第20話 女王が目覚めた

 ダーウィンティーさんの視線が何も無い空中に向けられた。

 集計結果を見ているんだろうね。

 私たちにはまだ見えないやつ。


「吸血鬼ですね! それじゃあ行きまーす!」


 え、もう?

 なんて思ってる間に彼女を黒い幕、たぶん魔力の塊が包み込む。

 一見すると、漆黒の繭だ。


『早い早い』

『リアクション何にもなしは草』

『配信慣れマジでしてないんだな。だがそこが良い』


 旧時代、って最近呼ばれてる世界変容前から配信とかあまり見ない人だったのかもね。

 見てても難しい部分はあるけど。


 なんて言ってる間に種族変化が終わったみたいで、黒い繭に白い罅が入る。

 変化というか、変態みたいだね。


 お?

 

「む、何かが目覚めたな」

「おはよ、夜墨。ダーウィンティーさんが種族変化したよ。吸血鬼」

「ほう、となると吸血鬼の始祖か」


 そういうことだね。

 ずっと西の方に一瞬、強い気配が生まれた。


 このレベルになると目覚めはハッキリ感じ取れるかー、そっかー。


 画面に視線を戻すと、ちょうど繭が黒い欠片になって飛び散った所だった。

 中央には少し様子の変わったダーウィンティーさん。

 瞼は閉じられていて、白衣が繭と同じ黒に染まっている。

 

 綺麗だね。

 私の時もこうだったのかな。


『髪、少し長くなった?あと艶が出てる?』

『顔色悪くなったのに雰囲気健康そうになってるのなんだ』

『身長若干伸びた気がする』

『耳尖ってるね。ハロちゃんより鋭い?』


 私を含めたリスナーたちが見守る中で、彼女が目を開ける。

 瞼の奥に現れたのは鮮血のように真っ赤な宝石で、見ていると吸い込まれそう。


 黒のままだった髪とは違う、明らかな変化だ。


 どこか夢を見ているような様子が幻想的で、美麗。そして妖艶。

 かと思ったら、不意に視線が定まって可愛らしい雰囲気に変わる。


「凄い……。明らかに違うって分かる。力が、私の中に渦巻いてるのが分かる」


 夜墨と同じくらいの魔力量かな。

 元がDだったって考えると、凄まじい強化。

 もう進化の域だよ。


「ハロさんも、こうだったんですか?」


 おっとご指名か。


『そうだね』


 だからこそ、あらゆる繋がりを捨てることが出来たんだ。


「そう、なんですね……。あっ、ごめんなさい皆さん! 検証ですよね! まずはステータス画面を全部公開しますね」


 全部公開。

 よくやるなぁ。

 保身より解明の方が大事とか、そんなタイプ?


 じゃなかったらアラネア達は生まれてないだろうし、そうなんだろうなぁ。

 地味にマッドサイエンティスト。


『体力と魔力がSの知力と器用がAか、凄いな』

『能力値たかー』

『体力はハロさんより上か』

『他はどうなんだろうな』

『吸血鬼なら特殊能力も凄そうだよな』


 ん、種族が吸血鬼(女王)ってなってる。

 階級があるんだ。


「あ、称号も増えてますね。[始祖吸血鬼]に[女王]だそうです」


『ヴァンパイアクイーンか』

『吸血姫?』

『女王だから姫はなぁ』


 雰囲気的に女王より姫なのは分かるけどね。


「姫……。あ、ごめんなさい。えっと、[女王]は支配能力が強化されるみたいですね」


 じゃあ魔蟲たちに関してはもう心配いらないかもしれない。

 

 だったら良い事だけど、敵対する事になったら面倒だね。

 特にオムカデア。


『あ、吸血鬼だし一応日光には注意した方がいいんじゃね?』

『ウィンテちゃん、うっかり当たって灰になりそうな怖さがある』

『分かる』


「だ、大丈夫ですよ! 今はけっこう窓から離れてます、し……?」


 あ。


『ちょ、夕方! 西日!』

『日光当たってる!』


「あ、え、どうしよっ、当たっちゃった! 灰になる? 私灰になる!?」


 ガッツリ日に当たりながら右往左往してる。

 目の端に光ってるのは、涙だ。


 これ、もしかしてやばい?

 放送事故?


「え、え? ハロさん、助けてっ?」


 助けて、って言われても、彼女は遥か西の彼方。

 どうする? 夜墨にお願いすれば間に合う?


 完全にパニックになってる。

 一旦日の当たらない所に移動してもらった方が――


「落ち着け、ロード」


 そんなこと言われても、って、うん?

 もう日に当たってからそれなりに経ってるよね?


「夜墨、吸血鬼についてどれくらい知ってる?」

「多少の能力と高位の者ほど陽の光に耐性を持つことくらいだな」


 ふむ、つまり。


「女王って、日光わりと平気?」

「いくらか能力が落ちる程度だな。始祖ならそもそも影響を受けないのでは無いか?」


 なんだ、そっか。

 良かった。


 ん-、どうしよ。

 すぐ教えてあげても良いんだけど、アワアワしてるのが可愛いんだよね。


『とりあえず日光の当たらないとこ行った方がいいんじゃ……』

『ていうかどれくらい当たってたらやばいんだろ。もうそれなりに当たってるよな』


「ほえ?」


 あ、余計な事を。

 まあ仕方ない。心臓に悪いだろうし、あまり黙ってると可哀そうか。


『夜墨情報。吸血鬼は上の階級ほど日光に耐性あるって。女王は能力がいくらか落ちるくらい。始祖ならそもそも影響ないんじゃないかってさ』


「……はぁ~、良かったー」


 あらら、へたり込んじゃった。

 これはこれで可愛い。

 癒し枠だね。


『ハロさん、これワザと黙ってたんじゃ……』

『あり得る。ハロちゃんいい性格してるし』


 バレテーラ。

 いや、迷っただけで実行してないと言えばしてないし?


『何のことかなー?』

『あ、図星ですねこれは』

『勘のいいリスナーは嫌いだよ』


「ハロさん?」


 おっと。

 

 ふふ、コメント欄のこういう絡みは久しぶりだね。

 楽し。


『夜墨に聞いた吸血鬼の能力教えるから許して?』


「仕方ないですね、それで手を打ちましょう」


『ありがと。プライベートスレッド作ってくれる? どれを後悔するかは任せるよ』


 あ、公開の字が。

 まあいっか。


「作りました!」


 来た来た。

 お礼だけコメントして、スレッドに書き込んでいこう。


 スレッドの方は他人の管理してるとこでも思考入力できるんだ。

 道理でみんなスレッドでは誤字しない。


 よし、おっけ。


「ありがとうございますー。えっと、霧化に、動物への変化、血を使った眷属化と再生能力ですか」


 ん、流石に魅了の魔眼は隠したのね。

 それはそうか、信用への影響が大きすぎる。


「それじゃあ、一つ一つ試していきましょうか」

 

さてさて、どんな感じかな?


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