第34話 元社畜は万事に後回しにされる
結局、その日の更新は出来ませんでした。
以前は、役場の探索者支援室なる部署で新規登録やら更新やらをやっていたんですが、なんと去年から都道府県に一ヶ所ずつの探索者免許交付所で更新をするようになったとかでそちらに出向かなければならなくなったのでした。
国家財政の困窮に伴う合理化策の一環なんだそうです。
だったらその場で出来るみたいな風に話をしなくてもいいじゃないかと思いませんか?
『データはそのまま引き継ぐつもりだったからすぐに出来ると思っていた。
機材がここにないんだからまた明日来てくれ』
それから既に三日が経っています。気のいい僕たちは政府の犬の舌先三寸に騙されてバカを見ているのです!
そして今、僕はダンジョン本庁こと異界探索統括庁の探索者支援本部の前に立っています。
本部と言っても雑居ビルの一角にひっそりと置かれている分室みたいなものですが。
今、僕の肩には、グリフォンが従魔の証である青いメダルを首から下げてとまっています。物珍しそうに周囲をキョロキョロ見回していますけど、みっともないから大人しくしていて欲しいんですが。
そして僕の
別に頼んだ訳でも無いんですが、仕事を辞めて暇だからとくっ付いてきました。
まぁ、見ずぼらしいおっさん一人で抗議に行くより見目麗しい女性がいた方が場が華やいで箔が付くかも知れませんね。
それから彼女は人脈を使ってテレビ局のカメラマンやアナウンサー、その他にもインフルなんとかという方々を大勢引き連れてきました。
プロの報道関係者はともかくインフルさんたちとは、僕がSNSには詳しくないんで絃紫さんに聞いたところによると“湯つべ”とか“ちくたく”とか“いんすたんとらむ”とかの配信をしている素人さんたちでやたらマナーが悪くその辺の物を色々壊してはゴミ箱に突っ込んだり大声で騒いだりと一緒にいるのが苦痛になるんですが。
ただ、報道関係者もあまり大してマナーがいいとは思えませんでしたが。
玄関先でそんな集団がガヤガヤと騒いでいるのに気付いて職員が顔を出します。
幸か不幸か、先日の男性職員でした。
彼は一瞬顔を曇らせた後、何食わぬ顔で僕たちの方へ出てきます。
「これはこれは『初めての探索者』さんに『氷結の戦乙女』さんじゃありませんか。
こんな
物々しい方たちを引き連れてどうされました?」
知らぬ存じぬを突き通す
ただ、言っておきますが僕のは称号で彼女のは二つ名です。
ですから同列に並べられると違和感しかないんですよ。
「先日の約束はどうなったかと確認に来ました!」
あちゃあ・・・絃紫さんたら先走っちゃって・・・こんなのっていきなり本題に入っても真面に取り合ってくれないってもんでしょ?
「おやおや、いきなりまるで犯人扱いでびっくりしますね。
『初めての探索者』さんも同じご用件でしょうか?
もしそうでしたら異界探索統括庁の総合スキーム管理機構に行かれる事をお勧めしますよ。
なんせ、話を持ち帰った途端に研究がどうのと言って管理機構が持っていっちゃいましたからね。『トンビに油揚げ』ってヤツですよ。ハッハッハッ!」
やっぱりたらい回しにする気満々ですか。
「そうですか、ではそのナントカ管理機構のどなたを訪ねて行けばいいんでしょうか?ついでに所在地もお教えいただけば助かりますが」
「雅楽さん!そんな
絃紫さんはグリフォンが大のお気に入りのようで盛んに体調を気にしてくれていますが、グリフォンからは嫌われてますよね?
職員氏は面倒な話から逸れてくれる事を期待してか、グリフォンの方を覗き込もうとしています。
〖フリュリュリュリュリュ!!〗
グリフォンはウザいのが増える事を嫌がっているのでしょうか警戒音を発して威嚇しています。
「食い千切られたくなければ手出ししないように心掛けてください」
「そ、それは!私を脅迫しようと言うのですか!!
そんな脅しに屈するぐらいならいっその事食い殺させて見せればいい!」
突然の大声に絃紫さんが眉を顰めて僕に確認をしてきます。
「何もやってないのにコイツなんか変なものでも食ったんでしょうか?」
「
お察しの通り猿芝居で僕たちをこの件から遠ざけようとしているのでしょうね」
テイムドモンスターが人間に危害を加えると主人であるテイマーに傷害罪やら殺人罪やらが付いてきます。その予防として注意を喚起した言葉を彼は逆に利用しようとしている訳です。ましてやグリフォンなんて貴重な個体を生きたまま観察できるチャンスを逃すとも思えませんよね。
俗に言う『はめられた』です。
誰が?
①登録用の機械の開発業者辺りか②鬼ババア関係者かもしかしたら③関原部長様のラインも忘れてはいけませんね。
何の為に?
①対応する時間を確保したい?でも探索の初期の事を思えばダンジョンが関係者の頭がぶち壊れる位情報を流し込んで作らせているだろうし・・・新たな儲け話の邪魔に思われたんでしょうか?
②逆恨みとか有り得そうですけどそんなに力を持っているのかギモンですよね。
③私怨を公の場に持ち出してもなんとも思っていない事は会社勤めの時に散々思い知らされましたから無いとは言えないんですが。
「取りあえず話の大本に辿り着きませんとね。
誰が黒幕かなんて野暮な事は聞きませんよ、貴方方の大好きな守秘義務ですもの。
面倒でも出ていってやろうと言っているんです、管理機構の場所と担当者の名前は?」
「悪者扱いされてまで親切にしようとは思いませんね、と、言いたいところですがここで粘られてもこちらの業務に支障がきたしでもしたら私の評価が下がってしまいますね・・・ほれ、この住所に行けば判るんじゃありませんか?では」
メモ紙を床に投げ捨て鼻で笑いながら職員氏は帰って行く。
全く近頃の若い者は・・・年寄りの愚痴は聞かれてもいい事はありませんから黙って次へ向かう事にしましょう。比較の問題で僕は熟年ですから!
グリフォンや、その紙を拾ってくれないかい?・・・拒否をするとは僕を舐めてますね?
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