第27話 まだ好きって、ふざけるな
「私の気持ちは、まだ友にあるよ」
「それって」
「だから、好きってことよ」
亜美の言葉に、俺はただただ驚いていた。好きだと言われても、もう心は昔のように動かない。彼女が俺を裏切った理由、その全てが俺の心を痛めつけていた。
「まだ俺のことを好きだって……じゃあ、どうして俺を裏切ったんだ?」
俺の声には混乱と疑問が混じっていた。亮介と小川さんも、俺の表情を見て何かを感じ取っているようだった。
亮介は首をかしげながら、俺に同情するような眼差しを向けた。
「友……でも、分かんねえな、それならどうしてこんなことになったんだ?」
一方、小川さんは少し怒りを含んだ表情で亜美を見ていた。
「亜美さん、それは自分勝手すぎませんか? 名雲君はどれだけ傷ついていると思ってるんですか?」
亜美は少し戸惑った様子で、目を伏せた。
「ごめんなさい、私……私もよくわからないんです。でも、本当に友のことが好きだったのは事実で……」
俺はその言葉を聞いても、もう何も感じなかった。過去に何があったとしても、それはもう終わった話だ。俺の中で、亜美への感情は完全に消えていた。
「気持ちは好きだけど、体は他の人を求めていたって……それって、どういうことだよ?」
俺は亜美に詰め寄った。
亜美は俺の目を見て、言葉を続けた。
「気持ちが好きだけど、体の相性が良くなかったの……だから他の人と関係を持ってしまった。でも、それは間違いだったって今は思ってる」
「体の相性って……そんなことで俺を捨てたのか?」
俺の心は傷つき、痛みでいっぱいだった。
体の相性、確かにそれは俺にも非がある。
でも、あまりにも自分勝手過ぎる。
「ごめんなさい……私、自分勝手だったわ。でも、今は分かるわ、体よりも心が大事だって」
「本当に今更……だね」
俺は亜美の言葉を聞いても、もう昔のような気持ちは戻らない。彼女が俺を裏切ったことは、取り返しのつかないことだった。
俺の中で怒りと失望が渦巻いていた。亜美の言い訳には、どうしても納得できない。そんな状況で、小川さんが強い口調で亜美に言い放った。
「ふざけないでください! 名雲君の気持ちを考えたことありますか?」
亜美は言葉を失い、途方に暮れた表情をした。
「だって、しょうがないじゃない……」
「しょうがないって、何がですか? あなたの自己中心的な行動で、名雲君はどれだけ傷ついたと思ってるんですか?」
小川さんの声には怒りがこもっていた。
俺はただ黙って立っていた。亜美の言葉にはもう何の感情もわかない。ただ、この状況から抜け出したいだけだった。
小川さんと亜美の言い合いは激しさを増していた。小川さんは怒りに満ちた表情で、亜美に向かっていた。一方の亜美は、苦痛と後悔の表情で、何かを訴えようとしていた。女同士の戦いは、ただの言葉の応酬ではなく、互いの感情がぶつかり合う場になっていた。
「友、お前はどうしたいんだ?」
亮介の言葉に、俺は深く考え込んだ。本当に、俺はどうしたいんだろう?亜美への怒り、小川さんへの感謝、そして自分自身への疑問。全てが頭の中で渦巻いていた。
俺はその質問に、すぐに答えることができなかった。何を望んでいるのか、それがはっきりしなかったからだ。
亮介は続けた。
「正直、俺は誰とも付き合ったことないし、女の子の気持ちは分からない……でも親友としてこれだけは言っておく! 最終的に自分がどうしたいか、それだけは持っておいた方がいいんじゃないか? ……悪い、俺らしくねえな、やっぱり」
俺は亮介の言葉を噛み締めた。確かに、自分の意志を持っていなければ、ただ流されてしまうだけだ。何かを決める時、自分の心に従うべきなんだ。
亜美とのこと、小川さんとのこと、そして自分自身のこと。全てを考え、俺は決断を下さなければならなかった。でも、その答えはまだ見つかっていなかった。
そして、小川さんはこの状況の中で。
「……こんな状況で卑怯かもしれないけど、私は名雲君のことが好きだから、だから……もう、あなたが名雲君に関わるのをやめて欲しい、名雲君のために、ううん、私のために」
小川さんの告白に、亮介は驚きを隠せない様子だった。彼は目を丸くして、俺たちを交互に見た。
「えっ、マジで!? 小川さん、友に……」
亜美もその場にいて、小川さんの言葉に反応した。彼女の顔には驚きと不満が混じった表情が浮かんでいた。
「なにそれ、本当に卑怯よ、いきなりそんなこと言って……」
亜美の声は少し震えていた。彼女は俺との関係がまだ何か残っていると思っていたのかもしれない。でも、俺の心はもう変わっていた。
俺は深くため息をついた。今の俺には、亜美への感情はもうない。小川さんの告白に心動かされていたのは事実だった。
……亜美、悪いけど本当にここで終わりにしよう。
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