第97話 北の大地のお祭りだ!

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「あれが新篠津しんしのつ村かぁ。……村?」

「面積は村の規模ではないな」


 思ってた数倍は広いんだけど?

 人口は、札幌旭川その他から集まってるか分かるにしても、え、東京ドーム幾つ分?

 渋谷の中心部より余裕で広いんだけど。


 凄いなぁ、さすが北海道。

 

 あ、あの巨大コロッセオみたいなのが闘技大会の会場か。

 客席部分には屋根もある。

 観客席を除いたあの闘技場部分だけで野球のスタジアムが客席まですっぽり入りそうだね。


 ん、あっちに見えるのは温泉か。

 サイズ的にプールだけど。

 宿泊施設もあの辺りに固まってるんだ。


 で、この一帯全てがお祭り一色。

 うん、来てよかったー。


「とりあえず、巨人の王の所に顔を出そうか。たぶん連絡いってるから」


 そういう意味では、獣王の所に行ったのはちょっと失敗だった気がしないでもない。

 

「ああ、分かった。直接降りるか?」

「うん」


 人化は、解いておこうか。

 巨人の王の所に通してもらうのに普段の姿に戻るだろうし、このまま行ったらこれから先変装するときにばれちゃうかも。


 んー、温泉の方か。

 あっちの一番大きな建物の中だね。


 うん、なんか距離感から何からバグりちらかしてる。

 巨人は大きい人だと四メートルを超える身長があるから、彼らに合わせたらそうなるのは分かるんだけどさ。


 まあいいや。着地っと。


「なあ、あれ……」

「ハロさん、だね。巻き付いてるのは夜墨センセー?」

「うわ、まじか。生で初めて見た。オーラヤバ」


 あらま、軽い騒ぎになってる。

 さっさと入ろう。


 この扉は、手動みたい。

 体力Sになったとは言え、膂力の面で秀でてるわけじゃないから、これは強化しないと大変かな?

 

 ほっ、……意外と軽い。

 何の素材使ってるんだろう?

 迷宮素材かな。


「何であれ片手で開けられるんだ……」

「ハロさんだから」

「それもそうか」


 はいそこ、変な納得の仕方しない。

 ていうか、よく見たら隣に小さい入り口もあるじゃん。


「ようこそいらっしゃいました。本日は、宿泊でしょうか?」


 ホテルマンらしきスーツの巨人が来てくれたけど、少し困ってる?

 魂力を見た感じ、緊張もしてるね。

 表には出してないあたり、この仕事長いのかな?


「いや、貴方たちの王に用があって来た。一番上、行っていい?」

「確認してまいります。少々お待ちください」


 ん、ほっとしてる。

 まあ、私のサイズだと色々と大変そうだからね、この宿は。


 改めて見渡すと、石造りのホテル内はなかなか高級感がある。

 高級感があって、ひたすら巨大なんだ。

 

 巨人以外にも身体の大きな人型種族っていたかな?

 妖怪や精霊のような人外ならいるけど。


 そういえば私、全部ひっくるめて人間って言ってるけど、そろそろ使い分けないと世間と感覚がずれてきそうだなぁ。

 旧世代はけっこう私と同じ感覚。でも新世代の子たちは違うっぽいし。


 なんて考えてたら、さっきのホテルマンさんが戻ってきた。


「お待たせいたしました。ご案内します」

「ん、ありがとう」


 エレベーターはもう作れるみたいだけど、この建物にもあるのかな?

 今のモーターって巨人数名を運べるだけの馬力だせたっけ?


 吸血鬼の誰かが発明したって事しか覚えてないや。


「ただいまエレベーターは設置工事中でして、階段を使用する事になります。一段一段が高いので、どうぞ肩にお乗りください」


 エレベーター自体はあるらしいね。


「飛ぶから大丈夫」

「かしこまりました」


 階段は流石に揺れそうだし、労力としては走るより軽いし。

 たしか、三階までだったはず。


 しかし、本当に不思議な感じ。

 身体が超大きいだけで、見た目は普通の人間と同じだからなぁ。

 そのうち慣れるかもしれないけど。


「こちらです。では、失礼いたします」

「ありがとう」


 ひと際豪華そうな客室の前に案内されたけど、扉が大きすぎて豪奢って方が正しく見えてしまう。

 まあ入ろうか。


 あのボタンは、チャイムか。

 全部の町をちゃんと見たわけじゃないけど、これまでで一番旧時代に近いかもしれないね、ここ。


「お、よく来たなハロさん。五十年ぶりか」


 チャイムを押してすぐに出てきたのは、五メートル近い身長のガタイの良い男。

 黒く短い髪に灰色の瞳の、気の良さそうなおじちゃんだ。


「まあ入れよ」

「そうさせてもらうよ」


 配信にもよくシロウのSNステータスネームで来ているし、それほど久しぶりという感じはしない。


「祭り目当てで来たのか?」


 巨人の王は部屋に似合わない作務衣で番茶を淹れてくれる。

 わざわざspで小さなコップを交換してくれたようだけど、よくもまあ零さずに注げるね。


「そうそう。と言っても、祭りがあるって知ったのは手前まで来てからだけどね」

「ほー。レンゾウの所に来たって聞いたから、てっきり最初からそれ目的なのかと思ったぜ」


 レンゾウというのは獣王の事だ。

 SNレンゾウ。本名もレンゾウって聞いたけど、字は知らない。


 シロウは一緒に人間サイズの座布団を巨人サイズの机の上に敷いてくれたので、その上に座る。

 コップはこれまた小さな箱を机の上に用意してくれた。


「いただきます。うん、おいしい」

「だろ? 狐獣人達が迷宮から拾ってきた種を育てたやつだ。モンスターのドロップ品らしいぜ」


 ほー。なるほど、それは美味しい。

 狐獣人は妖狐とはまた別の種族みたい。


 しかし、北海道の気候でも育つ茶の木かー。

 本当に何でもありだ。


「で、用事ってなんだ?」

「ああ、面倒だったから用事って言っただけで、ただ顔出しただけだよ。仕事の邪魔だった?」


 部屋の奥にはいくつかの書類が広げてあった。


「いや、気にすんな。どうせ急ぐもんはねぇし、嫌になってきてた所だったからよ」

「前にコメントで好きじゃないって言ってたね」


 よく覚えてるなとシロウが感心するのを眺めながら、お茶に口を付ける。

 あまり早く行くのも悪い感じがするし、もう少し話した方がいいかな。

 本音を言えば、そろそろ退散したい。


「俺はレンゾウと違って、大工一本でやってきたからな。書類仕事は苦手なんだよ」


 ああ、大工だったのか。

 巨人たちの手先が器用なのは、その影響かな?



「そういえば、あのコロッセオは貴方が作ったの?」

「ん? ああ、新篠津闘技場のことか。そうだ。俺と何人かで作った。けっこう自信作だ。吸血鬼にも来てもらって、魔法的な防御も施したしな」


 ほう。それは頑丈そう。

 さすがに私の全力戦闘には数秒ともたないだろうけど、大抵には十分すぎる強度になってそうだね。


「闘技場で一つ思いついたんだけどよ――」


 ふむ、なるほど。


「――いいよ。やろうか」


 思わぬ提案だったけど、面白そうだ。

 是非、やらせてもらおう。


 巨人の王の元を出た後は、人化した上でホテルを取り、街に繰り出した。

 うん、街だ。

 発展度合いと規模的に、どう考えても。


 網羅しようと思ったら到底三日、前夜祭を入れて四日で回り切れる規模ではない。

 少しでも沢山楽しめるよう、今日から回る。


「あ、夜墨。バーベキュー串だってさ。買おう」


 ホテルを探してる時からいい匂いがすると思ったんだよ。

 こんな近くから出店が出てるんだ。


 めちゃくちゃ大きいのもあるけど、あっちは巨人用かな?


「おじさん、二本ちょうだい」

「あいよ!」


 あ、注文が入ってから焼きなおすんだ。

 いいね。


「こっちの肉は迷宮産の牛肉をそのまま使ってるんだがよ、野菜は旧時代の品種と迷宮産の品種を掛け合わせて作ったやつなんだ。親父が元々そういう事をしてたみたいでなぁ」


 焼きながら鹿獣人のおじさんはそんな話をしてくれる。

 頭はそのままシカだからちょっと違和感があるけど、そのうち慣れるかな?


 聞いてみたら同じ鹿獣人のお父さんもお母さんも人に近い姿だったらしいから、遺伝はあんまり関係ないのかもね。


「はいよ、お待ち。四百sp、確かに」

「ありがとう」


 これで一本二百spかー。

 お祭り価格だとして、この辺は一spが十円くらい?


 他の地域よりちょっと価値低めかも。

 色々と盛んで発展してるから説はあるね。

 競争が十分な地域の方が物自体安くなりやすいし。

 

 この辺は、日本全国で安定することは無いんだろうな。

 もうそれぞれの地域が一つの国のようになってる。

 同じ日本で同じような文化なのに、不思議な感じ。


 連合国みたいな感じにはなるかもしれないけど。


「ロードが王となればすぐにでも一つの国として纏められよう」

「可能性としてはね」


 絶対いやだけど。

 色々と制限されちゃう。


「そんな事より、熱いうちに食べよう。いただきます」


 今の私は猫舌じゃないから、そのまま食べられるのだよ!

 はむ。


「美味しっ。この野菜類、前に食べた下層のより全然美味しいんだけど」

「ああ。品種改良か。人間を生かした甲斐があったというものだ」


 いや本当に。

 これは、龍の全力を以て街中の屋台の料理を食べ尽くさないといけないのでは?


「……夜墨」

「ああ」


 いざ、出陣!


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