第3話 初リザルト

 という事で、やって来ました我が迷宮の第一階層。

 ちなみに元々あった建物は周囲の物ごと綺麗さっぱり無くなって、大きな神社みたいな建物になっていた。入り口はその中。

 

 周りの家にも残ってる人が何人かいたはずだけれど、みんなそれぞれ迷宮のどこかに放り出されたみたい。私もたまたまコアルームに飛ばされてなかったら、そのまま死んじゃってたかもな、なんて迷宮の中を歩いていると感じる。


 そうそう、せっかく新しい人生を始められるんだから、口調とか一人称とか少し変えてみる事にしたの。まあ、って一人称は昔から使う機会があったから違和感は全然ない。


「さて、準備運動はこんなものかな」


 洞窟の様な中に、魔物の死体がたくさん。蜥蜴ぽいのとか、人型の死霊みたいなのとか、そんなのが多い。この迷宮の主が人龍の私だから、らしい。私がコアの水晶球に触れた時点ではまだ生成途中だったのかな? まあいいや。


 兎も角、能力値の示す通り私の戦闘力は相当高い。その上、本能がどう体を動かせばいいかを教えてくれる。


 その本能のおかげで、魔力の使い方も分かった。魔力で身体を強化すれば面白いくらいに早く、強く動ける。


 魔法も使えた。原理はイマイチ分からないから検証が必要だけれど。

 今分かっているのは、イメージが具現化するって事と、規模が大きくイメージが曖昧なほど消費魔力が大きくなること。私の魔力量なら大抵は問題ないけれど。


 ぶっちゃけ、チートです。龍なら当然? まあいいや。


「この槍もチートクラスなんだろうなぁ……」


 なんて独り言を言いながら片手で素振りしたのは、私の背丈を超えるほどの大槍。馬上槍って種類になるのかな。刃の部分が大きな剣状になっているから、薙刀に近いかもしれない。それか戦斧。和の雰囲気が強いから薙刀かな。

 刃部分だけで私の胴より少し大きいくらいだから中々厳つい、筈なんだけれど、水の流れるような文様とか、白銀で纏められた色合いとか、美麗さが上回っている。


「龍器、か。龍って本当に何でもありね」


 この槍は龍の権能で魂の一部を武器にしたもの、って本能で理解した。原理は知らないけれど、出し入れ自由。そういうものみたい。某神社関係だからか、和装にも映える。

 と言うのも、さすがに普段着に合わせるのは気が引けたから、今は部屋着用に持っていた白い着流しに尻尾用の穴を開けて着ているから。


 全身白一色ね。瞳だけ黒。spが稼げそうなら、丈夫で動きやすい黒い着物を探してみてもいいかもしれない。尻尾が出せるやつ。


「まあいいや。始めましょ」


 深呼吸を一つしてから、配信ボタンを押し、配信開始する。

 配信ボタンは配信中を示す赤い丸に変わり、もう一度押すと配信停止と設定の二つの文字が現れた。


 ざっと見て、カメラの位置を後方のやや上、三人称視点に変更。一定速度以上は追従しない。

 視聴人数とコメントを視界右上に表示させる。読み上げ機能もあったけど、邪魔だろうからオフ。

 かつての配信サイトを思い出す仕様ね。


 ターゲット層は、先行者利益で特に考えなくて良い。強いて言えば将来的に迷宮攻略を考える人。それから娯楽に飢えた人。

 ローマ帝国時代のパンとサーカスで言う、サーカスのような立ち位置で考える。政治云々はないから、ちょっと違うけれど。いや、デパートなんかの各集団内では政治的な何かはあるのかな。

 余談だけれど、世界変容時点で各々が帰属意識を持った国に転移させられたらしいから、今この国にいるのは日本に帰属意識のある人ばかりだ。祖国でない国に取り残されなくて良かったんじゃない? まあ今は関係ない話。


 さて、視聴者数は……。わお、万単位。これは機能開放は関係ないな。

 コメントもすごい勢いで流れていく。知力がSになったお陰か問題なく処理で来ているけど。


 大体が『なんだこれ』とか、そんな感じの反応。あとは『白いな』『尻尾? 角?』『龍みたい』みたいな私の容姿とか、周囲の惨状とかに関するコメントかな。

 この容姿を利用しない手は無いから、少し振り返って顔を見せておく。ついでにカメラがあるか確認。何も無し。


 『うわ、めっちゃ美人』

 『可愛い!』

 『そうか?』


 うん。おおむね反応よし。

 

 ちなみに匿名みたい。ユーザーネームが設定できるのね。

 私してないんだけど? と思ったら出てきた。んー、ハクリュウ、パイロン……。


 ハロでいいか。地元に因んで、八雲ハロで。


 『ハロさんリスト登録しました!』

 『リスト登録なにそれ』

 『私もしました!』

 

 へー、リストに登録。チャンネル登録的なやつかな。

 互いのコメントは見られるようにしたから、情報交換を始める人もそのうち出るかもしれない。私も情報を知れるし、どんどんしてほしい。


 肝心のspは、今の所変化なし。まだ条件を満たしていないのか、配信終了時点で清算なのか。


 まあいいや。とりあえず挨拶して始めよう。

 世界初の迷宮配信、スタートだ。


「ハロハロ、八雲ハロだよ。私も色々分かってないけど、のんびりしてって」


 こんな感じかな。

 じゃあ攻略開始だね。

 

 本来なら支配者を襲う事がない迷宮の魔物たちだけど、今は襲うように設定している。今後を考えたら、この迷宮で配信するのは今回だけかな。自分の家の防犯機能を対処法付きで拡散するのは馬鹿らしい。


 『うわ、見てる人数多いな』

 『マジだまだ増えてる』

 『どうやって配信してんだこれ。俺もしたい』

 『歩いてるだけじゃんもういいや』


 周囲を警戒しながら洞窟内を進む最中にも、視聴人数は増えていく。減ってもいるんだろうけれど、増える方が多い。機能開放という形で強制的に全員に知らされて、見る対象が私しかいない。先行者利益万歳だ。


 と、上からコモドドラゴンみたいな蜥蜴が降ってきた。半歩右に避けて、首を切り落とす。spゲット。

 この能力値だと本当にゲーム感覚ね、これ。


 『スプラッタじゃんキモ』

 『これモザイク処理とか出来ないの』

 『ダメな人はダメだろうなこれ』

 『てかこんなアッサリ切れるもんなの?』

 

 あ、ごっそり視聴者が減った。スプラッタがダメな人たちか。日本人だと多そう。


 んー、階段はこっちだったかな。

 私の迷宮だと次の階層には階段を経由するけど、他だとどうなのかな?


 『ハロさんは種族変更にspを使ったんですか?』


 おっと、質問だ。敬語だし、ちゃんと拾おう。横柄なのはスルー。


「種族変更にspを使ったんですか、ね。使ってないよ。あ、ここで情報交換とか議論は歓迎。自由にしちゃって」


 お、良い設定発見。


「議論用スレッドを作れるみたいだから、一旦全員可にしておくね。変なのは発見しだい消去するから」


 『神』

 『たすかる』

 『何これ めちゃ便利じゃんか』


 うわ、一気にできた。同じ奴は纏められないかなーって、出来た。便利すぎ。

 これならモデレーターみたいな協働管理者が居なくてもどうにかなるか。


 でも戦いながらは大変。ちょっと考えなきゃかなぁ。

 でもそれだと要らない人間関係が……。


 うん、しばらくは気合いだね。知力Sのスペックをフル活用しよう。


 あ、また質問。


 『槍の扱い上手いですね。どこかで学んだことあるんですか?』


「武器の扱いは、昔ちょっとだけね。でも、今のこれは殆ど種族としての本能だよ」


 なんか、久しぶりに人と話してる感じがする。要らない人間関係が出来ないなら、話すのは嫌いじゃないんだよなぁ。


 『本能か。これは種族変更するときちゃんと考えた方が良さそうだな』

 『なにそれズリー』

 『チートじゃん』

 『種族についてのスレッドたてました。』

 『俺だってあれくらいできる』


 セクハラとか荒らしコメントもあるけれど、まあ匿名でイキってるようなのは無視。どうせ直ぐ流れていくし。


「綺麗で羨ましい? ありがと。でもこれ、種族変わってこうなった部分も少なくないんだよね。ん、別に褒められ慣れては無いよ」


 これで種族変更に踏み切る人が増えて情報が集まれば万々歳。


 なんて話ながらも槍で斬って、足で蹴り、尻尾で殴る。うん、楽勝楽勝。

 そうだ、魔法の情報も出しておこう。みんな私の為に検証しておくれ。


 そんなこんなで初配信終了。

 四時間ほどかけて五階層潜った時点で切り上げた。迷うフリはしたものの、階段の位置知っていてもこれだけ時間がかかったのだ。普通に潜るのはもっと大変だろうな。


 今回迷宮や配信機能の存在を広めることが出来たし、魔法なんかと合わせてどんどん情報が集まるだろう。秘匿する人も当然いるだろうけれど、それならそれでいい。私も隠している事は色々あるし。


「じゃあ、spの確認といこうかな」


 配信リザルトは、っと。


「はえ? 七十二万……?」


 いや、待って。もう一回数え、いや、コンマの位置的に間違ってない。嘘でしょ?


 あ、なんかヘルプが。

 配信可能者の人数により獲得魂力値が百分の一になっている?


 え、つまり本当だったら七千万くらいだったって事?

 これどういう計算?


 えっと、累計視聴時間が約七百二十万分、総視聴者数四千万、コメント数が三億と少し。

 累計視聴時間一分につき十spってところね。端数が少しずれてるから、他にも影響する要素があるんでしょうけど、目安としてはそんなもの。


 え、めちゃくちゃ美味しい。

 配信だけで生きていける。つまり、引き籠り隠遁生活でまったく問題ない?


「よし、お祝いしよう」


 んー、何がいいかな。

 気分としては、お魚かな。地元が日本海側で美味しいお魚が簡単に食べられるのと、元々体質の関係ですぐ胃もたれするのとでお肉よりお魚の方が好きだったの。まあ、お肉も好きではあるけど。


 あ、お寿司。これにしよう。

 甘めの出汁醤油と小皿を交換して、山葵もいいやつ。うわ、これだけで千ポイント近くなくなった。けど問題なし!


 まずは、鯛の握り。


「ん―! 美味しい!」


 あっさりしているようで甘みもしっかりとある。シャリもネタの味を邪魔せず引き立てるいい塩梅。さすが一貫八百ポイント。

 次は、金目。それからノドグロの炙り! 両方握りで。


 金目は鯛と同じくわさび醤油。鯛より少しこってりしているけれど、これはこれで美味しい。

 ノドグロは、塩かな。角の丸いお塩を追加で交換して、付けて食べる。


「これよこれ。最高!」


 実はノドグロの炙りが一番好き。けっこう脂がのっているお魚だけど、炙る事でいい塩梅の脂の量になる。その濃厚で甘い脂をお塩が更に甘くするの。本当に最高。


 ノドグロの炙りを追加でいくつか交換して、中トロも行こう。あ、今なら大トロも美味しく食べられるのでは?

 試さないと!


「ん、日本酒か……」


 前は一人ではお酒は飲まなかったけれど、今はなんだか、無性に気になる。


「よしいこう!」


 選ぶのは地元で産出される良質な鋼の名を関した一本。純米大吟醸。うわ、四合で二万ポイント。まあ、いっか。いっちゃえ!


 フルーティで甘めの、しっかりとした味。お魚に合う。

 うん、大トロも大丈夫そう。

 天ぷらも行きたくなるね。舞茸、ナス、かぼちゃ、獅子唐……。こんな所?


「ほぅ……。生きててよかった……」


 明日もこれで頑張れる……。


 けっきょく、お腹一杯になる頃には二瓶が空になっていた。人龍という種族になって胃袋の容量もアルコールの容量も大幅に増えたみたい。二十万spくらい使っていたけれど、後悔は無い。


 部屋の拡張もした。風呂トイレ別に出来て寝室も別で作れた。リビングの快適度も上がって、読書環境が向上。もうソファで数日位だらだらしたくなるような仕上がりだ。パステルブルー基調で落ち着くし。

 本も追加で交換したら残り十万spを切ったけれど、やはり後悔は無い。

 

 そうね、明日は、他の迷宮を探そう。近くにそれっぽいものがあるって情報があったし。

 新しい迷宮では本格的な迷宮攻略になる。今回みたいななんちゃってではないやつ。


 うん、楽しみ。

 

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