社会不適合者

徳田雄一

社会不適合者

「お前は社会不適合者になんかなるなよ」


 中学三年生の夏、初めて口下手でいつも温厚で静かな父から言われた言葉だった。


「社会不適合者……?」

「なるな。そんなものには」

「なにそれ」

「言葉の意味を調べなさい」

「は、はい」


 言葉の意味全てを教えてくれる訳では無かった。俺は自分が持つ全ての力で社会不適合者という言葉を調べた。と言ってもスマートフォンで調べただけだが。


 社会不適合者とは、協調性がなく社会に馴染めない人の事と書いていた。父親から発せられたこんな物になるなよと言うメッセージ。思わずキレそうになる。


 自分がなるわけないだろうと思っていたからだ。


 そこから数年後、高校を卒業して初めての就職。初めての勤め先は色々な企画などを作成し、それを他社と組み実行するという所謂企画制作会社だった。


 俺は自分が協調性があって、沢山の企画を通すことが出来るだろうと自惚れていた。


 だが現実は甘くなかった。


「いや君ね、こんな企画通らないから」

「は、はい。組み直します」

「うん。他の先輩とかにちゃんと聞きなよ」

「はい。失礼いたします」


 仕事を始めてからというものの、どんどんと周りの人との力の差が浮き彫りとなりコミュニケーションを取るのが難しくなっていった。周りの同期入社の人間たちは先輩や上司たちとどんどん絡んでいく。


 俺は全く馴染めずに居た。ふと頭によぎるのは社会不適合者という言葉。


 そんなものになりたくないと一生懸命働いていたが徐々に自分の力のなさ、協調性のなさ、そして上司から指摘される事への恐怖が増していった。


 ☆☆☆


「おいお前」

「は、はい」

「あのなぁ。」


 ガミガミ言われているのは分かっていた。だが話が全く入ってこない。なんで自分が怒られているのかも分からない。会話のキャッチボールが出来なくなってきていた。


「……会社辞めさせていただきます」

「なっ?!」

「失礼いたします」


 辞表を机に叩きつけて帰る。早く帰ったこと、そして仕事を辞めたことを言うと母親は目を丸くし怒る。父はこうなることが分かっていたのか何も言わなかった。


 この日から俺はニートとなった。


 ゲーム三昧。自分本位の世界はとても過ごしやすかった。仕事をしなければという考えはどこぞへと消え去っていた。


「あぁ。これが社会不適合者か」


 極端な例が自分なのだろうと言うのは分かっていたが、あまりにも自分にピッタリな言葉で思わず笑ってしまっていた。


 SNSを見れば周りはウキウキ遊んでいた。あの頃はこのクラスメイトよりも自分の方が輝いていたのになんて思う日々にも嫌気がさしてきていた。


 そんな時父が痺れを切らしたのか俺の部屋に突撃してくる。


「開けろ!」


 いつも温厚な父親がキレていた。


「は、はい」

「……社会不適合者になんかなるなと言っただろう!」

「……ぼくはべつ」

「あ?」

「ひっ」

「……もういい。出ていけ!」

「え?」

「もうお前に家に居る資格はない!」

「いやでも、仕事探すから!」

「……1ヶ月だ。1ヶ月だけな」

「わかりました」


 1ヶ月しかないことに焦りを感じ急いでハローワークに向かった。ハローワークでは優しく仕事を探す手伝いをしてもらったが、人と関わりたくないせいか全く見つからなかった。


 ☆☆☆


「期限だぞ」


 社会不適合者の末路。極端な例だろうが俺は結局家を追い出され、ホームレスとなった。


 世の中社会不適合者に溢れている。そんな中で頑張れない自分に嫌気がさして、俺はマンションの屋上、靴を脱ぎ、飛んだ。

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社会不適合者 徳田雄一 @kumosaki

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