うまれかわれるなら。

第1話

 僕とあきらは一卵性の双子だ。付き合いの長い友人ですら時々間違うほど、僕らはよく似ている。

 違うところがあるとすれば、僕の方が少しだけ頭がよくて、明のほうが少しだけ明るい性格をしている。そんなところだ。

 僕らは、何事においても競いあってきた。足の速さ、食べるご飯の量、成績、チョコレートの数……。とにかく何でも。

 もちろん、僕のほうがテストの点は高かったし、おんなじ見た目でも人当たりのいい明のほうが、女の子から告白される回数が多かった。

 産まれた時からずうっと一緒。僕は僕でもあり、そして明でもある。明は明でもあり、そして僕でもある。一心同体、鏡のような存在で、僕達は特別だった。

 僕と明は二人とも医療の道をこころざし、同じ大学に進学。戦友のように切磋琢磨しあいながら過ごしていた。

 転機が訪れたのは、大学三年の頃。

 見解や知識を広めるために、教授から短期留学を勧められた。『君たちは成績も良いし、一度医療最先端の中で医学を学んでおいで』と、大学のプログラムに推薦してくれた。

 こうして僕らは、デンマークに三ヶ月間渡った。

 まず驚いたことが、デンマークは同性婚が認められているということ。人類存続の観点でいえば異質極まりない行為。しかし、ごく自然なことのように彼らはパートナーを愛していた。

 雰囲気にあてられたと言われれば、そうなのかもしれない。けれども、元々僕らは互いを特別視していたし、愛情のベクトルが少しズレただけなのだ。

 とはいえ、同性婚は認められても近親婚はまた話が別だ。

 僕らは、秘密裏に関係を深めていった。


さとる、双子にまつわるこんな話を知ってるか?」

 腹の上に吐き出された愛欲をタオルで拭き取っているとき、ピロウトークとは違ったなんでもないような口調で明が問いかけてきた。

「前世で結ばれなかった恋人同士を、憐れに思った神様が、今世ではずっと一緒にいられるようにって、双子に生まれ変わらせるんだって」

 僕はベッド下に投げ捨てられたシャツを拾い上げながら、「生まれ変わりなんて、医学とかけ離れた観点だな」と鼻で笑った。

「はは、たしかに」

 明は可笑しそうに目を細める。

「でもさ、そんなこと言ったら、僕らなんて異質も異質だよね。兄弟だし、同性だし、だけど愛しあってる」

「……そうだな」

 すっかり着替え終え、僕はまだシーツに包まれたままの明を振り返った。ベッドに腰をおろした僕の背中に、明は手のひらを添わせる。

「ねえ、聡」

「ん?」

「今世で結ばれなかった双子は、来世でどうなるんだろうね」

 曇りのない、星空のような瞳が僕を真っ直ぐに見つめた。



 人間を包丁で刺すとき、よく「ゴムのような感覚」なんて言うけれど、案外一発目はサクリといけた。

 二発目になると溢れ出た血がぬるついて、グリップを握る手が滑ってしまい、狙ったところを刺せなかった。なので、服で手を拭い、それからもう一度明の身体を突き刺す。柔い腹部とは違い、骨が邪魔で抜くのにもたついた。

 何度も。

 何度も。

 何度も。

 僕は明の身体に刃を突き立てる。

 声も出さずに耐えていた明は、やがてビクビクと全身を痙攣させはじめた。

 刺す手をとめて、明をじっと見つめる。とうとう動かなくなった。

「明……」

 一糸まとわぬ、ずぶずぶに醜い姿となった明。

 それすらも神秘的なものに思えて、僕は明の唇にキスを落とす。

 包丁をいったんその場に置き、明の身体を抱えて浴室に向かう。事前にお湯をためておいた浴槽に明を沈めると、途端に溢れ出た薄桃色のお湯。

 服を脱ぎながら包丁を取りに行き、もう一度浴室に戻る。僕も浴槽にゆっくりと浸かり、そして包丁を己の首筋にあてた。

「これで、来世では結ばれるよな。明……」


 ――神様が憐れんでくれるように、めいいっぱい悲劇的な死に様で。

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