第48話 化け狸と故郷と
㊽
「それじゃあ、私は次に行くわ」
「ええ、恩に着ます」
私の倍ほどはある老狸に別れを告げ、背を向ける。
同じくらいに巨大なヒョウタンを携えた彼は、化け狸の始祖だ。
二足歩行をする、白い髭を蓄えた狸ってなんとも不思議な存在だけど、それもその筈。
化け狸は区分としては人間じゃなくて妖怪になるんだそう。
あれだ、四国の妖怪の有名どころ。
実際、彼は隠神か刑部と呼んで欲しいと言った。
この地には化け狸の他にも妖怪が多いし、妖怪の治める地となりそうだね。
「そういえば、中国地方の方で強い人知らないかしら?」
「はて、ワシは知りませんな。誰か、知っておるか?」
近くに侍っていた者たちは皆、一様に首を横に振る。
誰も知らない、か。
ふむ。
まあいっか、とりあえず行ってみて考えよう。
今日はもうすぐ日が暮れるから、明日になったら。
そんな訳で日の出と共に起き、出発する。
夜営には中国山地で見つけた迷宮の入り口を使ったから、ぐっすり眠れたよ。
「さ、行きますか」
夜墨に乗せて貰って、普段よりはゆっくり中国地方を回る。
他の場所だったら凡百の現地民に任せれば良いけど、ここはそうもいかないから。
強者を見つけないと、ここからあふれ出した魔物だけで日本中の人間が滅びかねない。
けど、見つからない。
隠れているのか、そもそもいないのか。
「本当、どうしようか」
ちょうど真上を通ることになった、頭痛の種を見下ろす。
そこは
迷宮が生まれて一度更地になったそこには、いつか歴史博物館で見た地上四十八メートルの社が建っていた。
境内も、たぶん古い方の範囲だ。
半径二キロくらいある方。
迷宮の規模としては今の私の家より大きい。
この規模になると、浅い階層で魔物を狩ったくらいじゃどうにもならない。
深い階層まで行って魔物を狩る必要がある。
そんなの、現状では始祖の中でも一握りの強者にしか出来ない。
「いやー、本当に困った」
何より問題なのが、このクラスの迷宮があると思われる最大規模の地脈の交差点が、あと二か所あること。
一つは伊勢。
伊勢神宮のあった地。
そして富士山だ。
「この地の人間どもは見捨て、外に出てきた中で力ある個体だけを狩るか?」
「ん-、それは、したくないなぁ」
だってここ、私の地元だし。
私、地元好きなんだよ。
あと一応家族や幼馴染たちもいる。
縁を切ったからと言って、即どうでも良くなるわけじゃあない。
スタンピードを放置しようって思ってた時でも、仲の良かった人たちだけはコッソリ助けるつもりだったし。
秘密だけど。
だから、かなり真面目に探したんだけどね。
一日かけても成果なし。
向こうから接触してくることも無い。
「仕方ない。ここは、私が行こう」
それしか無さそうだし。
東京の家は支配下にあるから、ちょこっとコアから操作するだけでスタンピードを防げる。
渋谷も同様。
諸々を終えたら、本腰を入れてここを攻略しよう。
三年近くもあれば、ぎりぎり攻略までいけるかもしれない。
「伊勢は、ウィンテさんが紹介してくれる人に期待するとして、富士山も問題だよね。立地的に」
今の時代、迷宮のある火口まで行くだけで至難だ。
何気に魔物が多いし、イメージのせいで、樹海の遭難確率が上がっている。
迷いの森的な何かになっちゃってるみたいなんだよ。
ん-、まあ、問題ないか。
「夜墨、富士山の方の対処をお願い。深部の魔物を乱獲するくらいは余裕でしょ?」
「ロードが望むなら」
いざスタンピードが起きるってタイミングで手が空いていれば良いんだ。
それまでの期間なら問題ない。
今回を乗り切ったら、また考えよう。
いっそ、樹海の一部を吹き飛ばすのも有りかもね。
「よし解決! て、もう夕方かー」
空が赤く染まり、東の空では星が瞬き始めている。
今日は全然進まなかったなぁ。
まあ、仕方ない。
明日はウィンテさんと会う日だし、もう少し京都に近い辺りで夜営場所もとい迷宮を探そう。
あー、ヤダなー。
会いたくないなー。
せめて紹介してくれる人が飛び切り優秀だと良いなぁ。
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