第11話 新しい魔道具の製作2

 魔道コンロを世に出してふた月が過ぎていくと、次の成長の季節に入る。日本で言うところの夏の到来だ。


 魔道コンロは発明権を登録したうえで、その図面を商業ギルドに一般公開した。

 一般公開すれば、商品が1台売れるたびに発明権料が商業ギルドカードの中に自動的に入る。


 魔道コンロの発明権料は利益の50%だ。例えば5万円の商品の利益が仮に2万円とすれば、1台売れるたびに発明権料として1万円が入る。


 俺は、マルコさんとガレットさんと俺とで発明権料を3分割しようと提案したのだけれど、「発明者はアル君だから」と二人に頑なに拒否された。


 話し合いの結果、マルコさんには今後も魔石を工面してもらう事、ガレットさんにも今後も開発に携わってもらう事を引き合いに出し、それぞれ発明権料の2割をもらって頂くことで了解を得た。


 発明権料が1万円とすれば、俺が6千円、二人は各々2千円で落ち着いた形だ。


 ちなみに、ここで言う利益とは卸価格から仕入れ価格を引いた粗利益だ。


 生産者の儲けはその利益の中から発明権料、商業ギルド手数料、10%の税金を除いたものとなる。

 今回の魔道コンロの場合は、利益の30%ほどが生産者の儲けであり、俺の収入とほぼ同じとなる。


 そして季節が移り、新しく開発しているものが魔道冷蔵庫だ。


 上の子のティナちゃんの誕生日の後にも、何度か魔道コンロを使ってプリンを作った。

 火加減はバッチリ。カラメル作りも成功したのだが、余分に作ったプリンを3日後に食べようとしたリサちゃんが、「これ、なんか臭うよ~」と言って、俺のところに持ってきてくれたのだった。


 この時期、この世界でも食中毒が流行ることがある。


(よく食べる前に持って来てくれたね、リサちゃん。)


 という訳で、冷蔵庫の設計である。

 地球の冷蔵庫の原理は、触媒を使って冷熱を分離させる……だったか? しかしこの世界では、魔力を使った別の方法が可能だと思う。


 火魔法の原理は、物質の熱運動に魔力を干渉・・させること。

 熱運動を活発にすることで発熱や発火が起こるし、逆に熱運動を低下させることで冷却となる。

 魔術師が発現する氷魔法は、水を火魔法により冷却して氷を作る。その方法を、魔道具の中の魔法陣に組み込めば可能だと思ったのだ。


「マルコさん、氷魔法が使える魔術師の方で、マルコさんの知り合いの方はいらっしゃいませんか?」


 孤児院に体術を教えに来てくれていた冒険者は、剣術士や槍術士だったので、氷魔法のできる魔術師の知り合いはいない。


「そうだねえ。いることはいるけど、いったい何の用なんだい?」

「魔術師の方が魔法を発現する時、魔法陣が出現するじゃないですか。その魔法陣を魔道具に組み込むための参考にしたいんですよ」


「ふふ、言いたい事は良く分かるけど、魔法を発現させるときの魔法陣は空中に一瞬しか出現しないんだよ。これまでもアル君と同じような事を考えた人はいるけれど、すぐに消えてしまう魔法陣を、全部書き写せた人はいないんだ」


 やはりそうか、魔術師が発する魔法陣を解析すれば魔道具にも利用できることが分かっていたんだ。しかし魔法発現の魔法陣はすぐに消えてしまうから、これまでは難しかったと。

 MR装置にはカメラ機能があるから、俺は解析が可能だと考えていた。


「そこはほら、やってみないと分からないじゃないですか」

「無理だと思うけど、アル君の事だからね…… 一度試してみるかい?」



 次の日、冒険者ギルドに登録している、魔術師のリアナさんという人が訪ねてきた。昨日のうちにマルコさんが冒険者ギルドに“指名依頼”という形で依頼を出してくれていたのだ。


「マルコさんおはようございまーす、リアナでーす」


「リアナちゃん、早速来てくれたんだ、ありがとねぇ。この子はうちで魔道具屋の手伝いをしてくれている、奉公人のアル君。こちらは冒険者のリアナちゃん。魔術師として優秀でね、火魔法と氷魔法、そして水魔法の使い手だよ」


「こんにちは、初めまして。今日は宜しくお願いします」


「あら、可愛いわねえ。えーっと、アル君って言ったっけ。君、何歳?」

「今年で11歳になりました」

「そっかそっかー、成人まであと4年かぁ。待てない事もないかな、うふふ?」


(可愛いって言われて悪い気はしないけど、11歳にもなった俺は素直に喜べないな。逆にお姉さんの方を褒めておこう)


「あの、お姉さんこそ、とても可愛いと思います」

「……やだー、この子ったら」


(引かれてしまった)



 街の中では問題があるので、魔法を使うには街の外に出なければならない。

 門番の人にギルドカードを見せて外に出た後、俺たちは適当な広場を探した。


「それで、どのくらいの大きさの氷を作ればいいのかな?」

「そうですね、このくらいの大きさの氷を10個くらい作り出して欲しいです」


 知識の中にある、家庭用の冷蔵庫で作る角氷の大きさを想像した。


「そんな小さくていいの? それくらいは簡単よ! 早速いくわよ!」


 いつもは、もっと大きな氷塊を作って敵にダメージを与えているらしい。


―― 録画開始 ――


 俺は思念コマンドにより動画での記録を開始した。


「我が手に宿りし氷の精霊よ。形を成して氷塊を出現させよ アイシクル」


 前方に向けた掌の先に深緑色の魔法陣が発現する。そして、こぶし大ほどの氷の塊が冷気と共に出現した。


―― 録画終了 ――


「あんま、小さいのはやったことないから、ちょっと大きかったかな~。どうだった?」


 あまりにも小さい氷は、逆に魔力の調整が難しくなるそうだ。


「ばっちりです。手で隠れていた部分があるので、もう一回いいですか? 今度はこちらから見ますので」


 気前よくもう一度やってくれたリアナさんは、他の魔法もやらなくていいのか聞いてきた。後はたしか、火魔法と水魔法だったか。


「では、お願いしてもいいですか?」

「勿論よぉー! こんだけで終わったら、報酬もらっていいのか悩んじゃうわよ」


 この後、火魔法ではファイアボールとフレイムバースト、水魔法ではウォーターとウォーターシールド及びミスト、氷魔法でアイスストームを追加でやってもらった。お蔭でかなりの画像をストックすることができた!


「アル君って魔術師を目指したいの? とても真剣に魔法陣が出るところを見てたけど、君は魔力を持ってるのかな?」

「魔力の検査は1年ほど前にやりましたが、魔力持ちではなかったですね。でもリアナさんが発現させた魔法陣を解析したら、魔道具にも応用できるんじゃないかって思っているんです」

「えっ? でも、魔法陣ってすぐに消えるじゃない? 覚えられるの?」

「アル君はね、今魔道具屋で人気商品になっている”魔道コンロ”の発案者なんだよ。アル君ならもしかして、やってくれるんじゃないかって思っているよ」


 マルコさんがリアナさんに魔道コンロの事を話してくれた。


「えーーー? 魔道コンロをこの子が作ったの? 私あれ欲しいから今注文してるわよ!」


 リアナさんはひどく驚いている。ガレットさんはケース作りがなかなか追い付かず、うれしい悲鳴を上げているそうだ。今は1カ月待ちらしい。


「魔道冷蔵庫とやらが出来たら、真っ先に教えてねー。絶対に一番に注文するからねー」


 マルコさんから依頼達成のサインをもらったリアナさんは、そう言って帰って行った。

 早速俺は部屋に戻って、今日蓄積したアイシクルをはじめとした様々な魔法陣の解析を開始するのだった。


 結論から言うと、氷魔法の解析は全て問題なくできた。

 火魔法は熱運動への魔力干渉、水魔法は化学変化への魔力干渉、氷魔法は火魔法と水魔法の応用形という結果だ。


 これらの解析済みのプログラムはライブラリ化して保存する事によって、今後はいつでも呼び出せる。

 いろんな魔法のソースコードを見ていると、次は何を作ろうかといろんな構想が浮かんでくるのだ。

 そうやってプログラムをいじっていたら、気付いた時には朝になっていた。

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