第51話 故郷の迷宮へ
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さてさて、あれから姿を隠して日本中を回ってみたけど、概ね問題なさそうだったね。
人口的に一番心配した関東も、私が直接姿を見せたからなのか、王の一人として選定したさるお方のお陰なのか、思ったほど混乱が起きていなかった。
あと沖縄。
こちらもそこそこ優秀な人が補佐に入ったみたいで、ぎりぎりどうにかなってる。
島民たちがあの小娘に協力的なのもあるだろうね。
これで心配すべきは、人口が少なく戦力が足りない地域と三つの大迷宮、そして絶兄の動きくらいかな。
戦力不足に関しては、様子を見て対処するしかない。
少しでも魔力を削って余裕を作ってくれれば、安全圏に入った隣接地域に強力してもらうことも出来るし。
大迷宮は、まあ大丈夫そうかな。
私と夜墨は言わずもがな。
伊勢神宮の方も、しれっと最高位の公爵になってたワンストーンさんとあの
絶兄は、正直読めない部分がある。
手段を選ばない節があるから、実験になりそうな何かがあれば確実に事を起こすだろう。
まあ、なんやかんやでスタンピード自体は確実に起こるけど。
だって、全部で幾つ迷宮があるか分からないし。
人間のキャパを超えそうな大きい所さえ防げるなら、細かいのは凌げるようになってる筈。
ダメでも、私と夜墨がどうにかする。
ウィンテさんも手伝ってくれそうかな。
その上で間に合わなかった所はもう、仕方ない。
完璧を目指すけど、完璧にするのは難しい。
私の体は一つだからね。
諦めてもらう他ない。
溢れた後のケアはぶっちゃけオマケのサービスだし。
私にとっては、それで死ぬくらいの数の人間は居なくても問題ない。
王たちには軍資金も渡したんだから頑張って欲しいけど。
「それじゃ、私は私で頑張ろうかな」
日本一周をしてて遅くなったけど、今日から出雲大社跡の大迷宮攻略を始めるよ。
配信はつけるけど、これまでみたいなのんびりとした攻略はしない。
時間が無いから、急ぎ目に行く。
「配信開始っと」
およ、コメントが中々つかない。
同接は増えてるし、始めていっか。
「ハロハロ、八雲ハロだよ」
『あ、いつもの配信だ』
『ふー、今度は何かと思った。ハロハロ』
『この安心感。ハロー』
『こんちゃ。ドキドキしたぜ』
ああ、なるほど。
またこの間みたいな宣告配信かって緊張してたのね。
「あんなの早々しないよー? 私は自由気ままに生きてたいんだから、面倒ごとはご免」
『ギャップ凄いな』
『つまり、今回はそれだけの緊急事態だったと』
『これ見ながら訓練頑張るんだ』
『く、これから迷宮探索だ。戻ってまだやってたらまた来ます!』
ふむふむ。
みんな頑張ってそうね。
安心安心。
まあ、グダグダしてても仕方ないから迷宮に入ろうか。
「今日から攻略するのはここ、出雲大社跡の迷宮だよ。ここはちょーっとばかし危ないから、私が行く事にしたんだ」
『あ、はい。近寄りません!』
『ハロさん任せた!』
『出雲大社、これ昔のやつになってない?』
『頼みましたハロさん。私たちは周りのこまごまとしたところで頑張ります』
喋りながら階段を上ってるんだけど、これ、長くない?
まあ、四十八メートルもあれば当然なんだけど。
「あと伊勢神宮跡と富士山山頂もやばいから、夜墨と九尾の子に行ってもらってる。プラスワンストーンさん」
『ほー』
『出た、ワンストーンにき』
『あじゃます』
『富士山山頂、今行こうと思っても行けないよ。。。』
ふぅ、やっと着いた。
社の中は、時々公開される本殿の中っぽいね。
奥の方がちゃんと祭壇になっていて、銅鏡が私の顔を反射している。
背筋が伸びるね、この雰囲気。
階段は、祭壇の手前。
どうやら下りていくタイプの迷宮らしい。
「じゃあ、行こうか。いざ、根の国の底へ」
根の国、或いは
出雲大社の主祭神として奉られていた大国主さんの治める地で、いわゆるあの世。
死後の世界だ。
白木の階段をすたすたと下りていく。
「ほー、こう来たか」
眼前に広がる湿地に納得する。
後ろを振り返ると、私の下りてきた階段は小さな社の中にあった。
『湿地だな』
『なぜに湿地』
『あの辺って出雲平野だよな?」
『蛇とかいそう』
確かに今は平野だね。
けど、遥かな昔、それこそ出雲大社が建てれらたような頃は、この辺り一帯は湿地だった。
人が住むには少し難しい環境。
そんな地の信仰を日本中に広めるのは、並大抵の労力ではない。
古代の出雲に集った人々は、この地の教えを広めるために日本中を旅したって話だよ。
余談だけど、この地から各地に教えを広める際、使われた
なんて話をしながら、湿地帯上を飛ぶ。
こんな低階層の魔物を狩っても焼け石に水だから。
「ん、ここまで来るのね」
『お?』
『何今の』
『でっかい魚?」
切り捨てたソレが落ちていくのを一瞥して、すぐに探索を再開する。
今のは、ただ大きいだけの鯉だ。
強くは無い。
けどまあ、水生で大きいというだけでも、普通の人間には辛いか。
気配をたどれば、蛇らしきものも幾つか感じられる。
毒持ちも居るかもしれない。
それでも、この環境の一番の敵は地形だろうね。
どこで足を取られるか分かったものじゃない。
まあ私は空を飛んでるので関係ないけども。
お、階段発見。
さあドンドン行こう。
二時間後には十階層の守護者を倒し、十一階層に入った、
十階層の守護者は人型の鯉で、正直少し気持ち悪かった。
強さとしては、渋谷迷宮の三十階層守護者のレベル。
まあ、暫くは戦いにもならなそう。
十の台の階層も同じく湿地帯で、カエルや鯉人間の下位種が増えたくらいだった。
ここの敵も倒す意味が薄いので、空を往ってスキップする。
二十階層には、同じく二時間ほどで辿り着いた。
『今回は急ぎ足だな』
『攻略動画としては参考にならんな』
『まあ、見てる感じ、俺たちが挑めるのは何年も後になりそうだけどな』
「ごめんねー。ここに関しては低階層の魔物を狩ってもあまり意味が無いんだー」
そう言って謝ったら、皆納得してくれた。
この間の宣告配信でけっこうな数のおバカさんをブロックしたから、大分平和だよ。
ぶっちゃけ、一定以上の頭の悪さの人と話すの嫌いだから。
だって、どう頑張っても合わせられない。
一足す一が二になるって位の論理的な思考が出来るなら絶対に選ばない選択肢を平然と選んでくるんだもの。
初手で切り捨てる可能性って一番膨大なのに、そこから選んでくる相手とどうやって会話したらいいのさ。
論理に規則性があれば、予測もできるけど、それすら無いんだもの。
なんて内心で愚痴っている間に、二十階層の守護者、蛙男を撃破。
渋谷の五十階層位の強さはあったんじゃないだろうか?
ん-、上り幅が大きいね。
私が来てよかったよ。
続く三十階層も湿地。
蛙男の下位種のほかに蜥蜴男が混ざっていたから、次の守護者はあれの上位か、蜥蜴そのものかなぁ?
まあ何にせよ、まだまだ私と戦闘になるほどの奴らじゃない。
最低でもうちの最下層、二百階層くらいまで潜らないといけないかもしれないね。
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