第35話 塩気とNIHONSHU!

 帰宅ー。

 そしてキッチンへ。


 夜墨には買った物を仕舞ったらすぐ龍の姿になって貰った。

 一応二人が楽にすれ違えるくらいに作ったけど、それはそれ、これはこれ。


 奥行きがあって、コの字型の作業台に囲まれたタイプのキッチンだから、同時に色々作るにも困らない。

 コンロは三口、なんだけどまあ形だけ。

 その下のオーブン二つも含めて、私の魔法でどうにかする。


 その内魔力式のなんやかんやが開発されたら入れ替えようかな。


 シンクは深めのを二つ。

 水はspで交換するか魔法で出すので、蛇口は付けていない。

 排水先はどこか知らない亜空間だけど、まあ、魔力か何かに変換されるだろうから問題なし。


 上の方とか下の方とか、空きスペースは全部収納にした。

 冷凍庫付きの冷蔵庫と電子レンジも置いてある。


 電子レンジのそれも魔法で再現できるって後で気が付いたけど、雰囲気的に?

 魔法で電力供給したら一応使える。


 すぐ使うものとか冷凍のものはキッチンに置いてある冷蔵庫に入れてる。

 調味料とかね。


 細かいことを言えばもっと色々あるけど、けっこう使い勝手がいいんじゃないかな。


「何を作るのだ?」

「ん-、まあ出来てからのお楽しみで」


 とりあえず、炊飯の用意をしてから冷蔵室に放置していたクーラーボックスから真鯛を回収してくる。

 氷はもう殆ど魔力に変換されていたけど、問題なさそうかな。


「あ、夜墨。これ混ぜておいて。握ったら纏まるくらいで」

「ああ、分かった」


 三匹もあるから鱗とりが大変、と思ったけど、案外ですぐに出来た。

 単純に筋力が増しているから、そんなに力を入れずに剥がせたんだよね。

 さっき買った出刃包丁の背でさっさって。


 んで、こいつの内臓とエラを取って、水分はペーパータオルに吸わせる。


 あ、ゴミ箱は置いてません。

 全部燃やすので。


 そんで内臓の入っていた所に長ネギと刻んだしょうがを詰めてっと。

 これだけ新鮮なら要らない気もするけど、香りづけも兼ねてだ。


「どう?」

「こんなものか」

「うん、いいね」


 オーブン用の天板を取り出して、アルミホイルとクッキングシートを敷く。

 その上に、夜墨に混ぜておいてもらった白いのを広げて、和紙、spで交換した生昆布を敷き、その上にタイを乗せる。


 ここまでしたら何を作っているか、分かる人は何となく分かるんだろうね。


 で、タイの上に昆布、和紙と重ねたら、夜墨に混ぜて貰ったやつの残りで覆って、タイっぽい模様を書いてからオーブンへ。

 三匹分だけど、問題ないサイズだよ。


 あとは魔法で熱を入れてっと。


「それじゃ、リビングでのんびり待とうか」

「相変らず器用だな。ああ、分かった」


 火事になるようなものも無いし、燃えてもすぐ消せるし、火を維持出来たらそれでいいんですよ、ええ。


 少しだけ読んでた文庫本の残りを読み切ったころ、だいたい三十分後に火を止めて、キッチンへ移動する。


 さてさて、出来はどうかな?


 人間なら木槌か何か使う所だけど、私達はノックするように叩くだけで大丈夫。

 白いが割れて、湯気が立ち上る。

 内側に見えるのは、ホクホクになったタイだ。


「んっ、良い匂い。上手く焼けたみたいだね」


 ご飯もバッチし。

 それぞれお皿に盛りつけて、リビングに戻る。


「さ、食べようか。タイの塩釜焼だよ」

「ほう」


 そう、さっき夜墨に混ぜて貰っていたのは塩と卵白。

 余った卵黄は後でお菓子にしようかな。


「いただきます。……私天才すぎない?」

「塩気が良い塩梅だ。米が進むな」


 臭みはなし。

 タイの甘味が塩で引き立って、ダイレクトにくる。


 昆布の出汁も利いてるね。

 割った窯の欠片を少し乗せたら、ご飯のお供としても最高だよ。


「夜墨、これは、行くしかないよね?」

「ふ、ロードが望むなら」


 はい、という訳でステータス画面をタタっと操作してアレを交換します。


 NIHONSYU!


 辛口か甘口か迷ったので、今回は中間を取ることにした。

 という訳で選ぶのは、私の出身県で作られている銘酒、玉鋼!


 塩気強めだし、まろやかめが良いかなって思って純米吟醸にしたよ。


「ほい」

「ああ、すまぬな」


 夜墨用の杯に注いでから、私の分をグラスに。

 触った感じ、ひやかな。


「じゃ、乾杯」

「うむ」


 ん-!

 やっぱ美味しいね、これ。


 じゃあ鯛を食べて、からの玉鋼をクイっと。


「ふぅ……。うまっ……」


 塩気を日本酒が包み込んで流した後に、口の中に残ったタイの甘味が来るのですよ。

 最高に美味い。


 これ、鮮度が落ちた鯛だったら臭みが混ざって邪魔するんだろうなぁ。

 西の方の味付けだから余計に。


 醤油味なら誤魔化せる範囲でも、出汁主体だと目立つんだよね。


 って、あれ、もう一匹分無くなっちゃった。

 夜墨はもう二匹目に入ってるね。


 私もそっちをちょいちょい摘まむけど、もう少し欲しいなぁ。

 四匹用意したら良かった。


 まあ、まだ楽しみはあります。

 この窯にした塩です。


 塩を一欠けら口に放り込んで、からの日本酒!


「塩だけもやっぱりいいねぇ」

「ああ、日本酒にはこれだな」


 日本酒って、塩味以外の味が全部そろってるんだよ。

 そこに塩気を入れたら全ての種類の味が揃うわけで。

 もう美味しくない訳がない。


「ん、一升じゃ足りないか。もう一本いこう」

「次は別の日本酒も良いんじゃないか?」

「そうだね、何にしよう」


 迷うなぁ。

 お、ウィンテさんが配信始めたよ。


 丁度いいね。

 配信付けて、こんにちはっと。


 今日は、商売関係の取得spに関する検証かぁ。

 一定数の販売でsp取得できる疑惑が出てるんだ。ふーん?


 あ、そうだ。

 地元つながりで次の銘柄は出雲富士にしよう。


 あっちのお店にはチェーン以外割とどこでもあるお酒。

 私は結構好きなんだよね。


 今回選んだ白ラベルの出雲富士は玉鋼と同じようにバランスが良い銘柄。

 うん、故郷の味!


 そういえば、家族はどうしてるかな?

 私の事心配はしてるだろうけど、なんだかんだ生き延びてるって気楽に考えてそう。


 まあそうなんだけど。


 仮にあっちに行く事があってもあの人たちに会うことは無いけどね。

 spの支援もいらないでしょ、あの人たちは。

 なんだかんだ古い家だったし、親戚の集まりでどうとでもしてるよ。


 そんな事よりも今はお酒と料理です!


「あ、ちょっと夜墨、食べるの早いよ」

「仕方なかろう。美味いのだから」


 喜んでくれるのは嬉しいけど、それはそれ!

 私の分を急いで取り分けて、出雲富士を口に含む。


 ほぅ、最高。


 ふーん、十回自分の分とspを交換したら追加報酬があるんだ。

 これ、十回ごとなら薄利多売でも割と利益出せそうだなぁ。

 売るものでも変わるのかな?


 とりあえず商人の皆さん、競争頑張って。

 関わらなくていいなら、社会はそれなりに発展してほしい。


 その方が面白い物とか、便利なものが沢山生まれるからね。

 特に本とお酒は色々出て欲しいな。


 今日はこのままゆったり飲んで、お菓子作りをいくらか進めたら寝る感じになりそう。

 さて、明日はどうしようかなぁ。


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