ぺったんぺったん

@kkkkk_

第1話 ぺったんぺったん

私はよく独り言をいう。しかも年々独り言が大きくなっているような気がしている。今回は自戒の念を込めて書いてみようと思う。


あれは秋が始まろうとしていたときのこと。まだ、暑い日が続いていた。

猛暑の中、私は近所の商業施設の喫煙所に向かうために歩いていた。喫煙者の私は毎日その喫煙所でタバコを吸っている。

外にある喫煙所は、夏場はものすごく暑い。数年前まで夏場はハチが飛んできたけど、去年・今年は飛んでこない。近所の人やそこで働いている人は知っていると思う。


喫煙所へ向かう通り道、私の前を一人の女性が歩いていた。黒いワンピースを着て、左肩にトートバッグを下げている。そのトートバッグの中から、ミニチュアダックスフンドが顔を出していた。


私は犬が好きだ。犬はキョロキョロと当りの様子を見ている。その後を私は歩いている。念のために言うと、女性の後をつけているわけではない。正しい表現を使うなら、犬の尾行。犬を見ながら歩くと幸せな気分になるから。

犬の後ろを歩いていると、“ぺったん ぺったん”という小気味良い音が聞こえてきた。


女性が履いているサンダル(ビーチサンダル)から発せられる音だ。女性が歩を進めるたびに聞こえる“ぺったん ぺったん”。犬はそのリズムを心地よさそうに聞いている(多分、そうだと思う)。


私はサンダルの“ぺったん ぺったん”サウンドに合わせて口ずさむ。


「ぺったん ぺったん ぺったん ぺったん」


犬を見ながら、私は「ぺったん ぺったん」を口ずさむ。

しばらくすると、“ぺったん ぺったん”に変化があった。女性の歩みが早くなったのだ。


“ぺたっ ぺたっ ぺたっ”


私は口ずさむリズムを変化させる。


「ぺたっ ぺたっ ぺたっ」


女性のサンダルの“ぺたっ”と私の口ずさむ「ぺたっ」が見事にシンクロする。

サンダルの音が早まるに伴って、私の気分は上がっていく。


さらに歩くと、サンダルのリズムが変化する。


“ぺた ぺた ぺた ぺた”


女性の歩みがさらに早くなったのだ。私の口から発せられるサウンドにも変化が生じる。


「ぺた ぺた ぺた ぺた」


「ぺた ぺた ぺた」と口ずさみながら犬を持った女性の後を歩く私。

しばらくすると女性が立ち止まった。


ここで立ち止まると不自然だから、無言のまま犬と女性をやり過ごす私。

女性を追い越す際、サングラス越しに私は視線を感じた。

私もサングラスをしているから、お互いに表情は読み取れない。

でも、女性が私のことを睨んでいるように感じた。


――「ぺったん」が聞こえてたかな??



***


その女性が家に帰ってからの会話を想像してみよう。


「ちょっと、聞いてよ!」

「どうしたの?」

「さっき、〇〇プレイスを歩いてたら、ぺったんオジサンが後ろをつけてきた」

「ぺったんオジサン?」

「私のサンダルの“ぺったん”に合わせて、オジサンが「ぺったん」って言うの」

「へー」

「私が早歩きしてサンダルの“ぺた”になったら、オジサンは「ぺた」に変えてくるのよー」

「次、ぺったんオジサンに会ったら、警察に言いなよ」


※すぐ近くに交番があります。


きっとこういう会話がその女性の家でなされている。

私(ぺったんオジサン)は警察に捕まらないために、今後「ぺったん」を自重しなければならないだろう。


【今日の教訓】

独り言は人に聞こえない音量で!

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