリシアを担いでの速力を考えれば、剣聖の血筋のすごさは明白だ。

 だというのに、勇者の剣はキリエですら持ち上がらなかった。


 となると、勇者の剣が異様な重さを持っているのは疑いようのない事実のように思える。もしそうだとしたら疑問は二つ生じる。一つは、なぜ俺にとって勇者の剣は軽く感じるのか。そしてもう一つが、なぜこの宿屋の床が抜けないのかだ。


 俺が借りた部屋は二階にある。

 もし勇者の剣が異様な重さを有しているのなら、そしてそのせいで馬車の積み荷部分が壊れたと仮定するならば、この宿屋の床が抜けていてもおかしくはない。

 そかまで考えた俺はリリシアの父・ルドルフさんに問いかけた。


「この宿屋って特別な材質で出来ているんですか?」


 するとルドルフはニヤリと口角を吊り上げ、嬉しそうに語った。


「レイくん、アンタ随分とお目が高いじゃないか。そうさ、この宿屋は特別なんだ。ま、特別なのは材質じゃないけどな」


 どうやらルドルフさんは、かつて宮廷魔導士として働いていたらしい。本人の談が本当なら、それはもうすごい魔法の使い手だったそうな。

 しかしリリシアが生まれたことで、ルドルフさんは宮廷魔導士を引退した。娘のために危険な仕事から遠ざかり、近くで見守ることを選んだらしい。そしてルドルフさんは愛する娘・リリシアのために、なにがあっても壊れないような丈夫な家を作り出した。

 この宿屋には、十年にも渡って強化魔法がかけられているのだとか。


「ここはリリシアが寝食を過ごす大事な場所だ。親として、娘の身の安全を保障するのは当然の義務だろう? ま、魔法を持続させるためには魔結晶というアイテムが必要で、そいつがいい値段するもんだから、こうやって宿屋を経営してるんだがな」


 話を聞いて、リリシアは愛されているなと思った。同時に、これで謎が解けたな、とも。

 宿屋に強化魔法が施されているのなら、勇者の剣の質量にも耐えられそうだ。

 

 剣聖の血を継ぐキリエが握ることすらできず、バケモノ染みたコンペーちゃんが疲弊してしまうほどの重量。それを易々と支えるにしては十分な説得力があると言える。なにせ、その魔法の持続期間は十年にも渡るんだから。

 

 残された謎は、なぜ俺がそんな代物を軽々しく持ち上げられるのか……ということなのだが、それに関しては考えるのをやめた。答えを得られそうになかったからな。


 そんなわけで俺は貸室に籠った。

 そして勇者の剣(ついでに台座)をじぃ~~~……っと睨み続けた。

 

 フィアンが台座に剣を戻したとき、変な声が聞こえた。

 どうしてもアレが勘違いだとは思えなかった。

 故の奇行だ。

 そんな奇行が功を奏したのだろうか?

 痺れを切らした勇者の剣と台座が、俺に語り掛けてきたのだ。


(先ほどからじっと見つめおって。何用だ、人間よ)


 と、勇者の剣が。

 そして勇者の台座が、


(そんなに見つめられたら困っちゃうじゃないの)


 と続いた。

 先に言っておくが、俺の頭がおかしくなったわけでは断じてない。この声は間違いなく勇者の剣、そして台座から聞こえてきたものだ。



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