第8章 続・荒俣堂二郎の冒険 四 第二の殺人と探偵助手『リサ』

 第三章 第二の殺人と探偵助手『リサ』


弐拾参

「それで?トオルはどうなったの?」

翌日の午後、疲れ果てて帰って来た政雄とリョウに、熱いお茶を差し出しながら、オトが尋ねた。

「結論を言うと、ね!死んだよ!」

と、リョウが言った。

「死んだ?何があったの?」

「つまり、リズがフーテンをテレポートさせて、いつかのように、ナイフを持っている手首に噛みつかせたのさ!トオルは悲鳴をあげて、ナイフを落とす。それで、真湖さんは、トオルから逃れて、リズのほうに逃げたんだ。つまり、リズは真湖さんを庇う格好になった。その隙を逃さず、トオルは部屋を飛び出した……」

「逃亡を図ったのね?」

「ああ、表に飛び出したはいいけど、そこには、キチヤとサンシロウが待ち構えていたんだ!フーテンにひどい目にあったから、トオルは猫に怯えて、車のほうには向かわず、山の斜面に向かったんだ!そこで、足を滑らして、谷底へまっしぐら……。不運なことに、岩肌に頭を強打して、即死だったよ!」

「バカね!自首すれば、五年くらいで娑婆(しゃば)に帰れたのに……ね。それで、おっさんふたりは、どうしたの?」

「ああ、ふたりは、トオルの死に顔を見て、怖くなったのか、自首することにしたよ!その前に、施設にいる保森さんを訪ねて、謝りたいそうだ!その後で警察に出頭する、と言っていた……」

「まあ、改心したってことか……?でも、自首するかな?別に、訴えられているわけではないのよ!犯罪の立証は、今更、困難よ!雪崩が、人工的な細工の所為で発生したか?自然現象だったか?検証はできないわね!」

「ああ、たぶん、起訴はされないよ……。だからこそ、隠れていないで、真実を告白すべきなんだ!彼らには、家族がいるんだから、ね……」

「そうだ!真湖さんの父親は?どうなったの?真湖さんは、それを知りたくて、トオルに頼んだんでしょう?事件の発端は、そこ、よね……?」

「ふたりは、行方不明者として、死亡認定されているけど、生きていることがわかれば、取り消される。元の戸籍になるわけだから、真湖さんの父親は、雄大さん、ってことだろう、ね……」

「何、バカなこと言ってるの!そんな、戸籍上の父親じゃあないのよ!血の繋がりよ!どっちの『タネ』って言ったほうが分かりやすいでしょうけど……」

「そ、それは……、だね……。DNA鑑定でもしないと、わからないよ!真湖さんは、母親の真澄さん似だし、雄大にも、守男にも、それほど似ていないんだ……」

「母親に訊くしかないわよね?」

「それが……さ!真澄さんにも、わからない、んだって……。つまり、守男と合意の上で、『H(えっち)』をした、翌日に、雄大に無理やり……、ってことらしい。まあ、守男のほうが可能性は高そうだけど、確定じゃあないよね……。妊娠がわかった途端、雄大が、親に自分の子供だ!責任を取る!って宣言して、守男は、その時、モンブランの登頂に行っていて、守男が知った時には、もう、両家で婚約が決まっていたそうだよ!例の脅迫されてた手紙は、その当時の真澄と守男の通信らしい。つまり、雄大の一方的な求愛、というか、強引な手口の顛末が書かれていたはずさ!それを再婚相手に見られたら、再婚の話は……、壊れただろうね……」

「どっちにしても、雄大さんが生きていたから、再婚話は、終わりでしょう?」

「そうでもないよ!生きていたのに、長期間、連絡もなく、別居状態だったから、離婚はすぐに認められるよ!真澄さん、次第だけど、ね……」

「ところでさぁ!まだ、謎が残っているわよ!あの山内拓也の死体をフェリーから落とした犯人は誰なの?リズもわからないの?」

「リズの知らない人物らしい。真澄さんか、真湖さんの知り合いかもしれない!って言ってたけど……」

「リズの能力でもわからないなんて、特殊な人間だね!」

「ははは、リョウ!透明人間だって言うのかい…?」


      弐拾四

「ちょっと!のんびりしている場合じゃないよ!大変なことになったんだよ!」

 急に、土間に小さなつむじ風が起こって、碧い眼をしたシャム猫が現れ、土間から座敷に飛び上がってきた。

「まぁ、リズ!今回は、名探偵、リサとして、大活躍だったそうね?」

「オト!事件は終わってないのよ!殺人事件よ!たぶん……」

「ええっ?殺人事件?いったい誰が誰を殺したんだ?」

「犯人はわからないけど、死んだのは、嶋岡雄大よ!青柳とふたりで、保森って男が療養している施設に行ったのよ!それから、警察に行く前に、雄大は荷物を取りに、飛騨高山ヘ一旦帰ったの!あたしは、守男について行ったのよ!そしたら、雄大が、荷物を持って、電車に乗った後、急に苦しみ出して、そのまま、あの世行きよ!毒を飲んだらしいわ!自殺の可能性もあるけど……、あたしは、殺しだ!と思うわ……!」

「雄大を殺したい人間……?たくさんいそうね!」

「まず、守男だろう?動機もあれば、機会もあったはずさ!」

「そうね?リズ、守男はどうしているの?」

「まだ、雄大の死は知らないはずよ!守男は、富山県警へ自首するつもりだし、雄大は、岐阜県警のほうよ!お互い、変名を使って、立山と、飛騨高山で暮らしていたから、まあ、所轄へ出頭して、事情を説明するつもりだったのよ!雄大は、できなくなったけど、ね……」

「リズ!今から、富山県に飛んで、リサに変身して、守男に雄大が死んだことを伝えて!そしたら、守男が犯人か?あるいは、共犯者か?無実か?が、リズにはわかるはずだよね?」

「わかったわ!リョウの頼みなら、地球の反対側、ブラジルでも、チリでも飛んでいくわよ!」

「まあ!リズはリョウの頼みなら訊くの?」

「ただし、こっちもお願いがあるの!」

「あら?リズが我々に頼み事なんて、初めてじゃない?」

「そうね!一生一度の頼みよ!真澄って女の実家に、シャム猫がいないか調べて欲しいの!」

「ええっ?それくらいなら、フーテンでもできそうだよ!」

「ダメよ!フーテンには、内緒……!ほら、前に、あたしが、洋猫を集めていたことがあったでしょう?その時、シャム猫がいたでしょう?リョウの女友達の女王さまみたいな子……」

「ああ、レイコが飼っている猫ね?それが真澄さんの実家とどう繋がるの?」

「たぶん、レイコの猫は、あたしの姪になるのよ!つまり、あたしの妹の娘!あたしは、ほんの子供のころに、母親の飼い主が、生まれた子猫が飼えなくなって、処分されそうになったの!あたしは変に人間の心が読めたから、身の危険を感じて、逃げ出したのよ!そこで、猫屋敷の前で、死にかけていたところを、直弼に助けられたのよ!」

「うん、そのことは、クロウから訊いているよ……」

「あたしは、小さかったから、元の母親の飼い主が誰かは知らないのよ!でも、今回の事件に携わって……。妙な感覚が芽生えたの!真澄って女が小さかったころ、一緒に暮らしたことがある、ってね……」

「つまり、村上家が、リズの生まれた家、元の飼い主は、真澄か?真澄の母親……?そこに、リズの家族か、その子孫がいる可能性があるんだね?」

「そう!でも、もし、子孫がいたら、ひょっとして、特殊な能力を持っているかもしれないのよ!あたしが近づくことで、その能力が目覚めると困るから、リョウかオトに調べて欲しいのよ……」

「そうか!リズと同じ遺伝子を持った猫がいて、リズのテレパシーの影響を受けたら……、エスパー・キャットになっちゃう!ってことか……。よし!僕たちが調べるよ!猫のことなら任しておいて!」

「リョウ!スターシャを連れて行くのはダメよ!いいえ!エスパー・キャットは、一匹も使ってはいけないわ……!」

「わかったよ!移動は、マサさんのバイクにするよ!でも、雄大を殺した犯人はどうするの?所轄が違うよ!しかも、荒俣探偵事務所が依頼されたのは、真澄さんの手紙を取り返すことだろう?トオルって学生の住所をあたれば、見つかるんじゃない?それで、解決さ!」

「リョウ!トオルのヤサからは、手紙は発見できなかったわ!フーテンに行かせたから、間違いないわ!トオルの実家も調べたけどね……」

「じゃあ!まだ仲間がいるってこと?」

「仲間じゃないかもしれない……。少なくても、正体不明の『死体を海に始末したヤツ』がいるはずよ……!」

「ならば、事件は終わっていない!雄大の死が、その正体不明のヤツと関係しているのかもしれないよね?」

「そうね!だから、あたしとフーテンで、雄大の死んだ事件は調査をするわ!まあ、所轄の警察も調べるから、あたしたちは、それに便乗させてもらうわ!」

「それと、守男のほうも命を狙われるかもしれないわよ!」

「オト!また、ミステリーとして、そうなったら、面白い!って仮説はヤメロよ!」

「あら?今回は、現実味の濃い仮説だと思うけど……?ねぇ、スターシャ……!」


弐拾五

「雄大を殺した犯人は、わかったわ!」

翌日、リズがテレポートをしてきて、ちゃぶ台を囲んでいるオトたちに言った。

「ええっ?もう、警察が犯人を捕まえたの?」

と、オトが驚く。

「警察は無理よ!だって、殺された男は『大山巧』って、世捨て人。関わりのある人間はほぼ、ゼロよ!まあ、二、三日前に、彼を訪ねてきた、若いふたりと、荒俣堂二郎という、探偵が、目下のところ、関係者ね……」

「ええっ!僕が容疑者?」

「まあ、マサが荒俣堂二郎と名乗っていることを突き止めても、この街から、飛騨高山に、数時間で行けるわけがないから、アリバイはあるわね!ただし、マサの本名でレンタカーを借りたから、こちらの警察に紹介はあるかもしれないわよ……」

「嶋岡雄大は死んでいるんだから、警察は大変よねぇ……。それで、どうやって、犯人がわかったの?」

「簡単よ!まず、守男に会って、雄大が毒殺されたことを伝えたの。まあ、彼は驚いたわ!その心を読めば、彼が犯人でないことは、すぐにわかったわ!そして、守男が誰を疑っているかも……」

「そうか!テレパシーというか、読心術だね?それで……?」

「疑っているのは、保森アスカ!廃人同様の祥一の妹よ!」

「でも、アスカは、雄大と守男は死んでいると思っているんだろう?」

「と、周りが思っているだけよ……!トオルの母親が『麻布探偵社』を雇ったように、アスカも調べたはずよ!そして、雄大が生きていることを知ったのよ!あたしは、まず、保森祥一が療養している施設に行って、祥一のもとにアスカが来るのを待ったの。運良く、今朝、面会に来たわ。三日に一度くらいは、きているらしいけど、ね……。それで、マサの名刺を出したのよ……」

と、リズが今朝の出来事を語り始める。

「犯罪研究家?あなたが?」

と、名刺を手にして、アスカという、三十半ばの痩せた、ショートカットの女性が、大きな眼を開いて尋ねた。彼女の眼の前にいるのは、まだ二十歳前と思える、少女だ!ただし、髪の毛はブロンド。瞳はブルー。映画のスクリーンから飛び出してきたような、美少女だった。

「あっ!ごめんなさい!それは、所長の名刺なの!わたしは、探偵社の助手よ!リサといいます。保森アスカさんですね?」

と、リズが女性にしては、アルトの声で言った。

「ええ、保森アスカですけど……、探偵社の方が、わたしに何の御用かしら……?」

「あら、ご存知のはずですわ!おめでとう!を言いに来ましたのよ!」

「おめでとう?それ、どういう意味なの?」

「新聞を読まれたでしょう?大山巧という、山小屋の管理人の助手をしていた男が、毒殺された、って記事……」

「はあ?山小屋の管理人の助手?その人が殺されたことが、どうして、おめでとう!になるの?」

「完全犯罪が完成した、お祝いですわ!あなたとその大山は、何の接点もない!彼の宿泊していた、集会所に入って、彼の荷物の中のチョコレートに、猛毒のトリカブトから取り出した『アコニチン』を仕込んでおいただけ!山男の彼は、おやつ代わりにチョコレートを食べる習慣があるのよね?お兄さんも、そうだったんでしょう?」

「な、何を言っているの?その大山って人に、どうして、わたしが毒を盛らないといけないのよ!」

「大山巧というのは、変名よ!本名は、ご存知でしょう?お兄さんをこんな目に合わせた張本人!嶋岡雄大ってことは……?見事な復讐劇よね?だから、おめでとう、と、言ったのよ!どう?納得していただけたかしら……?」

「ウソよ!わたしが、毒殺したなんて、わかるわけがないわ!まだ、一日しか経っていないのよ!大山が嶋岡だってことも、そんなに早くわかるわけがないわ!」

「もちろん!警察は、まだ知らないわ!我々、探偵社以外は、誰も……?いや、ひとりいるのね!あなたに、嶋岡雄大の住処と変名を教えた人間が……」

リサの頭に、アスカの心に写った人物がチラリと通りすぎた。それは、一瞬であり、しかも、ぼやけていたのだった。

「何だって?保森アスカに、嶋岡雄大の住処を教えた、謎の人物がいるのか?しかも、またしても、幽霊みたいな、ぼやけた人間かよ……!」

リズの話を訊きながら、政雄が言葉を挟んだ。

「リズ!その人物は、山内拓也の死体を海に落とした人間と、同一人物なのかい?」

と、リョウが政雄の言葉に重ねて尋ねる。

「そうね!幽霊か、透明人間のような人間が、今回の事件に複数関係している、とは、思えないものね……」

「それで、アスカはどうしたの?」

「罠を張るのよ!あたしが、その幽霊みたいな人物が、アスカのことを警察にチクるんじゃないか?って焚きつけたから、知り合いなら、連絡を取るんじゃないかな?だから、フーテンに見張らせているわ!我々は、嶋岡殺しを告発する気はない!と、宣言してきたから、犯行がバレるとしたら、その人物からの情報しかない!と、アスカは考えているはずよ……」


弐拾六

「リズから連絡はないのかい?」

一応、大学生の政雄が、講義を終えて、オトの家を訪ねてきて、いつものちゃぶ台の前に座って、リョウに尋ねた。リズがリサとしてアスカに会ってから、三日が経っている。

「ないわ!ただ、リョウには、テレパシーが入るみたいで、アスカに動きがあれば、すぐにわかるはずよ……」

と、オトが代わりに答えた。リョウはちゃぶ台の上で宿題のプリントを仕上げている。

「マサさんのほうは……?雄大の毒殺事件で、岐阜県警から、照会とかはないの?集会所にいたおじいさんが、警察に情報を流しているはずよね?大山に初めて訪ねてきた人間がいたってことを……」

「まず、大山の身元を調べるだろう?本籍地とか……。それで、大山巧なんて人間はいないことがわかる。だから、訪ねてきた人間のうち、大山の娘と思われる少女──つまり、真湖さん──のことも調べようがないのさ!私立探偵、荒俣堂二郎って探偵事務所を開いている男も、全国の探偵事務所を調べても出てこない!まずは、大山巧と名乗っていた人物の本名と、過去を調べるはずだろうね!」

「と、いうことは、警察は時間がかかるわね?犯人がアスカだってことは、まあ、当分はわからないわね……。では、我々はどうする?」

「村上家でも調べに行く?リズから頼まれていた、シャム猫の件で……」

「そうだ!真澄さんって、今、実家にいるの?」

「そうらしいよ!ただし、別棟に住んでいるそうだ。真湖さんとふたり暮らしだけど、両親は健在らしいからね……」

そんな話を三人がしていると、玄関先で、女性の声がした。

「ごめんください!」

その声に、オトは、祖母が営む、惣菜売場の客と思って、「はぁい!」と言って立ち上がる。

「あら、ミキさん?」

そこには、政雄の高校時代の同級生で、女子大生のミキが立っていたのだ。

「オトちゃん家(ち)って、お惣菜も売っているんだ……。あっ!用は、そっちじゃないよ!マサ君が来ているでしょう?例の国会議員の息子と再婚するっていう人の事件のことで……」

「ああ、後藤勝一郎のことですね?」

オトは、ミキを惣菜売場の脇にあるテーブルの丸椅子に案内した。政雄とリョウも座敷から、土間に降りてきて、テーブルを囲む。

「事件と関係があるか、どうか、わからないけど、リョウマから情報が入ったの。マサ君に電話したら、オトちゃん家に行っている、って教わって……」

と、ミキが訪問した理由から語り始めた。

「勝一郎の父親の秘書をしている男がいるのよ!勝一郎と大学の同期で、部活も同じだったそうなの……」

「名前は?何とおっしゃるんですか?」

どうも、事件と繋がらないような話なので、オトが先を急がせた。

「遠藤富太郎っていう人……」

「遠藤?」

「そうなの、その息子さんが、亡くなったのよ!事故らしいけど……、何か事件に巻き込まれたらしくて……」

「事故で……?遠藤……?まさか、その息子さん、浩次さんって言いませんか?」

「あっ!やっぱり、事件と関係あるの?そう、浩次っていうN大の一年なのよ!リョウマの言うには、亡くなったのは、浩次だけじゃない!同じN大生の浩次の親友の嶋岡トオルも、亡くなったっていうのよ!リョウマは、昨日『県人会』っていうのかしら?県出身の学生が集まる会に出ていて、そのことを知ったらしいの……。嶋岡トオルって、勝一郎が再婚を考えている、嶋岡真澄の甥にあたるのよ!だから、その再婚問題に関わりがあるんじゃないか、って……。そうそう!真澄さんの亡くなった旦那の雄大って人は、勝一郎や富太郎の後輩になるそうよ!N大の山岳部!それと、トオルは、我々のひとつ下の一高の卒業だそうなの!ただし、入学当時は、まだ、嶋岡姓ではなかったみたいね!彼が一年生の秋に、母親が嶋岡洋史と再婚したそうだから……」

「ちょっと待って!県人会で、遠藤浩次が事故で亡くなったことが話題になったの?じゃあ、浩次も県出身者ってこと?」

「そうね!彼は三高卒だそうよ……。それと、リョウマからの情報によると、浩次の母親って人は、嶋岡雄大と仲のよかった、山岳部の青柳って男のお姉さんなんだって!ただし、何年も前に、離婚しているそうだけど……。どう?事件解決に役立ちそう……?」

「青柳?つまり、守男の姉?ならば、美幸さん、ってことか……?」


弐拾七

「三高のOBのヨシトに確認したよ!一学年下に、遠藤浩次と山内拓也がいるそうだ!」

翌日、政雄がオトの家にやってきて、まず、遠藤と山内のことを告げた。

「それと、一高のほうは、片桐君に確認した。嶋岡トオルは目立たないけど、まずまずの成績だったそうだよ!ただし、母親が再婚した、嶋岡洋史とは、馬が合わなかったらしくて、体育祭で、父親が応援にきていても、知らん顔をしていたのが、印象に残っているらしい……」

「片桐君って、ミステリー同好会の後輩で、元、イジメられっ子の……?」

「そう!サッカー部にいた時に、先輩のシンスケとツバサにイジメを受けていた、片桐エイタロウさ!」

「片桐君から、トオルに、ミステリー同好会の同人誌が渡った、ってことはないかしら……?」

「同人誌?ああ、例のルミさんの『マーばあちゃんの事件簿』のトリックか……?いや、片桐君が入会したのは、あの同人誌が発行した後だったし、もう完売していたよ!片桐君は、発行にも、販売にも、タッチしていない……」

「でも、トオルが一高の卒業生なら、手に入れるか、見た可能性はあるわよね!」

「姉貴!拓也を刺したのは、トオルだけど、あのトリックを使って、死体を始末したのは、別人なんだよ!」

「わかっているわよ!幽霊みたいな人物でしょう?そいつも一高のOBなのかしらねぇ……?」

そんな会話を三人がしていると、急に座敷の隅の座布団に丸くなっていた、白猫のスターシャが「ミャァー!」と、鳴き声をあげた。

「スターシャ!どうしたの?」

と、オトが心配そうに尋ねた。

「あっ!リズさんから、テレパシーだ!」

と、リョウが急に声をあげる。

「そうよ!リズったら、リョウにテレパシーを送る前触れに、わたしに、また、狼が襲いかかる映像を送ってきたのよ!」

と、スターシャが鳴き声をあげた理由を説明した。

「ふふふ、スターシャ、ごめんね!急にリョウにテレパシーを送ると、周りにオトやマサ以外の人間がいると、リョウの反応を怪しまれるでしょう?だから、前触れにスターシャに映像を送ったのよ!この前と同じだから、わかりやすい、と思って……ね!」

「趣旨はわかったけど、もう少し、優しい映像にしてね!心臓に悪いわ!」

「はいはい!次は考えるわ!それより、リョウ!オトも訊こえる?」

「ええ!わたしにも、はっきりと……」

「リズ!凄いよ!僕にもはっきり訊こえるよ!」

「まあ、マサは、リョウと周波数が近いからね!単純だし……」

「た、単純……?」

「あら?間違った!純粋ってことよ!だから、リョウの次に大好きよ!チュッ!」

「リズ!マサさんはダメよ!」

「ははは、マサ、よかったわね!オトは、マサに決めたみたいね!未来の旦那さん……」

「もう!冷やかしはいいの!大事な用があるんでしょう?」

「そうよ!アスカが動いたわ!誰かに電話して、アポを取ったみたいよ!今、出かけているわ!少し、遠出するみたいよ!」

「リズさんは、どんな格好で、尾行をして行くの?リサの格好は目立ち過ぎるでしょう?シャム猫のまま……?」

と、リョウが尋ねる。

「リサは、変装の名人なのよ!今は、マサの同窓生のルミって娘に化けているわ!美人だけど、それほど、人目を引かない……あたしは、美人以外には、変身したくないのよ!」

「ルミさん?まあ!小野小町ね!」

と、オトが変身したリサを想像して言った。

「今、駅で切符を買ったわ!」

「リズ!そこは何処なの?」

「鎌倉駅よ!保森は、箱根の療養所にいて、アスカは、鎌倉のアパートに住んでいるのよ。どうやら、東京方面に行くようね!じゃあ、進展があったら、連絡するわね……」


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