第9章 開示3

「ん? ちょっと待てよ。矛盾してないか? お前、力が無いくせにどうやってここまで来れたんだ? 時間移動ぐらいなら出来るってことか?」

「みくるちゃんに連れて来てもらったのよ」


 何! 朝比奈さん(大)が御一緒か?! それを早く言え! こうしてはいられん。顔を洗って一張羅に着替えてと……


「とう!」びしっ!

「ってえ!」


 俺の鼻っ柱にデコピン喰らわせやがった。


「あんたもホントみくるちゃん好きねぇ。一緒に来たけど、今はいないわよ」

「なんだと」

「ホントはあたし達、もっと以前の過去に向かってたんだけどさ、途中であたしに『この時間平面で待っててくださいね』なんて言って、一人でちょっとこの先の過去に行っちゃったの」

「お前声真似うまいな。で、何で朝比奈さんはそんな単独行動を?」

「『歴史改変しちゃった昔のミスを修正してきますー』だって。あんたからすると昨晩あたりみたいなんだけど。何か知ってる?」

「昨日の晩……? いや特に何もなかったな。覚えてないぞ」


 というか、今日の不思議探索で朝比奈さんが異常に不機嫌だったんだが……あれは何故だ?


「さあ? あたしが知るわけないじゃん」


 そうだよな。


「で、お前は朝比奈さんが戻るまで待ってるわけか。つまり此処にきたのは」

「只の暇潰し」


 やれやれ。


「……なあお前未来から来たってことは、俺の将来も知ってるわけだよな」

「そりゃね」

「俺は今どうしてる? 大学は何処行ったんだ? 就職したのか?」

「あんたは5浪した後ニートになって、ギャンブルでデッカイ借金作ってマグロ漁船に売られちゃったわ」

「」

「冗談よ」


 お前の冗談はホント悪質だな。

 

「そんなくだらないことよりさ、」


くだらなくねえよ。


「今のあたし、どう?」


 ハルヒはその場でくるりと1回転してみせた。


「やっぱり昔とは変わったでしょ? 大人になった?」


 ふむ……スレンダーな体つきはそのままに、ふわりとした衣装に隠されてはいるが、この大人ハルヒ、育つべきところはさらに育っているようである。流石にSOS団専属メイド様には及ばぬものの、これはこれでなかなか……。

 朝比奈さん(大)に会った時にも感じていたことだが、どうやら俺には『年上のお姉さま』萌えがあるやもしれん。トラウマものの初恋も、いとこの姉ちゃんだったし、年の離れたガキっぽい妹を持つと逆にそんな性癖が育つのかもしれんな。

 ちなみに今のハルヒは、胸元が空いてレースのついたベージュのチェニックに、若草色の七分丈のパンツという春っぽいゆるゆるファッションで、これはなかなかに俺好みなのだが、あいにくこいつは朝比奈さんと違って、王権神授説を唱える絶対君主的な面構えが、フェミニンな雰囲気を全て台無しに


「とう!」びしっ!

「ってえ!」

「一言多い性格は今のうちに矯正すべきね」


 くそ、胸のボリュームと一緒に凶暴性も増してやがる。


「……ところでお前は何しに過去に来たんだよ。懐古趣味か?」

「んー、一言で言うなら自分の原点の確認ね」

「なんだそりゃ」

「ここ座っていい?」


 ハルヒは俺が腰掛けているベッドの隣を指差した。


「構わんぞ」

 

 俺の隣に腰を下ろしたハルヒは、落ち着いた口調で語り始めた───

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