第11話 ぬるぬる

「キーキッキッキ! 感じる、感じるぞ! 同胞が生まれようとしているぅ」


 ラーレが駆けつけると、そこには人間サイズの「なめこ」にそのまま手足を付けたような、雑な感じのキノコ人間がいた。キノコ人間は、どういうわけか新たなキノコ人間が生まれるのを見に来る習性がある。

 ラーレはキノコ人間を指差し、言った。


「やい、キノコ人間。とっとと帰らないとなめこ汁にするぞ!」

「キヒッ! なんて残酷なことを言う娘だ! 私は名もない下級のキノコ人間。とても一人では戦闘用サイボーグには敵わないぃ」

「ふん、だったらとっとと消え失せるんだね。私は、今ちょっとだけ機嫌が悪いよ」

「キーキッキッキ! 一人で敵わないなら、仲間を呼ぶだけだぁ」


 すると地面が盛り上がり、モグラのキノコ獣がたくさん顔を出した。

 その数は十三匹。


「なんだ、さっきと同じやつか。こんな雑魚!」


 ラーレは右手の人差し指から光線を出し、モグラのキノコ獣を狙い撃った。だが、光線が命中する直前にモグラはスッと地下に隠れ、光線は避けられてしまった。

 驚くラーレ。

 なめこキノコ人間は、雑な感じの高笑いをした。


「ええっ?」

「キーキッキッキ! そいつらはさっきの斥候せっこうとはちがーう。『モグラ十三人衆』さ。こいつらのスピードを見切れるかなぁ?」

「このぉ!」


 ラーレはモグラ達に向かって光線を連射するが、当たる直前に素早く地面に隠れてしまい、避けられてしまう。


「キヒヒ! 今のうちに私は同胞の誕生を見届けるぜぇ」

「ま、待てぇ」


 後を追おうとするラーレの前に、モグラたちが立ち塞がる。


「うう、邪魔だよっ」


 シュン! シュン!


 素早くラーレの光線を避けるモグラたち。


「キーキッキッキ! 残像だ! せいぜいそこで遊んでいなぁ」

「ああっ、だめ! そっちは!」


 なめこキノコ人間は、一人まっすぐ手術室の方に向かって走って行った。


 ◆ ◆ ◆


 手術室の中では、静かな戦いが行われていた。

 サイボーグの中で唯一残っている人間の生身の部分。それが脳と脊髄だ。そこに寄生をされるとキノコ人間になってしまう。

 アヤメはリリの脊髄に今まさに寄生しようとしている胞子を見つけ、リリの神経が傷つかないように慎重にそれを除去していた。

 恐るべきスピードと正確性。まさに神業だ。

 だが、その手術室に忍び寄るものがいた。


「キキキッ。なんだぁ、何をしていやがる……? キヒッ? あいつ、脊髄に付いた胞子を除去していやがるのかぁ? なんて残酷なことを! 許せん」


 なめこキノコ人間はアヤメに襲い掛かろうとした。アヤメは手術に集中しており、全く気が付いていない。

 絶体絶命のピンチ!

 その時、なめこキノコ人間の前にふらりと人影が現れた。


「招かれざる者は入れぬぞ」

「キヒッ! なんだぁ、お前?」


 現れたのはモーントだった。モーントはその手に持った物を構えると、キノコ人間の頭に向かって引き金を引いた。


 ターン!


 モーントが撃ったのは、リリが持っていたライフルだった。


「キヒッ! そんな豆鉄砲がァベシッグギャボベヘッ!」


 なめこキノコ人間の頭が破裂し、あたりにぬるぬるとした液体が飛び散った。


「炸裂弾か? ふっ、今の私でも、引き金を引くくらいは出来るのだ……しかし、なんだこの、ぬるぬるは……気持ち悪い」


 ぬるぬるを残し、なめこキノコ人間の体は胞子となって消え去った。


 ◆ ◆ ◆


 一方、ラーレは光線を避け続けるモグラ達に手を焼いていた。


「ぐぬぬーっ。ムカつく! 『フレミング・フルバースト』で吹き飛ばしてやろうかなー」


 ラーレの脳裏に、上空から最大出力のビームでネズミどもを薙ぎ払った楽しい思い出がよみがえった。その時、ラーレは閃いた。


「そうか、地中に隠れるなら!」


 ラーレは高くジャンプすると、モグラ達の真上から光線を撃った。モグラ達は素早いが、その動きは地中に隠れるだけだ。上から打てば地中に隠れても逃げられない。


「とりゃー!」


 モグラ達の脳天に次々と光線を叩き込むラーレ。あっという間に、十三体のモグラのキノコ獣は胞子になって消え去った。


「はあはあ、手術室がヤバい!」


 ラーレは急いで手術室に戻った。


 ◆ ◆ ◆


 ラーレが手術室の前に行くと、そこにはぬるぬるの液体にまみれたモーントが佇んでいた。


「あれ、キノコ人間は?」

「ふっ、小娘。遅かったな」

「え、何このぬるぬる……なんか卑猥」

「小娘、そう感じるお前の心が卑猥なのだ」

「な! 違うもん。私、卑猥じゃないもん!」


 ラーレは真っ赤な顔で首を横に振った。その時、手術室から汗だくのアヤメが出てきた。


「ふーっ。終わったよ。なんだい? このぬるぬるは?」

「さあ? それよりリリは!」


 アヤメはにっこりと笑って答えた。


「大丈夫。もう差し迫った危険はないよ。大きな街でしっかりオーバーホールをしないと再発するけどね。〈エジソンシティ〉に着いたら、私が診るさ」


 野外手術室の中では、リリがスゥスゥと寝息を立てて寝ていた。それを見たラーレはポロポロと涙をこぼした。


「ああ、よかった、よかったよぉ」

「ふん」


 モーントはあたりに溜まっていたぬるぬるを手ですくいい上げ、ラーレの頭の上からそれをかけた。


「ひゃっ、何するんだ変態!」

「まあ、そう喜ぶな、小娘」

「うわぁ、あれ? なんか気持ちいかも。ぬるぬるー」

「お、おお、そうか……よかったな……」

「ふあぁー、仲良くやってくれ。じゃあ私は寝るよ」


 大手術を終えたアヤメは大きなあくびをし、その場で倒れるように眠り始めた。


 続く

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