リンネの逆光
『むらさき』
39歳
「倫音さん、ありがとうございます」
会社で新入社員に感謝される女性がいた。名前は倫音。見た目は少し地味だが、真面目な仕事ぶりと誠実な人柄で職場のみんなからは一定の好感を持たれていた。
「今日はありがとう、ほんと残業してくれるの倫音ちゃんくらいだよ」
課長からお世辞を言われて、少し恐縮しながら帰宅準備をする。この課長は女癖の悪いことで有名だった。
「倫音ちゃん、このあとはどうかな」
「すいません、ちょっと姉から猫を預かっているので早く帰ります」
足早に職場を出る倫音だった。もちろん、姉から猫は預かってない。職場を出て、少し肌寒い感覚がした。そういえば、課長と電車の方向が同じだった。急いで電車に乗ると、時間も時間だったためか、座ることができた。
急いで走ったのと、課長に気を遣って仕事をしたせいで眠気が襲ってきた。この時期の電車の温度は心地よかった...。
「すいません」
身体を揺すられて目が覚める倫音。目を開けると、男性が別な車両に移動していくのが見えた。
変わった人?知り合いかな?そんなことを考えて、次の降車駅を見ると、家の最寄り駅だった。急いで、電車を降りる。ハッとして、バックの中身を見る。財布や携帯も盗られてない。少し安心して、倫音は帰宅した。
「ただいま」
家に帰って、部屋の電気をつける。部屋着に着替えながら、テレビをつけると、緊急速報が流れていた。
「え...あの電車だ」
倫音が乗っていた電車が脱線事故を起こしたニュースだった。そのとき、なぜか自分を起こしてくれた男性を思い出した。なぜか頭の中が真っ白になって、自然に涙を流していた。
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