元社畜、ダンジョンと友となる
第18話 元社畜は工事を妨害してる
勢いで会社を辞めて僕は途方に暮れています。明日からどうしましょう。
いつまでも夢の中でダンジョンからせっつかれたくはないのでどこかのダンジョンに潜る事はいいとして生計をどうやって立てていくのか。
いきなりダンジョンで拾ってきたものを換金出来たとしてそれだけで生活が果たして出来るでしょうか。
比較的安全な
そもそもどのダンジョンが僕を呼んでいるのか、それともダンジョンの総意で僕を呼んでいるのかさえ不明だったりします。
自室のあるボロアパートで一人悶々と悩んでいるとブザーがせわしなく鳴り来客を告げてきます。今時チャイムじゃないのはこの建物が50年以上前からある老朽建築物だからです。
応対に出てみると久しぶりに顔を見る大家とスーツ姿の男性が立っています。
「これは大家さん、お久しぶりです。何事でしょうか?」
「よかった、やっと捕まったわ」
「お休みのところ失礼を致します。
初めまして、わたくしこのような者でございます」
今時珍しい髪を七三にかっちりと固めた黒縁メガネの男が差し出す名刺には、とある不動産会社の名前が書かれている。
「ご立派な会社の方ですね(あなたが立派だと言っている訳ではありませんよ)、それでご用件は?」
「実はこの周辺一帯が統合的再開発の対象地域に指定されましてご転居の依頼にお伺いしました次第でして」
地上げかい・・・バブルの頃でも取り残されてたのにこんな不便なトコを今更どうしようっていうんでしょう。
「このアパートも
いつの間にか詰んでるじゃありませんか。最近静かだな、とは思ってはいたんですけどまさかもう誰も住んでいないとは。
仕事にかまけて会社に週3で寝泊まりとかしたりしてましたからまさか自宅がそうなっているなんて思ってもいませんでしたよ。
その仕事ももう無くなった訳ですけど家も無くなるっていうですか?
いっそダンジョンの上層にでも住み着くしかないのでしょうか。もはや首でも
「急に言われましても引っ越し先の目途とか無いのに・・・」
「それでしたら弊社が責任をもってお住いの案内をさせて頂きますのでご心配なく」
その言葉を額面通りに受け取れるほどはさすがに僕も素直な人間じゃありませんよ。
こんな安アパートに住み着いている人間にどんな物件を用意できるっていうんですか?幽霊の
「確か一部上場の有名企業にお勤めだとお聞きしておりますのでこの程度の物件なら問題ないかと」
退職したとは知らないにしても定年間近でお独り様なのに思いっきりぶっ飛んだ金額のを案内するじゃない。これだと高級マンションを購入した方が安いんじゃありませんか?まったく普通に勤めてても定年とともにホームレス直行になりそうな価格帯を見せないで欲しいんですけど?老後の蓄えって言葉知らない?
「実は今日、退職しまして
酷い言い方して大家さんごめんなさい。
「職が無い、ですか・・・あそこを辞めたと言うのなら今どきの退職と言えばヘッドハンティングされたって事じゃないんですか?それじゃあもう次は決まっているんでしょう?
だったら問題なくこの辺りでイケますって」
この不動産屋はあくまで儲けを優先したいらしい。
ところが僕にはヘッドハンティングされるほどの価値が無いみたいでそんな話は全く聞こえて来ません。
ダンジョンに潜って狩りをせずに産物を拾ってくる『落穂拾い』でもして食い繋ぎながら次を探すしかないんです、それだけ拾える自信はありませんが。自己都合の退職は失業保険が貰えるのって三月掛かるんですからね?
「そんなに優秀だったらよかったんですけどね・・・とにかく転居先が決まるまで待ってもらわないと出るのは無理ですんで」
「そう言わずにここなら今日からでも入れるんですよ?即日ですよ、即日!」
不動産屋と僕の不毛な戦は、そのまま深夜までも続き決着を迎える事はありませんでした。
・・・ダンジョンへはいつ行けるんでしょう?
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