第71話 まずは沖縄
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空には白い雲が点々とあり、眼下を流れるのは青い海原。
季節は春、旧時代なら若人たちが新しい生活を始める、芽吹きの季節だ。
「ん、見えて来たね」
「ああ。そろそろ速度を落とす」
彼方に見えた島々は、今回の目的地。
五十年ぶりの沖縄だね。
「ん-っ……! 着いたぁ!」
島の中央付近、今では誰も住まなくなったあたりに降り立って、伸びをする。
姿も気配も完全に隠したまま上陸したから、誰も気づいていないだろう。
今回の目的は、ただの旅行。
この五十年ですっかり変わった日本を見て回る事。
各地に適当な期間滞在しつつ、北上していくつもり。
人化の魔法を使って、角と尾を消し、黒髪黒目のお姉さんにジョブチェンジする。
夜墨は小型化した上で姿を消して付いてくる。
少しの間なら人間になってもらっても良かったけど、長くなるのはね。
「とりあえず海の方?」
「そうだな。陸に住む者たちも含めて、皆そちらにいるようだ」
陸上の人口は大きく減ったから、海岸線だけでも十分収まるみたい。
海に生きるようになった者たちが多いし、その方が都合が良いんだろう。
この旅行の為に用意したシンプルな白のワンピースを風に揺らしながら、殆ど森になってしまった元那覇市を歩く。
それなりに高いマンションらしきものも幾らかは残ってるけど、南洋生の植物に覆われて廃墟になってしまっていた。
「ずいぶん変わったね、この辺も」
「ああ、以前に来た時はもう少し旧時代の街並みが残っていたが」
人間だった頃にも三回くらいは来たことがあるけど、当時より孤島感が増してる。
気温に関しては魔法で調整しているから分からないけど、森の中だからか、何となく涼しそうに見える。
実際はじめじめしてるんだろうけど。
なんて言ってる間に人の気配が増えてきた。
パッと見た感じ、町並みとしては変わっていない。
白く風通しの良さそうな建物がいくつも並んでいた。
ああ、でも、少し畑が多いかな。
そのまま歩き続けると、直ぐに海が見える。
エメラルドグリーンの輝く海には桟橋が連なり、幾つもの
面積で言えば、陸地部分より広いだろう。
木造の建物もけっこうな数が建てられている。
見た感じ、水生の種族の人々が主に使っているみたいだね。
「台風とか大丈夫なのかね?」
もう数か月もしない内に沖縄は台風シーズンだったと思うけど。
「ん、アンタ見ない顔だと思ったら、旅の人か。こんな時代にすげぇな」
何気なくつぶやいた言葉に反応したのは、丁度すれ違った人間のお爺さんだった。
浅黒い肌の彼だが、訛りはそれ程感じない。
「パッと見人間だが、魔法が得意な種族だったりするのかい?」
「え、ええ、まあ」
少しばかり余所行きの顔を出して曖昧に返す。
というか、面と向かって話す事なんて五十年近くなかったせいで少し緊張するんだよ。
「おっと、悪いな。他所の人と話すなんて旧時代振りでよ。年甲斐もなくはしゃいじまった」
「いえ、大丈夫です。その、あまり方言は無いんですね」
「ああ、元々東京の方出身だからな。あっちがどうなってるか気になる所だが……、いや、台風だったな」
話によると、あの人魚の小娘が歌の力で台風の被害を防いでいるらしい。
魔力の扱いは下手だったが、歌に乗せて加護を与えるくらいなら問題なく出来るようになったのだろう。
そういえば、あれだけ垂れ流していた魔力の気配がかなり薄れている。
私からすれば及第点には程遠いけど、それなりに努力はしたんだろう。
「まあ、折角来たんだ。楽しんでってくれ。うちは魔族もまだ出てないし、魔物も竜宮の兵士たちが掃討してるから安全だぜ」
「ええ、ありがとう」
ふぅ。緊張した。
しかし魔族ね。
そういえば他の地域ではぼちぼち魔族になってしまった人が現れてたんだったっけ。
なんかスレッドで見た覚えがある。
魔族が出たところで私の敵ではないんだけど。
そもそものスペックが違うし、訓練も怠っていない。
残念ながら
もう少しで体力Sにはなれそうなんだけどなぁ。
体力も魔力ぐらいぐんぐん伸びてくれたらいいのに……。
「さて、これからどうしようか」
特に予定は決めてないんだよね。
行き当たりばったりでとりあえず来た感じ。
観光地があるわけでもないし。
「ん-」
足は止めずに考えるけど、まあ、情報もなにも無いからなぁ。
そういえば、竜宮って言ってたな、あのお爺さん。
「よし、竜宮に行こう。いいよね」
「ああ、異論はない」
あの小娘と話すのは疲れるから面倒だけど、コッソリ忍び込む分には問題ないでしょ。
「……と、その前にお昼だね」
「そのようだな」
ぐぅっとなったお腹に手を当てる。
さて、美味しいものは何かあるかなー?
お昼ご飯にありつけたのは、結局一時間以上も後の事だった。
お食事処はそれなりにあったんだけどね。
「ふぅ、満足満足」
人の姿をとった夜墨と並んで、店を出る。
「ああ。店選びだけで数十分かけたのだ」
「ふふふ、ごめんごめん」
だって、折角だし美味しいものを食べたいじゃん?
龍としての嗅覚やら直感やらを総動員したよ。
同じ道を行ったり来たりしてたせいで、お昼休憩帰りっぽい兵士さんに不審者を見る目を向けられちゃったけど。
手間暇をかけただけあって、いただいたゴーヤチャンプルーはとても美味しかったです。
満席状態で一度に六人前は大変そうだったので次からは何軒か梯子します!
「じゃあ行こうか」
「ああ。正面からか?」
「うん。兵士の人と一緒に入るよ」
面倒だからね。
完全に隠形して、堂々と入ります。
という訳で竜宮とやらに向かっていそうな兵士さんを探す。
遠くに見える赤い建物がそうだろうから、そっちに歩きながら。
件の赤い建物は、近くで見ると思った以上に立派だった。
モデルは首里城かな?
海と陸を跨ぐように建てられたそれには、珊瑚や真珠を使ったと思しき装飾がそこかしこにある。
「うへぇ……。ないなぁ」
豪華絢爛という言葉が相応しいのだろうが、私の目には些か度が過ぎているように見える。
なんていうか、逆に下品。
成金趣味も良い所だ。
首里城をモデルにした上で、あの小娘の趣味で飾り立ててある感じ。
ちょっと気が滅入りながらも侵入する。
中も同様、かと思えば、趣味の良い調度で揃えられたエリアも多くあった。
特に成金なのは、水生種族用の水路周辺だ。
あれかな、小娘の行動範囲とそれ以外。
ざっと各所を回ってみた感じ、小娘の仕事は歌と神輿くらいなようだった。
それに、古参と思しき人とそうで無い人とでは女王に向ける目が違う。
古参の人のこれには覚えがあるぞ?
ん-、なんだろう。
「……あ、あれだ。孫を見る目」
なるほどね。
全く、人が好いというかなんというか。
のんびりした人たちって言えばいいのかな?
まあ、宰相らしき人が上手く回してるから大丈夫でしょう。
子どもの方にはしっかり教育してるみたいだし。
「……え、子ども? 小娘に?」
「夫はあの宰相のようだぞ」
ほえー、ハロさんびっくり。
やけに献身的だなとは思ってたけど、そういう感じかー。
小娘を利用してるわけでもなく、旦那として支えてると。
ふーん、いいじゃん。
そういうのは嫌いじゃないよ。
あの小娘は、五十年経っても相変らず思慮に欠けてるから、どうこうするつもりはない。
だけど、旦那の事は気にかけても良いかな。
困った時にすこーしばかり手助けする程度だけど。
あの小娘も、魔力だけなら高位の龍すら上回る。
大抵の事はどうにかなろう。
「うん、こんなものかな」
長くいればもっと色々見れるのだろうけど、ただの興味本位だし。
学校制度が寺子屋レベルだったから、今後どれだけ発展するかは知らないけど、のんびりしてて良い町だったよ。
さぁ、次に行こう。
次は、九州だね。
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