第8話 魔道具の修理
マルコさんの魔道具店にお世話になって半年が過ぎた。
俺は店内にあった魔道具や修理を依頼された魔道具を片っ端から解析した。
そして、すべての魔法陣のプログラム化と改変ができることを確認できた。
発熱の仕組み、発火の仕組み、発光の仕組み、これらの原理は全て同じだった。
物体の熱運動に魔力を干渉させることで、エネルギーを高くしたり低くしたりすることができるのだ。
発熱を更に温度を高くしていくと炭化水素と酸素が反応して発火となり、その時に酸素を遮断すると発光となる。
昔エジソンが発明した、白熱電球のようなものだ。
日本で学んだ物理や化学の知識を重ねると、魔力の作用は地球の物理法則によく似ていることが分かってきた。
魔力を電気に置き換えると、同じような現象が起こるっているのだ。
この世界の魔術師が魔法として発現させられる要素は、火魔法、水魔法、雷魔法、風魔法、土魔法、召喚魔法が基本要素となる。
これらがすべてプログラムで記述が可能だとしたら、ちょっとヤバいかもしれない。
(これから出来そうなことを考えると、ワクワク感が半端ないな)
ちなみに、光魔法は応用魔法の一つで、火魔法と水魔法の応用と雷魔法と風魔法の応用の2通りがある。
治癒魔法や身体強化などの魔法は、複数の基本要素の応用魔法なのだ。
故障した魔道具を修理するのは魔道具屋の仕事だ。
隣でマルコさんの修理の様子を見ながら、魔道具の仕組みをひと通り学んできた俺は、魔道具の修理をやらせて欲しいと頼んでみた。
「マルコさん、魔道具の構造はだいぶ解ってきたので、何かひとつ修理をやらせてもらう事出来ないですか?」
「えぇ? アル君、もう魔道具の修理とか出来そうなの? 魔道具の修理が行えるようになるためには、王都にある魔道学園でいろんな知識を身につけないと普通は無理なんだよ?」
マルコさんは目を丸くして驚いている。
中に組み込まれている魔法陣を理解するには、王都にある魔道学院で専門知識を学ばなければならないらしい。
解析してプログラム化したなんて事は、内緒にしなければ後々厄介そうだ。
「この半年間、マルコさんの修理を傍でずっと見てきました。どこをどう直したらいいのか、魔法陣の意味や修正箇所もある程度は理解したつもりです」
「凄いねアル君、もうそんな事が解ってしまうなんて! じゃあ、隣で見ているから、試しにこれを修理して貰えるかな」
俺は予めMR装置を髪の毛に擬態した同化モードで装着していた。
MR装置を頭に装着していていても、髪の毛にしか見えない液晶同化モードが知識の中にあったのだ。
そして、解析とコード変換などの簡単な操作指示は、音声認識ではなく脳波入力でもできることが確認できた。
無言で解析の指示などが可能だ。
渡された魔道具は、発火の魔道具だ。炊事や湯沸かし等で薪コンロに火をつける時に用いる。
中央にあるボタンを押してみたが、先端からは小さな煙しか出てこない。
留め具を外して、丸められた強化紙を引き出すと、魔道回路と魔法陣が姿を現した。
―― アルゴリズム解析、コード展開 ――
『解析とコード展開が終了しました』
頭の中で思念するとコマンドを受けて解析が始まった。
すぐに結果が仮想空間上に表示される。
―― キーボード オン ――
魔法陣の一部が薄くなって欠けているが、その部分がプログラムのエラー部分として赤く表示されている。
仮想空間でのキーボードで俺がその部分を修正し、矛盾点を解消すればよいのだ。
―――― 魔法陣コード変換 ――――
修正したプログラムを元の魔法陣へ変換すると、消えた部分が補完された完全な魔法陣が表示される。
あとはルメリウムの樹液を筆に含ませて、欠けた部分を修正したら完成だ。
「魔法陣のこの部分が消えていましたので修正しました」
終了したことを伝えると、マルコさんは横で呆気にとられていた。
「……いやー、ビックリだアル君! 完璧だよー……すごいなー!」
強化紙を再度丸めて、留め具を元に戻しすと完成だ。俺は先ほどと同じようにボタンを押して修理が出来たかどうかを確認してみる。
日本の知識の中にある、使い捨てのライターと同じくらいの炎が先端部分に出現した。
「よし、大丈夫だな」
こうして、記念すべき1台目の魔道具修理は成功した。
◇◆◇
今日、アル君が魔道具の修理をさせて欲しいと言ってきた。
彼がうちに来てから半年間、私が魔道具の修理をしているといつも真剣な眼差しでその過程をじっと見ていた。
しかしだ、いくら賢いアル君でも魔法陣の修復は専門の教育を受けたものでないと無理だ。
「えぇ? アル君、もう魔道具の修理とか出来そうなの? 魔道具の修理が行えるようになるためには、王都にある魔道学園でいろんな知識を身につけないと普通は無理なんだよ?」
でも彼は、この半年間で魔法陣の意味や修正箇所が、ある程度は解ってきたと言ってきた。
「すごいねアル君、もうそんなことが解ってしまうなんて! じゃあ、隣で見ているから、試しにこれの修理をやって貰えるかな」
魔法陣を素人が修理しようとして、もし間違った魔法陣に書き換えてしまった場合、その魔道具は全く働かないどころか、場合によっては危険な事だってある。
私は彼が間違った時点でそれを指摘しようと思い、隣で見ているからとやってみるように言ったのだが……
彼は慣れた手つきで留め具を外し、中から魔法陣を引き出した。やはり部分的に魔法陣が消えた状態になっているようだ。
少しの間じっと魔法陣を見ていた彼だったが、なぜか両手の指をピクピクと動かし始めたのだ。
何をやっているのだろうか、多分理解が出来ないだろうから焦っているのだろう。
私はもう少し見守ることにした。
暫くその状態を続けているかと思ったら、彼はおもむろに筆を持ってルメリウムの樹液に筆を浸けている。
ルメリウムの樹液は黄金色をしており、魔法陣の修復に用いられる材料だ。
ルメリウムの木は魔力を通す。その樹液も魔力をよく通すので、その性質によって魔法陣の描画、修正にも用いられるものだ。
この辺は私の修理の手順をいつも見ているから、一度やってみたかったのだろう。
そう思って見ていると、何と彼が書き込んでいる欠けた部分の魔法陣は、完璧なまでに正確に復元されたものだった。
(何という事だ!)
「魔法陣のこの部分が消えていましたので修正しました」
(魔道学園で専門の教育を受けていない彼が、いや僅か10歳の少年が、魔道具の複雑な魔法陣を理解しているなんて!)
私は呆気にとられてしまった。それもたった半年間で理解したなんて! 彼は天才なのかもしれない。
「よし、大丈夫だな」
その後も、私がいつもしているようにちゃんと炎が出るか確認をしていた。
私の仕事が彼に取られてしまうのではないか、という危機感が私の中を
まぐれではないかと思い、その後も何台かの修理をさせてみた。がしかし、すべての修理品が完璧に修理出来ている。
やはり魔法陣の理解は完璧のようだ。
そうでなければ、修理なんて出来る筈がないのだから。
(しかし、あの毎回やっているピクピクとした指の動きは何なのだろう? いつか聞いてみたい)
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