第20話 元社畜は行事から逃げられない
耳からではなく直接脳に響いてくる『声』に僕はいささかパニックになったみたいだ。
【ごめんなさい。
あわてないで。
にげちゃやだよ】
沈着冷静とは程遠い僕の慌てぶりに謎の声も慌てています。
【あのときみたいににげないで】
「あの時?」
目の前の光がゆっくりと暗くなり僕の眼も慣れてくると赤暗色の卵状の物が宙に浮かんでいるのが見えてきます。しかしあの時とか言われても何の事だか・・・
【はじめて『ぬまのダンジョン』にきてくれたとき『みずたま』をふんでそのままかえっちゃったから・・・そのあともなんかいかきてくれたけど一人になってくれなかったから・・・きらわれてるとおもったの・・・だからにげちゃったんだって】
「びっくりしてすぐに帰った事は認めますよ。逃げた事も否定しませんし。
でも僕は他のみんなと違って力も無ければ技量もありませんし魔力だって人並み以下です。そんなヤツが一人でノコノコダンジョンにやってくるなんて自殺願望でも無ければ有り得ない事でしょ?」
どうやらコイツはダンジョンの総意、でなければ一つの意思がいくつものダンジョンを経営しているのかも知れませんね。少なくとも図書館ダンジョンと
【でも・・・でもいちばんはじめにきてくれたときになんにもしてあげれなかったんだもん】
「別に何かして欲しかった訳じゃありませんでしたし、気にしなくていいのに」
そう言いながらさり気なく出口へ向かおうとする僕の目の前に空飛ぶ卵が回り込んできます。
【じゃあなぜにげるの?】
「逃げてなんかいませんよ?」
【でもかえろうとしてるでしょ?】
勘付かれてしまいました・・・さり気なさが足りなかったかな?
「ダンジョンに来る約束は果たしたからもういいでしょ?」
【でもまだごほうびをあげてないもの】
そんなものはいりませんから早く帰して・・・そう言いたかったですけどそれを言っちゃいけない気がします。
「次来るのはいつになるか保証はできないからお任せするよ」
【♪~じゃあじゃあなにがほしいの?】
抽象的すぎます!何がどこまでできるかわからないのにどう答えればいいのよ!
「とりあえずは拾えるもの拾って換金して帰りたい、かな?」
【・・・そんなこときいてないのに・・・】
じゃあどうしろって言うのよ?
「今更モテたいとか思いませんしね・・・でも孤独死は嫌ですねぇ」
【みりょくをあげるとかでいいの?】
「だから思わないって言ってるでしょ?・・・あげれるの?」
【うん♪ いっくらでもあげれるよ♪】
何が嬉しいのか卵は上下に揺れながら一際明暗を繰り返します。もしかして魅力を上げるとか言いだすんじゃないでしょうね?
「上げなくてもいいですからね?僕は無事にここを出たいだけですから」
【ぶ~>< やっときてくれたのにもうかえるなんていっちゃヤダ!】
お子様か?
【じゃあじゃあ♪名前をあげる🎶】
「名前?ちゃんと自分の名前ならありますよ」
【カッコいいなまえをあげるの(^^♪】
もしかして称号の事でしょうか?“最初の探索者”を貰ってるからもういりませんってば!
「人目を
【『勇者』とかどうかな?まだだれもなのってないからあいてるよ?
それから『賢者』とか『聖女』とか、えとえとそれから『剣聖』・・・これはつかわれちゃってるんだ。
それじゃあ『魔王』とかはどうかな?つよそうでカッコいいでしょ🎶】
僕の話聞いてないでしょ。
それ、どこのRPGの設定ですか。実力も伴って無いのにそんな大層なもんいただける訳無いでしょ?
「魔王だと全世界の敵になって討伐されなきゃならなくなるから却下でね。
それに勇者とかは僕の見た目にそぐわなすぎるし賢者は・・・嫌味を感じるし聖女とかは男がなっていいもんじゃないでしょ?」
【じゃ『剣聖』だね!あっこれはしよーちゅーだったんだ・・・それじゃ『拳聖』かな?えーと『宮廷魔術師』とか『獅子王』とかもあるんだよ?】
僕のステータスを見てから言ってくれませんか?腕力も魔力もスキルも何も無いですし
「気持ちは有り難いけど僕に不似合いなものばかりですよ・・・もっと平凡なものありませんか?」
【『最初の探索者』はとくべつなんだよ?
だからとくべつななまえをあげないとダメなの!
じゃあ『始原の覇者』にしよ!うん、カッコいいじゃん♬
おまけにずっとこなかったぶんをおまけしてわかがえっちゃお、ね♬】
ちょっと待て!勝手に何決めてるんですか!
パニくる僕を無視して勝手に決めたダンジョンのヤツに文句を言おうとした時、例の卵が激しく明滅を始め僕は意識を失ってしまったんです。
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