弱キャラこじらせ黒崎くんの二度目の青春

相沢 たける

プロローグ

 おれの青春は真っ黒に塗りつぶされていた。真っ黒だ。思い出したくもない。


 いや、塗りつぶしたのはおれだ。

 高校デビューに失敗して、おれは文字通り黒歴史を刻むことになった。


「…………はぁ」


 おれはため息をつく。

 一応、原稿は完成した。

 題名は『ようこそ神崎くん、我らが学園生活改善部へ!』だ。

 ちょっと古くさすぎたか?


 おれが書いたのは、いわゆる日常系ラブコメだった。

 今のラノベ市場じゃあまり見かけない。昔はこの手のラブコメ作品が流行ったものだが。

 生徒会シリーズとかな。


「……うわぁ、やらかしたか? これ今のラノベ編集者に見て貰えるか?」


 頭を抱える。

 とりあえず推敲し、新人賞に送った。


 ベランダに出て、タバコをふかす。

 あぁ。

 おれもおっさんになっちまったな。

 二十四歳。実家暮らし。

 来年の一月で二十五歳になる。

 なにをやってんだか。


 おれはいわゆるラノベワナビだった。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 大学を卒業。無事就職が決まったはいいものの、持ち前の要領の悪さから、同僚から、上司から、徹底的ないじめを受ける毎日。

 精神科に行ったら、うつ病と言われた。

 けっきょく仕事は辞めて、ラノベワナビに無事転職を決めたというわけだ。


 あはは。

 言っちまえばニートである。なにやってんだか。

 ラノベはもともと好きだった。

 いつかラノベ作家になれたらいいなと思ってた。


 だが、二年間で書き上げた十作品のうち、一次選考を通過したのはたったの二作。

 まぁ。まぁまぁか。一次通過できたんならいいじゃん、って思う奴もいるかもな。

 だが遠い。あまりにも遠すぎる。


 おれは世間からすれば、いわゆる子ども部屋おじさん、ってところだな。

 痛い。痛いぜ。だが就職して、また同じ目に遭うのは、はっきり言って怖い。

 べつの見方をすれば、夢追い人、って捉え方もある。


 ……はぁ。

 女々しいな。

 考えてることすべてが女々しい。




 高校デビュー。最初はよかった。

 おれは野球部へと入った。

 ボウズにしなくてもいい野球部だった。


 だから野球部は、なかなかに爽やか系な部活動として、うちの高校では定着していた。

 そういう訳あって、おれは野球部に入ったのだが。

 たいへんだった。なにせ周りは中学まで野球やってた奴ばかりだったからな。

 おれは初心者だったのだ。


 いやなんで、高校デビューで野球部入ったんだよ、と突っ込む向きもあるだろうが、おれの高校では一番野球部の奴がモテたからだ。

 なんて、低俗な理由なのだろう。くそったれ。当時の自分を殴りつけてやりたい。


 おれはバカだった。

 うまい奴がモテるのだ。

 おれはけっきょく、ベンチ入りまではできた。


 下手と言うほどではなかった。むしろ高校から始めたにしては、うまい方と言われた。

 だがあくまでも、高校から始めたとしては、だ。もちろんレギュラーにはなれなかった。

 控え選手だ。ポジションはファースト。




 レギュラーだったファーストは、おれと三年間同じクラスだった。

 つまりおれと同じ学年で、奴は一年からレギュラーをはってた。

 すげぇよな。本当にすげぇ。


 あいつは体がデカかったし、いわゆるカーストのトップにいるような人間だった。

 おれは最初こそあいつの友達でいた。

 ケドだんだんと、離れていった。


 レギュラーと控え。

 その壁が、おれとそいつの友達としての壁になっちまった。

 けっきょく、疎遠になった。

 おれはそのあと、クラスのどこのグループに入ればいいかわからず、孤立。


 孤高の人、とも呼ばれたが、内心は寂しくてしょうがなかった。

 できることならもう一回高校生活に戻りたい。

 正直後悔しかない。

 だが失った時間は、もう元には戻らない。


 おれにできることがあるとすれば、それは次の新作に向けて、設定を練ることだ。

 最近の文庫ラノベはラブコメが一強だから、まぁラブコメを書くことにはなるだろう。


「………………………………はぁ」


 なんか惨めになってきた。

 タバコを灰皿に押しつけ、火を消した。


「歯磨いて寝るか」


 今日くらいはいい夢を見させてくれよ。

 そう神に祈る。

 ラブコメの神さまとか、昔のラノベでは流行ったよな。


 そうだ、あれはおれがちょうど高校生くらいの時だった。

 泣ける。

 もうそんな時が経ったのか。


 今のラノベ市場で、ラブコメの神さまが出てくる作品なんて、皆無に等しい。

 そんな時が経ったのか。

 おれはつまらない感傷に浸り、今夜は眠ることにした。

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