第77話 魔力ってなーに?
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魔物の気配は、かなり先までないね。
今のうちに少し実験しちゃおっか。
いい加減、魔力とは何ぞやに決着をつけたい。
まず、魂力との関係。
魔力と魂力が何かしら関係があるのは、身体を満たす魂力と魔力による身体強化の過程だとか、ポーションの仕組みだとか、色んな情報を合わせて考えると確実だ。
じゃあイコールなのかって考えると、それは違うだろう。
魂力を知覚できるのは私たち龍を含めたごく一部の種族で、多くは感じ取れない。けど魔力は訓練次第で誰でも分かる。
魂力も訓練次第でいけるのかもしれないけどね。
ていうのは私の認識で、実際はどうか。
「ちょっと質問。これ、見える人どれくらいいる? 種族も合わせて教えてくれたら嬉しいな」
人差し指を立てた先に、魂力で
『見えますね。火精霊です』
『見えるー。妖狐』
『人間だけど分からん』
『え、人差し指立ててるだけじゃないの?』
『ぼんやり見えます。鎌鼬です』
『分からん。鬼だ』
『竜人自分、さっぱりわかりません!』
『猫獣人、なんかぼんやり見える気がする』
ふむ。
何十人かが答えてくれたけど、少なくともこの場では、種族で見える見えないがはっきり分かれてるね。
「じゃあ、魔力感知できない人はいる?」
ん、何人かいる。
けど獣人や巨人といった魔力の扱いの適性が低い種族の、特に若い人だね。
概ね私の認識通りと見て良い。
やっぱり魔力と魂力は別物か。
別物だけど、限りなく近しいもの。
変化したもの、かな。
身体強化や再生をする時の動きから考えると、順番は魂力から魔力。
逆は、出来るか分からない。
何となくできそうな気はする。
過程としては、魂力に何かしらの要素が加わって魔力になるって感じかな。
共通点と相違点を挙げてみよう。
まず共通点。
これは、エネルギーとして機能しながら物質的な性質も持っている点かな。
光が波と粒子両方の性質を持つのに似ている。
私が偶に魂力をぶつけているのは、粒子の性質が強く働いてるね。飛行もそう。
魔力でも一応同じことが出来る。
エネルギー的な面は、魂力の場合能力値への影響が大きいか。それに魂に内包されている状態。
魔力は、まあ挙げたらキリがないくらいには色々。ブレスが一番純粋にエネルギーとして使ってるかな。
感覚的な部分で言えば、魂力の方が物質的な面が強いような気はする。
あくまで感覚的な根拠だから、頭の片隅に置いておくくらいかな。
じゃあ相違点は?
一つ思いついたのは、魔法的な現象を引き起こせるのは魔力だけってこと。
魂力から直接魔法を発現することは出来ない。
必ず一度、魔力への形態変化を通す。
思えば、鬼秀の破魔の力を受けた魔力は、魔力としては霧散していた。
あれは魂力になっていたんだろうか?
ちゃんと意識してなかったのが悔やまれるね。
「それにしても、あれは楽しかったな。ふふふ……」
『なんか急に笑い出したぞこの人。こわ』
『不気味すぎる』
『急に笑い出すとか、珍しい。そして不気味』
『怖いて』
『頭おかしく、、、は元々あるな』
『どしたん、話きコカ?』
こいつら……。
一瞬だけタイムアウトしようか?
いやしないけど。
しかし、魔法、か。
ちょっとプロセスを観察してみようか。
その為に迷宮に入ったんだし。
ん、ちょうど良いのが。
「敵がいる。前方五メートル」
配信を見ている人に教えておく。
流石に気配まで画面越しに感じ取ることは出来ないからね。
予兆は――
「足裏に地面が揺れる微細な感触。微妙に地響きが聞こえる。地面の下の気配を探るよりは分かりやすいかな」
事前に気配を察知できなくても、ぎりぎり襲撃は分かるくらいだと思う。
「来るよ」
軽く後ろに跳ぶ。
水を吸った砂に足をとられるけど、想定の範囲内。
一瞬前まで私の居た場所の地面が盛り上がり、気配の主が姿を現した。
地味―な色合いの、口の大きな魚だ。
大きさは人間の大人一人をギリギリ丸のみに出来るくらい。少し丸っこいフォルムで、間抜けな印象を受ける。
「たる型の爆弾があったら口に放り込みたくなる感じだね」
『あー、いたな』
『なつかし。今の人分からんだろ』
『旧時代の終わりごろでも知らん人少なくないモンスターだぞ』
『ハロさん、その世代の人かぁ……』
『何の話か全く分からん』
『定期的に始まる配信老人会。老人っていうか化石レベルの話かもしれんが』
新しい世代には悪いけど、化石の話はこれから何十年何百年続くよ。
私以外にも長命種は少なくないからね。
まあそれはそれとして、実験の続きだ。
砂地から身体の上半分を出す魚に向けて炎の魔法を準備する。
ただし、少しばかり過程に干渉して。
普段なら私の発した魔力と、私の周囲にある少量の大気中の魔力が術式を構築して魔法を発現させる。
この私から発せられた魔力は、魂力に何かしらの要素が混じって魔力になるという仮定の通りなら、体内で魂力に何かが混ざって魔力として体外に放出されたことになる。
これを体外の魂力で行ったらどうなるか。
普通は難しいが、魂力に直接干渉できる龍の私なら簡単だ。
私の肉体を象る魂力を、前に突き出した左手の平から放出する。
混ざる何かは私自身に由来すると考えられるから、体内の魂力と繋げたままだ。
この状態で魂力に働きかけ、魔法を使おうとする。
――ん、魔力になった。
魂力が魔力になって、炎を生み出し、魚を包み込む。
一階層の魔物だし、すぐに消し炭になるだろうから、意識は外して良いだろう。
ステータス画面を開いてspを確認する。
増えてない。
つまり、もうこれを観測済みの者がいるって事か。
まあそれならそれで良い。
魂力に何かが加わって魔力になる。これを確かめられただけでも大きい。
……美味しそうな匂いだね。
ちょっと火を消して食べようか。
「んぐ……」
うわ、じゃりってなった。
砂かぁ。
「これは砂抜きしないとダメだ」
『砂抜きか。・・・どうやって?』
『これの砂抜きって無理じゃね?』
『砂抜きは無理』
『いっそ養殖。。。』
身は美味しいのになぁ。
じゃなくて。
く、食欲に負けて話が脱線したよ。
さあ考察!
何が加わって魂力が魔力になったかだよ!
今した事を言語化すると、魂力に魔法を使おうという意思を乗せた、ってなるのかな。
つまり、魂力を魔力に変えているのは、意思?
……いや、それだけじゃ足りない気がする。
間違っては無いんだろうけど、全てを説明できない。
意思だけによって魔力となるのなら、そこらに存在する魔力は何だ? 誰の意思を受けた?
地脈から魂力を汲み上げ魔力として運用している迷宮には、誰の意思が介在している?
もっと広い範囲。
例えば、情報……?
仮に情報も意思と同じように具現化されるなら、観測する方法はある。
さっきの炎で乾いた砂を手に取り、それを情報として魂力に混ぜる。
……魔力になったね。
この魔力を、足元の湿った砂にぶつけると?
「乾いた……」
情報の元に使った砂に比べてごく小さな範囲だ。
湿った砂という媒体的なモノがあってもこれ。
ふむ、図らずも魔法についてまで知れそうだ。
けど、その考察を始める前に、だ。
「別に砂遊びをしてたわけじゃないよ?」
コメント欄の疑惑をちゃんと否定しておかないと。
『またまたー』
『砂遊びしてたらもっと可愛いのでしてた事にしてください』
『砂遊びだったでしょ今の』
『トンネル掘る?』
『ハロさん可愛い』
うん、まあ、砂遊びに見えたのは、間違ってないと思う。
何も知らずに見たら、私も砂遊びしてるって思うもん。
なんかリスナーたちがニヨニヨしてそうで少しイラっとするね?
私はその方向で売り出してません!
はぁ……。
考察は、歩きながらしよう。
なんか空気中の魂力濃度が高くなってる気がするから、そろそろ次の階層だよ。
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