第30話 監禁

「見て、これが私の用意した「楽しいこと」ですよ」


 握られたスマホの画面には衝撃的な光景が映し出されていた。小川さんが、見知らぬ部屋に縛られている。彼女の表情は恐怖に満ちており、絵里の言葉には狂気が感じられた。


「これは一体何だ……!? 小川さんを、どうして……!」

「ふふ、驚きました? これが面白いことですよ? 先輩が私のことを思い出すための」


 絵里の声は冷酷で、彼女の目には異常な輝きがあった。俺は絵里の狂気に気付き、深い恐怖を感じた。


「絵里ちゃん! お前は何をしてるんだ! 小川さんに何もしてはいけない!」

「先輩が私の元に戻ってくれれば、もしかしたら小川さんを解放してあげるかもしれないですよ? 言いましたよね? 私を好きにならない先輩は要らないって」


 俺は絵里の提案に怒りを感じた。彼女の計画は単なる狂気の産物だった。俺は小川さんを救うために、何かをしなければならなかった。


「こんなことで俺が君の元に戻るわけがない! 小川さんを解放しないと、お前は大変なことになるぞ!」

「それは先輩次第ですよ! 私は先輩のためなら何でもする……私の愛を受け入れて下さい」


 俺は絵里の言葉に深い絶望を感じた。小川さんを救うためには、俺が何かをしなければならない。俺は迅速に行動を起こす必要があった。


 そして追い打ちをかけるように。

 絵里のスマホから流れる映像は、リアルタイムで小川さんの状況を映し出していた。彼女は恐怖に震え、縛られた状態で助けを求めるようにこちらを見ていた。画面を通じて、彼女の無力さと恐怖が伝わってきた。


 俺の心は怒りと恐怖で混乱していた。


「絵里ちゃん……これはもう冗談じゃ済まされない。何を考えているんだ?」


 絵里は冷静さを保っているように見えたが、その目には狂気が宿っていた。


「これは先輩に私の気持ちを理解してもらうための演出よ。先輩が私の元に戻れば、小川さんには何もしないですよ?」

「小川さんは関係ないだろ! 頼むから……やめてくれ」


 俺は絵里に詰め寄った。彼女の行動には理解できない部分が多すぎた。彼女は愛という名の下に、狂気を振りまいているだけだった。


 スマホの画面に映る小川さんは、涙を流しながら助けを求めているようだった。俺の胸は痛みでいっぱいになった。


「絵里ちゃん、これは犯罪だ! 小川さんをすぐに解放しないと、お前は警察に捕まるぞ!」


 俺は彼女に警告した。しかし、絵里は平然としていた。


「そんなのどうでもいいですよ! それに心配しないで下さい! 先輩が私の元に戻れば、すべては解決するんですよ? 先輩の選択次第でこの女はどうなるか分かりませんけど」


 俺は絵里の言葉に絶望した。彼女は本当に狂っている。俺は何とかして小川さんを助けなければならなかった。俺は急いで小川さんの居場所を突き止め、彼女を救出する計画を立てなければならない。


 絵里の言葉に、俺の心はさらに混乱した。


「こんなことをしても、俺が君を好きになるわけがない」


「でも、先輩が私を選んでくれれば、小川さんに何もしないし、すべては元通りになるのよ。」


 俺は絵里の歪んだ愛に憤りを感じた。


「君のやっていることは愛による行動じゃない! これは狂気……本当に信じられない」

「愛は時に狂気を伴うんですよ? 先輩が私を選べば、小川さんには何もしない……それが私の愛の条件です」


 俺は絵里の言葉に絶句した。彼女は自分の感情を正当化しようとしているが、その行動は許されるものではなかった。


「絵里ちゃん、俺がお前を選ぶことはない。小川さんを解放しないと、俺は警察に行く」

「そんなことしたら、小川さんには良くないことが起こるかもしれないですよ?」


 俺は絵里の脅しに屈することなく、彼女の計画を止める決意を固めた。小川さんを守るためには、どんな犠牲も払わなければならなかった。



 しかし、俺に選択の余地はなかったかもしれない。

 俺と絵里の会話。それと同時に進行される悲劇。

 スマホの画面に映る男。そう、それは……亜美の今の彼氏である男。


 俺はスマホの画面に映る風間隼人の姿に凍りついた。彼が小川さんの誘拐に関与しているなんて、信じられない。いや、どういう事なんだ?

 風間は笑いながら言葉を続けた。


「彼氏君、見てるかい? どうだい、驚いたか? 亜美はもう飽きたんだよ? だから新しいおもちゃが欲しかったんだ……ちょうどいい、食べごろの子を見つけたわけなんだよ」


 画面の中で小川さんは絶望的な表情で縛られていた。風間の言葉には残虐さがあり、絵里はそれを楽しんでいるようだった。


「絵里ちゃん、君は何を考えているんだ!?」


 俺は絵里に詰め寄った。


「もうやめてくれよ! この男に小川さんをまさか……」


「これは先輩に私の愛を理解してもらうための行事ですよ? さてと、始まってしまいますよ? この男の人と小川さんがやっているところを先輩は見てるだけになってしまいますよ?」


 絵里の声は冷たく、彼女の目には狂気しかなかった。


 俺は絵里の狂気の計画を止めなければならないと感じた。小川さんを守るために。


「絵里ちゃん、こんなことしても何も解決しない……君が逮捕されるだけだ」

「解決じゃなくて受け入れて欲しいんですよ! 逮捕をされても別に構いません、私はもう先輩のためなら全て捨て去る覚悟がありますから」


 俺はその場で決断を下した。小川さんを救うために、俺はどんなリスクも背負う覚悟があった。絵里を止めるために。まずは、場所を突き詰めないと、じゃないと小川さんはこの男に……くそ!


 俺は怒りに震えながら絵里の胸倉をつかんだ。


「場所を教えろ、今すぐだ!」


 俺は怒鳴った。しかし、絵里は平然として、かつ挑発的に笑った。


「場所を教えてほしいなら、私の願いを聞いて」


 絵里の声は甘く、同時に冷たかった。


「君の願いなんて、もう聞く気はない! 小川さんを解放しろ!」


 俺はさらに声を荒げた。

 絵里は俺の手をゆっくりと離し、冷静に言葉を紡いだ。


「先輩、私の言うことを聞かないと、小川さんは犯されちゃいますよ?」

「……」

「あーあ、ほらほら始まってしまいますよ? この人、凄く激しくて上手いから経験のない小川さんならすぐに果ててしまうかも」

「それって、どういうこと」

「はい、先輩の想像通りですよ?」


 信じれない。

 絵里はこれのためにあの男に体を売っていた。

 もう、彼女に何を言っても無駄だ。

 何もかも投げ捨てる覚悟がある人間に……何を言っても響かない。


 絵里は語りだす。


「あの人のそれは、もう言葉では表せないくらいでしたよ? 気持ちよくて、激しくて……お姉ちゃんが彼に夢中になるのも、今なら分かるかも?」


 彼女の言葉は、俺の心に深い嫌悪感を植え付けた。絵里は自分の行動を正当化しようとしているが、その行動は許されるものではなかった。


「でもね、小川さんにはもっとスリリングな体験をさせてあげるんですよ! 彼女があの人の手にかかれば、もう元の生活には戻れなくなるかもしれないですね」


 俺は絵里の言葉にさらに怒りを感じた。彼女の計画は、ただの狂気でしかなかった。


「君のやっていることは人として間違ってる!小川さんをただちに解放しろ!」

「ふふ、先輩がそう言っても遅いですよ? もう全ては動き出しているんですから」


 探さないと、はやく見つけ出さない。

 俺は絵里を突き放して、走り出す。見当がつきそうな場所。

 考えろ、はやく見つけ出さないと。本当に、手遅れになる前に。


 俺は必死に泣くのを堪えて小川さんを救うために走り出した。


 こんな好き勝手させてやるか。

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